結葉編
結葉編
「付き合って欲しい。友達のままじゃ、嫌だ」
葵が私のことを好きなのは分かってた。でも友達でいたかったから、鈍感なふりをした。分かっていないふりをした。突き放せないのが、私の悪いとこ。
葵と付き合うなんて、私には出来なかった。そもそも住む世界が違う人。釣り合ってないって、心から思う。でもそんなこと、葵の前では忘れちゃう。それぐらい優しくて、葵との日々は心地良かった。
葵から貰ったピアス。付けたのは二度か三度だけど、もう使えない。使ったら思い出しちゃう。金色に光るピアスを駄菓子の空箱にそっと入れた。
「はー、なんで告白してきちゃったのよ」
もう友達じゃいられない。もちろん、彼女になるってわけにもいかなかった。どこまでいっても、私は普通の女の子。葵を恋愛対象として見れなかった。
葵も振られるって分かってたと思う。散々脈無しアピールをしたんだから。けど、あんなにかっこいい顔で言い寄られると、私でも照れちゃう。それぐらい、反則級にカッコいい。
遊びの誘いも葵から。海に誘われた時、「結葉の水着を見たい」って、「誰よりも似合う」って、そう言ってくれたけど、結局海ではあんたが人の視線を集めた。スタイルも良くて顔もいい。私みたいな奴をリードしてくれる。そんな、完璧な人。
二人でボーリングに行った時だって凄かった。10ポンドの玉は吸い込まれるように1番前のピンを掻っ攫っていく。もちろんストライク。「結葉の心にストライク」って決め台詞は見事にガターだったけど。今思えばライクとストライクで掛かってたのかもしれない。
葵の唯一の弱点は、私を好きになっちゃったこと。私みたいな
確かに束縛が強いところもないでは無かったし、許可なく写真を撮るのはやめて欲しい。でも振ったのは、そんな理由じゃない。もっと、根本的なもの。
付き合ってもないのにスマホのロックが私の誕生日なのは流石にちょっと引いた。写真が半分くらい私なのも少し怖かった。それでも写真を撮ったら笑顔で褒めてくれるし、誕生日には私が欲しいものをプレゼントしてくれる。
「友達じゃ……ダメだったのかな?」
葵から貰ったお揃いのヘアピンを見れば、自然に鼻声が漏れた。整理をしていると、案外私の身には葵から貰ったものが多いと気付かされる。
このスマホケースも、シュシュも、ペンケースも、葵からのプレゼント。私の好みにバッチリ合ってて、可愛らしい。
それを一つ一つ、ピアスのように箱にしまっていく。そのどれもに葵との思い出があった。分かるじゃん……なんで、告白なんか……。私とあんたが付き合えるわけないの、分かるでしょ。
気づけば手が震えていた。私だって、あんたのこと好きだったのに、告白されたら、友達のままでいれないじゃん。
もし、もし私が葵の告白をOKしたら、未来は変わったのかな?多分、変わった。こうはならなかったと思う。でももう、謝る術はない。葵とは、会えない。
私は押入れの奥深くに葵との思い出が詰まった箱を押し込んだ。私が葵を振ったからこんな結末になったんだ。
あんたがどれだけ私を思ってくれてるか分かってたのに。私は単純な理由で葵を振った。ごめん……ごめん、本当にごめん。
――三日前の夜。葵が自殺したと連絡が来た。睡眠薬を致死量摂取したらしい。
私はそっと押入れを閉める。葵がくれたプレゼントは全て閉まった。残りも、胸の奥に閉まっておこう。あんたとの……、
思い出――――――。
思い出アンインストール 赤目 @akame55194
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