新たな仲間スーパーバット君
エル歴千年 五月十九日 午前。
クレイとルネが宿を出ると、眩しい朝の日差しが目を突き刺す。クレイは思わず一瞬目を瞑り、また開けたときには昨晩とは正反対の静かな通りが目に入った。冒険者ギルド前広場を挟んでギルドの向かいにある宿屋から見える広場には、昨晩のような喧騒はない。あるのは、人がまばらに歩きながら静かに話をする日常だった。
しかし、そんな中に目の下にクマを作りながらも、爛々と目を輝かせている女が一人。
「どうしたお前、なんか凄いぞ、顔が」
「できたわよ!」
「あー! バット君!」
セレンが浅葱色のポーチから取り出したのは、鉄の翼の生えたガラス玉・バット君だった。彼女がバット君にマナを籠めると、バット君の翼が赤く輝き、羽ばたき、宙に浮く。
「おー! すごいすごい!」
「修理できたのか!」
「修理? それどころかアップデートしてやったわ!」
セレンがバット君を抱きかかえ、愛おしそうにガラス玉を撫でる。
「なんと! 籠めたマナと違う種類のマナでも追従できるのよ!」
「え、すげえな」
「冷静に考えたら陰のマナを扱える人いなかったからね!」
クレイがハッと口を覆った。
陰のマナは、自然界には存在しない。陰魔法を使うのに必要ではあるが、その源泉となるのは使用者の薄暗い感情だ。絶望、失望、嘆き、そのような感情を源泉として陰魔法が放たれる。感情とマナには相互関係がある。人間が魔法を使うとき、対応するマナを自身の感情から無意識に抽出して放つ。
個々人が抽出できる感情は決まっていて、それが各人が使える魔法の属性になるのだ。
しかし、全ての感情をマナとして変換し魔法にして放つことができるのは、悪魔以外にいない。そして、悪魔以外に陰魔法使いはいない。それがこの世界のルールだった。
クレイはそのことをすっかりと忘れていた。
「仕組みは簡単! バット君を抱きかかえながら各マナに対応する感情を思い描くの」
セレンがむむむと唸ると、バット君の光の色が赤から黒に変化した。
「これで陰魔法のマナを追うモードに切り替わったわ」
「……すごすぎて言葉が出ないなあ」
「バット君改め、スーパーバット君よ! よろしく!」
「テンション高いねー」
「徹夜明けなのよ!」
セレンの中性的な声が、朝の広場にこだまする。人が少ない分、その声は拡声器でも使ったのかというくらいに大きく聞こえる。その声に釣られたようにして、フリントとマイカが目をこすりながらギルドから出てきた。
「おい中まで声響いてんぞ」
「朝っぱらから元気だねー、セレっち」
「イカちゃんあんた、あたしが作業してるのによく寝れたわね」
「イカちゃん……?」
フリントが目を細める。いつの間に仲良くなったのか、二人の距離はクレイの目から見ても近いように見えた。今もセレンがマイカの脇腹を小突いて、逆にマイカにアームロックを決められている。
「あーしはどこでも寝れるのが長所なんよ」
「ちょ、ギブギブ!」
セレンがマイカの腕を叩くと、彼女はセレンを解放した。クレイは咳払いを一つして、スーパーバット君を指す。
「あれが今日から加わった新しい仲間だ」
「つうことは、六本の槍……?」
「本数は増やさんでいいわよ!」
「というわけで、飯食ったら調査始めるぞ」
「おー! 張り切っていこー!」
クレイが先導して歩き始める。朝から開いている喫茶店か食事処を探して、昨晩行かなかった街の北側に進路を取った。石畳で舗装された道のコツコツとした音が心地よく、耳に鳴り響く。人がまばらで、露店なども出ている様子がなかった。
「ここらへんは静かだねー」
「というか、朝が静かな街なのかもな」
「商売の街なんじゃん? 盛り上がるのは昼からっしょ!」
広場の北側から抜け、今クレイたちが歩いている通りはラダウ北通り。左右に立ち並ぶのは民家と、飲食店のようだった。昼から開く予定の飲食店が多いのか、クローズの看板を掲げている店ばかり。朝から開いている店はないのかと落胆しそうになった矢先、右手側にオープンの看板を掲げる店が見えた。
「お、開いてるところあったな」
「何のお店なんだろー」
「朝からやってるのは、だいたい喫茶店なんじゃねえか?」
「なんでもいいわ、早く食事にしましょ」
五人は吸い込まれるようにして、店に入った。
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