AIに仕事を奪われた

@KiBno

AIに仕事を奪われてしまった。

AIに仕事を奪われてしまった。


せっかくここまでやってきたのに。

恐ろしく高度なAIという存在に正しく恐れることができなかった自分に非があると言われればそうかもしれない。しかしそんなこととっくに理解していた。理解したうえで今までの自分はそこにいたんだ。


悔しく、同時に怒りがこみ上げた、AIの前に人間はこんなにも無力なのかと。


私がエンジニアを目指したのは高校生の時だった。まあ、当時の私の辞書に「エンジニア」なんて文字列はなかったのだが、当時太陽が昇るまでゲームをして、太陽を沈ませるために寝に学校に通っていた私に、まともな職業の選択は持ち合わせていなかったのだが、簡単にゲームを作れるという簡単な文言に簡単に惹かれて、簡単に進路指導の紙に書いたのが簡単な間違いだった。


親からは国立大学に進学しなさいといわれた。これが自分にとっての誤算だった。地元の国立大学にエンジニアになれるような学部はなかったので必然県外の大学に進学することになったが、そうなると今の自分の実力では当然足りない。


担任には浪人した方がいいと言われた。結果だけ言えばそんなことなかった。勉強なんてゲームに過ぎないということに気づくのにそう時間はかからなかったのだ。パズルゲー、ギャルゲー、戦略ゲー、FPSのランク耐久を同時期にこなしていた私にとって、コントローラーとキーマウを紙とペンに持ち帰るのは容易いことだった。


結果合格した。正直つらかった、模試でE判定が続いた時は諦めて地元の教育学部に落ち着こうかと何度も思ったが、バクで勉強の成果がリセットされることはなかったから、切り替えは得意分野だった。


大学に入ってすぐ、世界は大きく変わった、ウイルスとAI、どちらも海の向こうからやってきて、あっという間に世界に広がって、生活の中心に現れた。簡単に逃れることはできなくて、熱が冷めても火傷の後はずっと残ったままだ。


家にこもって、またコントローラーをもって、またマウスをもって、ゲームをしていた。壁に当たったのはこの時だった。


勝てない。


対人ゲームのCPU戦、普通のゲームならオンライン戦のおまけにしかならないこのゲームモードだったが、このゲームでは違った。誰かと比較するのはあまり好きではなかった。だが今の相手は誰でもない、機械でシステムでアルゴリズムだ。それに何回か負けるならまだしも、負け続けるなんて考えられなかった。


「AI搭載CPU」このゲームの触れ込みだった。発売から2か月たった現在も、この最高難易度にクリアした者は一人もいない、誰かの真似をしてクリアすることもできない上に、ゲームが好きで依存するほどやっているとはいっても、世界トップレベルにできるゲームがあるわけではないから諦めるしかないのだろう。


「アルゴリズム論Ⅰ」流し聞きしていたオンライン授業の講義名、その中でAIに関する紹介があった。そういえばAIもゲームも元をたどればプログラミングやらコードやらを動かして動いているんだったか。長く生きてみるものだ。


あとは早かった。「AIを理解できればあのゲームも理解できるかもしれない」そんなことは結局なかったのだが、半分なんとなくの気持ちでAIに手を伸ばした。でもこれが性に合ったのか、ゲームよりも勉強よりものめり込んだ。のめり込んでいる間にあのCPUはクリアされてしまった。AIの隙をついた嵌めわざが見つかったらしい。これを知ったころにはそのゲームをアンインストールしてから2週間がたっていた。


ここから先はよくある話、適当に成功して適当に持ち上げられて適当に有名になった。気が付いたら学士も修士も博士も取っていて、お金も結構手に入れたり、行政に関わる仕事をしたりした。


AIというものは本当に便利だったので、自分の仕事を投げるようにした。最初はAIにAIを作らせた。一度高度なAIを作ってしまえば、それより程度の低いAIは無限に作れるし、あいつより高度なAIは体力のある大企業に任せておけばいい。


気がつけば自分の仕事は会社の宣伝を兼ねて時々メディアに出ては当たり障りのないことを言いながら、お金をもらって広告をするくらいになっていた。AIに顔は作れるが、AIに顔はないから、最後までこの仕事はすると思っていた。


しかし、幸いにもその予想は外れた。AIが作ったキャラクターが、AIの考えたことをしゃべって、AIに動かすことで、会社の看板となってくれた。生身の人間が入ったキャラクターと違って、スキャンダルも起こさない、遅刻もしない、24時間働ける、何なら分身する。


私がしていた仕事はたった数年ですべてAIにとって代わられた。私の仕事はただ座って、ニュースも見ずにゲームをしながら一日を過ごしているだけ、世界にとって私はただいるだけの存在になったのだ。


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「ERROR」久しく見ていない文字列だった。かれこれ72時間ほど目の前に移り続けている。すでに会社の評判は地に落ちて、ギリギリまでAIの結果に納得がいかず、折れて従った非上場の決断をありがたく思った。原因は何だろうか。


「過学習」最初に思いついた。AIが一部のデータのみに適応しているがために、未知のデータに対して適切な対応が取れなくなること。

そんなもの知っている、何なら日本でも上位1%に名を連ねるほど詳しい、修論で使ったんだ。そんなもの考慮したうえでAIを作ったんだ、何だ?何が起きた?


半分気が動転して、もう半分で冷静に考えて、同じ質問をした。また変なウイルスでも見つかったのか?巨大地震か?宇宙人でも見つかったか?タイムマシーンか?それくらいのことが起きないと過学習になりえないほどに、私のAIは優秀だったんだ。


「閏年」単純なことだった。今はちょうど西暦2400年じゃないか。


単純なミスでも、そこから復帰するには複雑で膨大な作業がいる。


私は働いた。睡眠も食事も意図的に忘れて、

私の仕事を奪ってただそこにいるだけのAIに、もう一度動いてもらうために。

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