第六話 祝呪の彼岸

第一章 - 廃村 -

 森を抜けた先は、廃墟だった。


 朽ちた家々。雑草や、低木すら生え始めている畑。

 人の気配がない、廃村だった。


「人がいなくなって、かなりの年月が経っているようだね」


 まずは外周を回ってみようと、タイカは提案した。

 シュトは頷く。何故いきなり村の中へ入らないかは分からないが、何か理由があるのだろう。

 森と村の境を、ふたりが巡った。




 大丈夫そうだ。


 タイカがそう呟き、息を吐いた。白い。もう日も傾きかけている。


「何が大丈夫なの」


 シュトがタイカに尋ねた。タイカが村のあちこちを見ながら歩いていたのは分かっていたが、集中しているようなので、途中で話しかけるのは遠慮していたのだ。


「まず死体かな」


 いきなり驚くような事を言う。幾分、引いたような表情を見せてしまったのだろう。タイカが取り繕うに続けた。


「死体が道端に転がっているようなことがないかだよ。獣や野盗に襲われたりしたのなら、死体やその残骸が、残っているはずだからね」


 でも、そのようなものはなかったとタイカは言う。


「それに墓場。家の数に対して、少し墓の数が多いように感じたけど、極端なものではない」


 村に病が流行って全滅した、ということもなさそうだ。そうタイカは説明した。


「でも、病気が皆に一斉にかかったら、誰もお墓なんて作れないんじゃないかな」


 家の中で、皆死んでしまっているのかも。そうシュトは考えた。


「そうだね。でもそんな強い病の場合、皆恐れてその家ごと燃やしてしまうかもしれない」


 またタイカが恐ろしいことを言う。だが、シュトも否定しない。そのような習慣があることを、タイカから聞いていた。


「でも燃え跡のような家もない。それに、家の中に人が居たまま死んだのなら、その屍肉を狙って獣が入りこんでくるだろう。それに病の気配を感じて獣がよってこなくても、死体が腐り、壁を腐食したりして酷い状態になることが多いのだけど」


 タイカが指差した家々は、風雨によって外から崩れているように見える。


「何か事情があって、村を捨てたのではないかな」

 と、タイカは結論付けた。


「どうして村を捨てたの」


 シュトはタイカに尋ねてみた。


「それは私にも分からないよ」


 タイカが首を振った。

 だけど、とタイカが続けた。


「この村は、静か過ぎるね」

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