新しい仲間

 ギルドの扉の前に、見たことのある顔がいた。


「あ、銀狼の魔法使い」

「セレンよセレン! セ・レ・ン!」

「覚えてないの? みたいに言われてもな」

「初耳だよー」


 セレンというらしい彼女は、決闘の時にすら名乗らなかった。クレイはため息をつきながら、彼女を押しのけようと手を伸ばす。


「待った! 話は聞かせてもらったわ!」

「なんのだよ」

「護衛任務のよ!」

「なんで聞いてんだよ!」


 ギルドの二階は、職員に案内されない限りは立入禁止になっている。クレイは「ええ……」と吐息混じりの声を漏らし、額に手を当てた。


「私も行くわ!」

「それこそなんでだよ」

「というかさー、その前にさー、言うことあるんじゃないのー?」


 ルネが蔓をウネウネと動かしながら、セレンに詰め寄る。セレンは「うっ」と声を漏らした後、勢いよく頭を下げた。


「正直見下してた! ごめん!」


 その言葉に、ルネは蔓をおさめる。クレイはセレンの肩を叩き、頭を上げさせた。


「別にいいよ、俺はそんなに気にしてない。あんなことさせたしな、トントンだろ」


 正直、今のクレイにとって、彼女の存在は渡りに船だった。これから挑むのは、魔人か悪魔が出てくるかもしれないという山。仲間は、いればいるほどいい。そのうえ、潜伏持ちというのが大きかった。もしものとき、全員逃げられる可能性が高くなる。


 ただ、気にかかるのは動機だ。


「なんで一緒に行きたいんだ? 単に入れるパーティがないってだけじゃ、踏めない山だろ」


 クレイが問うと、セレンは一枚の布切れをローブのポケットから取り出した。何か引きちぎられたような跡があり、わずかに焼けたような跡もある。セレンはその布を見つめながら、口を開く。その顔には陰りがあるように、クレイには見えた。


「あたしのパパとママは、魔人に殺されたの」


 セレンの口から飛び出た言葉に、クレイは「え?」と小さな声を出した。


「両手の爪が鋭いナイフのようになっているドレッドヘアーの魔人にね」

「その魔人を探してるってことか?」

「そうよ。と言っても、恥ずかしいことに、さっきまで諦めて普通に冒険者やってたんだけどね」


 セレンが布切れを再びローブに入れる。杖を持つ手に力が籠もっていた。


「だけどさっきの話を聞いて、思ったのよ。諦めるわけにはいかない、忘れてなんかいられないって」

「……忘れたままのほうが良いということもある」


 クレイが目を伏せながら言うと、セレンは力なく笑った。


「そうね……けれど、そう思ったからにはもう、忘れたままではいられないのよ」


 クレイはセレンの目をじっと見つめる。その瞳には、炎が見えた気がした。彼女の言葉は弱々しく感じられるが、瞳には力強さがあるように見える。クレイは一瞬の間を空けて、力強く頷いた。


「わかった。正直ありがたいよ」

「……いいの?」

「お前が一緒に行くって言ったんだろ? こっちからお願いしたいくらいだ」

「あなたは、いいの?」

「いいよー! 事情もわかったしねー」


 ルネが笑顔で親指を立てている。セレンはそんな彼女を見て、プッと吹き出した。


「ごめん、一つ訂正するわ。あんたらは鬼畜なんかじゃないね」


 その言葉に、ルネも笑った。


「そうかなー? みんなナチュラルに悪どいよー」

「ああ、ルビードラのルビーの中から一部だけこっそり拝借したりな」

「ギルドに渡さずにってこと? それくらい誰でもやってるわ」

「まじかよ、皆やることやってんだな」


 そうして笑い合っていると、フリントとマイカがギルドの扉の前までやってきた。呆けたような顔をしている二人に、事情を説明する。セレンは二人にも頭を下げ、非礼を詫びていた。マイカはニッコリと笑って彼女の肩を叩き、「よろしく!」と手を差し出す。


 フリントも事情を聞いて目に涙を浮かべながら、「これからは五本の槍だぜ」なんて言っていた。


「仲間が増えると本数増えるシステムなのね……」

「じゃ、ギルドに五本の槍として登録し直すか」

「ふふ……ええ、お願いするわ」

「よっしゃ! 俄然気合い入ってきたぜ!」


 こうして四本の槍改め五本の槍は、ギルドの中へと入っていった。受付で名前とパーティメンバーの登録をし直し、二階に上がる。クレイは緊張に顔を引きつらせながらも、内心どこかに高揚感を抱えていた。

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