対決! プラン王

「一つ、ルールを決めておこう」

「ルール?」

「我の能力の発動条件を見破り、打ち破ればお主の勝ちとする!」


 玉座の前で仁王立ちをし、プラン王は高らかに笑う。クレイはつられてニッと笑い、釘バットを強く右手に握り込んだ。


「殺す気で来て欲しいんじゃなかったのか?」

「殺す気で暴いてみよ! ということじゃ!」

「おっけー、面白そうだ!」

「では……参るぞ!」

「ああ、行くぞ……ヤタガラス!」


 クレイが叫ぶと、彼の周囲を黒いモヤが包みこんだ。瞳が赤く染まり、顔つきも変わっていた。戦いを心の底から楽しむような、歪みを感じさせる満面の笑みだ。


 相変わらず仁王立ちを続けるプラン王に、踏み込み、一閃。プラン王の周囲を包み込む影に弾かれ、その勢いを利用して背後に跳躍。眼前に迫る氷柱を砕く。


「確か王は全員悪魔と同じだったか」

『違うなァ……奴らは古の神だ』

「その通りじゃ!」


 プラン王の周囲に無数の石柱が突如として現れた。一斉に自身に向かって飛んでくるドリルのような石柱を次々と弾き、躱し、しかし全ていなし切れず、数発腕と足に刺さる。痛みにうめき声を上げ、顔をしかめながら光の矢を飛ばすも、全て彼の眼前まで迫った後、軌道が逸れ、壁に刺さってしまった。


(今の……変だな)


「まだまだこんなもんじゃないじゃろ!」

「当然だァ!」

『左腕もらうぜ!』


 ヤタガラスがクレイの左腕を操り、腕を前に突き出した。クレイはそのまま床を蹴り、前方に跳躍。突如、クレイの左腕に炎が纏う。炎が腕から掌に集約した。


天上大御神の吐息!ソル・ソスピロ


 クレイの左手から炎が放たれる。炎は瞬く間に大きくなり青色に変わり、意志を持つ龍のようにうねり、依然として仁王立ちするプラン王へと向かっていった。同時にさらに踏み込む。


 釘バットを振り抜く。同時に、プラン王を龍が飲み込み、釘バットがプラン王に命中した。


 かのように思えた。


「ガッハッハー! 面白い! 面白いぞ!」


 滄炎の龍はプラン王を飲み込んだように見えたが、龍は消え、プラン王だけがその場に残っている。釘バットも弾かれ、クレイは体勢を大きく崩した。


「クソ、何に弾かれたんだ……」

「褒美じゃ。ヒントを明かそう!」


 プラン王は言いながら拳を振り抜く。クレイの腹に拳がめり込み、クレイは反発する磁石のようにプラン王とは反対側の壁に叩きつけられた。


「我のスキルは王の気位……条件次第で一切の攻撃を寄せ付けん能力じゃ!」

「な……クソ、それでさっきの勝利条件か!」

『巫山戯やがってよォ』


 クレイは痛む体にムチを打ち、立ち上がる。相変わらず仁王立ちを続けるプラン王の周囲を注意深く観察した。この部屋には玉座以外には、カメラという異世界からの漂流物しかない。何か能力を発動させる特別な装置があるようには、見えなかった。


「よくよく観察するがいいぞ! ガーッハッハー!」


 そう言いながら飛ばしてきた石柱と氷柱を撃ち落とし、左腕の炎で溶かしながら、クレイは部屋中を駆け回る。壁にドレインフラワーを張り巡らせようとしたが、ドレインフラワーは壁を通らなかった。


「特殊な金属で出来ておる! 茨は仕込めないものと思え!」


 得意技を封じられ、注意深く彼を観察する。その間も、ずっとプラン王の魔法攻撃が止まらなかった。雷を躱し、天井から降り注ぐ影の刃を打ち払い、眼前に迫る石柱を打ち砕く。


 ふと、プラン王が玉座の前から一歩も動いていないのが気にかかった。


 (あいつ、どうしてずっとあそこに……王の気位。まさかな)


『思いついたんならなんでも試しやがれ! 長くは持たねェぞ!』

「……そうだな!」


 クレイは眼前に迫った巨大な岩にドレインフラワーの蔓を巻き付け、床に叩きつける。反動を利用して高く跳躍し、釘バットを思い切り放り投げた。すかさず右手から光の矢を、左手から滄炎を飛ばす。狙ったのはプラン……ではなく、背後の玉座だった。


 光の矢がプラン王の剣に弾かれ、滄炎が影により受け止められ、殺される。


 しかし、釘バットは確かに玉座に突き刺さった。


「お試しだ!」


 十本の光の矢を融合させ、回転をつけ、思い切り振り絞る。プラン王めがけて発射。すると光の矢は軌道を変えず、プラン王の右腕を貫いた。


「……勝負あったようじゃな」

「ということは……」

「我のスキル王の気位は、玉座の前でのみ効果を発動するなんとも使いにくい代物でのう」


 (本当に使いにくいな)


 痛む全身を庇うようにして立ち、みるみるうちに塞がっていくプラン王の傷を凝視する。最後に攻撃を受けたのは、彼の温情か何かなのだろうとクレイは思った。本来ならば躱せていたはずの攻撃だ。回復能力があるのをよいことに、勝者への褒美としたのだろう。


「クレくん!」


 駆け寄るルネの肩に体を預け、クレイは斜めの視界でプラン王を見た。


 相変わらず、ガッハッハと笑っている。


「異形との連携、恐れ入ったぞ!」

「へっ、よく言うよ」

『巫山戯た野郎だぜ……』


 ヤタガラスが休眠に入ったのを心で感じながら、クレイは床に倒れた。


「あー! もう! クソ能力過ぎるだろ!」

「我もそう思う」

「玉座を持ち運べば無敵なんじゃー?」

「かような重く巨大な代物、持ち運んで旅するのは御免じゃ」

「それはそう」


 クレイは途端にたまらなくおかしくなり、大声をあげて笑う。しばらくの間、玉座の間とは名ばかりの闘技場にクレイとプラン王の笑い声だけが響いた。

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