終章 - 真相 -
犯人はツイキ。
そう決着がついた。
タイカたちは長老や自警団の団長らから謝罪を受けたが、その日のうちに村を出た。
お詫びにと、かなりの油を貰うことができた。上質な油だった。
「助かったよ」
村から離れた森の中。沢を見つけ、水の補給がてらの休憩中に、タイカがシュトに笑いかけた。
村外れの話を盗み聞きしていたことかな。シュトはそう思った。
「あれ、タイカが示し合わせたのだと思った。だから場所も決めてたんじゃないの」
そこまで神通力も予見の力もないよ、とタイカは言い、しかし言葉を続ける。
「犯人はあの主人の甥御さんだとは分かっていたけど」
それなら、十分神通力と言っていい。
「どうして分かったの?」
「土地の精霊が教えてくれた」
土地の精霊が、昨晩腰に剣を佩いた若者が宿から逃げて行ったことを教えてくれたのだ。
剣など暗くてシュトには見えなかったが、精霊の目なら闇など関係ない。そしてあの村には、剣を所持している若者といえば、ツイキしかいない。
「でも殺した理由が分からなかった。まずは理由と、本当に殺したか確証が欲しかった」
それから無実を証明しようと思ったけど、あっという間に解決してしまった。
肩をすくめるタイカに頷いたシュトだが、まだ納得しきれない部分がある。
「でも、何で私たちを信じてくれたの? あのツイキとかいう人は村人で、武器を持って歩いているくらい村では信頼されていたのでしょ。私たちは余所者で、タイカの言っていた権威とかいうものもないのに」
「権威は出来たよ。シュトが火で私を守ってくれた時にね」
どういうことか。シュトには理解が追いつかない。
「火の精霊を見て、私たちが恐ろしくなったんだと思うよ。正直、ツイキが犯人ということにして、私たちと関わることを早々に止めたかったんだろう」
そして早々に退散して欲しかった。自分たちが崇める祖先の霊ではない、未知の超常。
だから村中からかき集めた油から上等なものを選んで渡した。詫びの品というより、供物として。
「権威って怖がられるものなのかな?」
「そういう一面もあるということだよ。恐ろしい相手を害したり戦いを挑んだりはしないだろう」
遠い記憶になりつつある、奴隷だった頃を思い出す。確かに主人や、自分をさらった男たちは恐ろしくて、戦おうなんて思わなかった。
「宿の主人は相当悪どいことをしていたみたいだし、あの甥御さんも何か重い労役で罰せられる程度で済むんじゃないかな」
ふうん、とシュトが応じる。既に去った村のことだ。あまり気にならない。
「私たちが、自分たちを害そうとした人がその程度の罰なのかと、怒らないかと心配もしていたんだろうね。厳罰を与えますから、と何度も言っていたけど、具体的にどんな罰を与えるかは言ってなかった」
不意に、タイキが真剣な表情になる。
これは説教になるかなと、シュトは思った。
「助けてくれたのは感謝しているよ。だけど最後、火の精霊を出したのは良くない」
説教だった。
「危ない真似は避けて欲しいんだ。前の砦の時も、今回も何とかはなったけど、化け物扱いされて袋叩きにあう可能性だってあった」
タイカだって、精霊の力を借りているではないか。犯人を教えて貰っている。村外れでツイキの足を土に沈めたのも、土地の精霊の仕業だろう。
それにシュトを導いた、あの気配。
あれこそ、あの土地の精霊なのだろう。
あの場に、シュリたちが都合よく居なければ、こうも早く事件は解決しなかった。
だが、それらをタイカが精霊に頼んだ様子はない。精霊が進んで、望んで助けに入っているようにも思える。
《
なのに、タイカは色々な土地の精霊と関わり、精霊たちはタイカを助けようとしてくる。
何者なのだろう、このひとは。
「聞いているのかい?」
やや尖った調子でタイカが言う。これはかなり怒っている。
「ごめんなさい」
素直に謝った。このひとは恩人だ。一緒にいると色々なことも学べる。
いずれこのひとのことも分かってくるだろう。
シュトはそう思うことにした。
── 第五話 了 ──
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