第五章 - 呪詛 -

 何故だ。

 何故、俺がこんな目に合わなければならない。

 俺は病でも、呪いなんかにもかかっていない。

 なのに何でこんな場所に閉じ込められる。


 あの女のせいか。

 黄色い女。幽霊みたいに透き通っていた。

 怖くなって逃げ出した。


 家に帰ったら、誰もが俺を見て驚いた。

 水面で自分の顔を見た。

 髪も目も色が変わっちまっていた。




 シュトはタイカを凝視した。

 油燈ランタンの灯に照らされたタイカの顔には、沈痛な思いが感じ取れた。


「続けて」


 口を止めたタイカに、シュトが先を促す。

 タイカはシュトには、聞かせたくないようだった。だが、シュトはそれを拒否した。


 黄色い女。

 それは恐らく、土地の精霊だろう。

 土地の精霊と邂逅し髪と瞳を変化させた。


 この死体は《はふり》だった。


 同じ《はふり》の末路を知るべきなのだと、シュトは思った。




 体調も悪くない。病などかかっていない。

 なのに、誰もが俺を恐れた。

 異形だと。

 呪われたのだと。

 俺は何もしてない。毎日、真面目に畑を耕していただけだ。

 人をだましたこともない。親だって最期まで面倒を見た。

 出来た孝行息子だと。皆、褒めてくれていたではないか。

 それなのに、何故。


 とうとう、牢に閉じ込められた。

 触れるのも嫌だと、棒で叩かれ、追い立てられた。

 どうして。


 あの女のせいか。

 あの女が、俺に呪いをかけたのか。

 なんで俺なんだ。

 他にもっと悪人もいたろうに。

 それとも俺は、何か罪を犯したのか。

 なら、教えてくれ。




 タイカが、シュトを見る。

 シュトは自分の頬に触れた。恐らく、蒼ざめていることだろう。

 シュトたちを案内してきた何か。隅で固まっていたその何かが、身じろぎしたような気がした。

 あれの正体は、おそらく。


「お願い。続けて」


 シュトが、続きを促した。




 牢に閉じ込められて何日が過ぎたろう。

 暗い土倉の中では、今が夜なのか昼かも分からない。

 食事や水を運んでくる間隔も段々と長くなっているような気がする。


 村長が来た。

 お前のせいだ、と罵られた。

 作物が育たないのだと。

 殺してやりたい、と言ってきた。

 だが、手は出してこなかった。

 怖いのか。

 俺を殺したら、今度は呪いがお前に降りかかるのが。


 誰も来なくなった。

 壁や地面に生えている草を食ってみたが、そんなものじゃ腹も満たせない。

 喉が渇く。

 いたい。


 水が飲みたい。


 おれが何をした。


 なんで、おれなんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る