第四章 - 廃屋 -

 それは、シュトの油燈ランタンの明かりが届くか届かないかの距離をとって、動いてるようだった。


 明るい場所にいようがいまいがシュトには見えないのだが、暗がりに気配が移動すると、反射的に体を強張らせてしまう。

 そのたびにタイカが軽く肩に触れ、緊張を解してくれる。

 情けないと思いつつ、ほっとする。

 そんなことを何回が繰り返しているうちに、それは村外れの廃屋の中へ入っていった。

 扉はない。横に倒れている。

 中を覗く。中は空である。机や棚の類もない。

 シュトが油燈を掲げる。床に四角い穴がある。階段のようなものが見えた。

 気配は、階段を沈んでいく。

 シュトとタイカがお互いの顔を見る。頷き合うと、階段へと歩みを進めた。




 階段の下は、土倉になっていた。

 窓もない。崩れかけた土壁が、暗闇も相まって押し包んでくるような圧迫感がある。

 土倉は、柵で仕切られていた。柵の向こうには。


 死体があった。


 油燈ランタンの光に白骨が鈍く反射している。それなりの年月が経っているのだろう。肉は残っていない。

 身にまとっていた服もほつれ、襤褸になっている。

 シュトが再度、油燈ランタンを高く掲げた。土倉の壁が照らされる。


「あれを」


 タイカが指差した壁。そこには、何かが記されていた。

 土壁を削って、文字が記載されていたのだ。

 よく見ると、死体の手元に尖った石が転がっている。


「読めるの」


 シュトがタイカに尋ねる。タイカは頷いた。

 タイカの目が文字を追う。黙って読み続けるタイカに、シュトが問いかける。


「私にも、聞かせて」


 シュトは文字を学んでいる最中だった。整った簡単な文字なら読めるが、壁の文字は闇の中で書き綴ったのか、ひどく変形している。文章らしき羅列になっているから、かろうじて文字と判別できる程度だ。

 シュトの願いに、タイカが戸惑いの表情を浮かべた。


「教えて」


 再度、シュトが強く言う。タイカは幾分躊躇った後、口を開いた。

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