彷徨-②

「お嬢さん、こんなところでどうしたのかい……?」


驚いて声の方向を見ると、そこには一人の老婆が立っていた。

白い髪を後ろで束ね、深いしわが刻まれた顔には温かな微笑みが浮かんでいた。

目は優しさと知恵に満ち、私の不安を一瞬で和らげた。


「マイちゃん……えっと、持っていた端末を不思議な生き物に取られて、追いかけていたら迷ってしまったんです。

ここは……どこですか?」


私は必死に心の中の不安を隠しながら尋ねた。

そんな私の様子に老婆はぽんぽんと私の肩を叩き、優しく頷きながら答えた。


「そんなに怯えなくて良いんだよ……ここはエルダの森の中央部。

その生き物とやらには心当たりがある。

走り疲れたでしょう……?私の家で休んでいきなさい。」


老婆の名前はシャルロットと言い、長年この森に住んでいるという。

シャルロットさんは私の手を取り、森の奥へと導いた。

道すがら、シャルロットさんはウサギや鹿といった生き物たちに度々話しかけていた。


「シャルロットさんは彼らの言葉が分かるんですか?」

「ふふっ……生憎動物の言葉を操る術は心得ていなくてね。

ただ、久々にお客さんが来たから自慢したくて……」

「……話が分からないのに、話しかけるんですか?」

「おかしいと思うかい?」

「……失礼ながら」

「慣れているから良いのさ。

数十年に1回、お嬢さんのような永遠を生きる人グラファーがここに迷い込んでね……みんな口を揃えてどうしてって言うんだ」

「……言葉が伝わらない存在を相手に会話を試みることはしませんし」

「言葉が伝わらなくても、通じる何かがあるんだよ、ナギ」


伝わらなくても、通じるものがある。

シャルロットさんの言う言葉が、私の中でぐるぐると回っていた。


歩いているうちに、マイちゃんを奪った妖精が再び現れた。

彼女はマイちゃんをじーっと見つめ、つんつんとつついていた。

シャルロットさんはその姿を見るなり、優しいがしっかりとした声で叱り始めた。


「フィーナ、人の物を勝手に持って行くのは駄目でしょう?」


フィーナと呼ばれた妖精は、少しシュンとした様子で私に近づき、マイちゃんを差し出した。

マイちゃんは目をぐるぐるとさせながらスリープモードに入っていた。


「ありがとうございます、シャルロットさん」

「いいのよ。

フィーナは好奇心旺盛な娘でね……私も若い頃はお気に入りの花をよく摘まれたの」

「そうなんですね」

「その度にフィーナを叱って……でも可愛いから許しちゃうのよ。

……長く歩かせてすまないね、ここが私の家だ。

さぁさ、入りなさい」

「お、お邪魔します……」

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プレイ・フラグメンツ 名桜 @Rein_Feil

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