師と弟子
精霊洞窟から出ると、目の前に長い黒髪を高く括ったゴールデンポニーテールの女が立っていた。その女の顔は精悍なようにも、だらしがないようにも見える。顔に眩しいばかりの光が当たり、笑顔が輝いていた。胸を大きく放りだしたようなタイトな服に身を包むその女を見て、クレイは目を見開く。
「よっ! 少年!」
声をかけてきたその女は、クレイの師匠・スファレだった。クレイに戦い方を教え、冒険譚を聞かせたお姉さん。最後に会ったときから幾分か年を取ったように見えたが、見間違えるわけはなかった。
「なんで師匠がここに?」
「え、お姉さん!?」
「なんだ、この人が例のお師匠さんか? ヒューッ! 超美人じゃねえか!」
フリントが口笛を鳴らすと、スファレが「ハハハッ」と笑う。
「あと、俺はもう青年じゃない」
「そうだな、そうだ。もう青年だな、レイ君」
「たく……」
左手で頭を掻きながら息を漏らす。
しかし、右手では釘バットを握っていた。ルネも距離を取り、セレンも杖を構えている。フリントだけが戦闘態勢を取らず、彼女をただ眺めているのをマイカが突っついた。カーネリアンは今にも駆け出し、彼女を殴りそうな気迫を放っている。
「おっと、どうしたんだ? そんなに警戒して。そこの魔族なんか今にも私を殺しそうだ」
「それはこっちのセリフですよ師匠。久々の再開なのに、なんでそんなに殺気を放ってるんですかね」
クレイが問うと、スファレは胸を揺らしながら大きな笑い声をあげた。
「成長したな、レイ君」
「で、どうして弟子に殺気を向けるのかしら?」
セレンの声に、目の前で殺気を放っている師匠は短く息を吐いて、クレイのポケットを指した。
「その鍵をいただこう」
「なんであなたが鍵なん――」
クレイが言い終える前に、ナイフが眼前に迫る。慌てて釘バットではたき落とすも、次々とナイフが飛んできた。仲間たちが次々にうめき声をあげ、倒れていく。
「セレン! マイカ! フリント!」
「ちっ……なんだありゃ?」
「なんもないとこからナイフが飛んできたんだけど」
「あの人、何も動いてなかったわ」
三人とも、倒れてはいるが命に別状はないようだった。見ると、全員両腕両足から血を流している。命に別状はないとはいえ、このまま長引けば失血死する可能性がある。クレイは釘バットを強く握り直し、大きく息を吸った。
「早速悪いが、力を貸せ!」
『お前マジで早ェよ。ま、選択肢は無ェわな!』
脳内に声が響いた瞬間、クレイの目が赤く染まった。体の周囲には、黒いモヤのような影が流れている。
「へぇ……そういうこと」
「さァ! 再会を噛み締めようぜ! お師匠さんよォ!」
駆け出した瞬間、眼前に無数のナイフ。右手の釘バットで体をかばいながら、左手の光の剣で弾き落とす。ヤタガラスが作った剣をスファレに投げると、彼女は身を翻した。瞬間、ナイフの奔流に隙間が生まれる。一気に駆け出し距離を詰め、両腕同時に一閃。
しかし、目の前に盾が現れ防がれた。
『おい、あれどうなってんだ?』
「彼女のスキルはクリエイト……それもレベルマックスだ」
クリエイトは、武器を生み出すことができるスキルだ。レベルが上になるごとに生み出せる武器の種類が増えていく。レベル五ともなれば、スキル所持者が見聞きしたことがある全ての武器を生み出せるうえ、自由自在に操れるようになる。クレイには、勝てるはずもない相手である。無論、彼に負ける気などはないが、クレイは体の震えを抑えられなかった。
着地した彼女が剣を生み出し、至近距離で振るう。クレイは身を捩って躱しながら、光の矢を放った。弾かれたような金属音が鳴り響くと共に、矢に足が刺さる。苦悶の表情を浮かべながら、クレイは一度距離を取って光の矢で牽制。ドレインフラワーを地中に忍ばせる。
しかし、その次の瞬間、意識がぐにゃりと歪んだ。
「な……毒?」
そのまま、地面に吸い込まれるように倒れる。
「……! クレくん!」
「鍵は、これか……。カーネリアン、こいつらを街へ運んでやれ」
「なぜ儂の名を――」
「またね、弟子君とその仲間たち」
その声を最後に、クレイの意識が閉じた。
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