没考案

初期考案1 アルバムに刻む一枚の出会い

「お姉ちゃん、そっちは終わった? 私の方は終わったけど――」

「ねぇ見て見て! これ修学旅行の時の写真だよ! 清水寺懐かしいぃ」


 姉の芽衣めいは目を輝かせてながら妹の二葉ふたばに中学の時のアルバムを見せる。

 それに対して二葉は呆れた様子で頭を抱えた。


「お姉ちゃん真面目にやってよ……」

「真面目にやってるよー」


 いつの間にか寝転んでアルバムを見ている芽衣。二葉の言葉に反応し体を起こし、片づけを再開させるのかと思いきや、部屋の隅に移動した。そこに置いてある少し大きめの箱を手に取り、二葉の元に近づいて来た。


「ほらっ服は片づけたもん」

「服だけ!?」


 その箱には綺麗に畳まれた服だけが入っていた。

 事の作業が全然進んでいない様子に二葉は返す言葉が見つからない。この堕落した姉をどうやってやる気を出させるか悩んでいた。

 少し目を離すと、芽衣は再び床に寝転び、アルバムの続きを見始めた。


「ねぇまだ終わってないの?」

「うん!」


 陽気な笑顔で返事をする。何とも清々しい。


「お姉ちゃん、このペースだと今日中に終わらないよ。余計に散らかってるし」

「大丈夫だよー、心配しないで!」

「……その自信はどこからくるの?」

「だって~、二葉が全部やってくれるでしょ?」


 芽衣は二葉に抱き着く。

 この甘え上手な姉には毎回手をやいている。二葉は姉から離れようともがいている。


「やらないよ!」

「そう言っていつも……あっ」


 芽衣は突然二葉から離れた。何かを見つけたのか、視線の先にあったものであろうモノを手に取り、再びこちらへと戻ってくるじゃないか。


「こっちは卒業アルバムだよ!」

「もう、いい加減にしてよ……」


 らちが明かない。このままだと本当に終わらない。


「二葉も一緒にみようよ! ……あれ?」

「お姉ちゃんの片付けが終わってからね」


 二葉は芽衣に捕まる前に、半ば強引に部屋の外に逃げ自室へと戻って行った。これで何かが変わるとは思えないが、少しだけ気持ちを落ち着かせ、最悪手伝いに行くしかないか。

 ――それから三十分後。二葉の部屋の扉が勢いよく開いた。


「アルバム見よう!」


 扉の先には姉の姿。ついにこちらの領域まで踏み入れて来たか。しかし、二葉は心を鬼にして姉の誘いを断る姿勢を見せた。


「だから部屋の片付けが終わってからね」

「じゃあ問題ないねっ」

「……え?」


 自身気な芽衣の言葉と即答に二葉は少しばかり驚いた。芽衣は二葉の手を引っ張って自室の前へと連れて行った。

 芽衣が扉を開けると、その先に見えた光景は――


「全部終わったよ!」

「現金な姉だ……」


 全て片づいた後の部屋だった。隅にはいくつかの段ボールが積み重なってる。そしてなぜか、アルバムだけは何冊か床に積まれており、丸いカーペットもそのままだった。


「ねぇ、一緒に見ようよ!」

「……わかったよ。でも、そんなにゆっくりは出来ないから少しだけだよ?」

「やったぁ! じゃあ小学生の頃のアルバム見よう!」

「えー……小学生の頃……」


 少しだけ嫌そうな顔をする二葉。それにはお構い無しに芽衣は二葉を自分の懐へと手招きをする。二人は顔を近づけ、互いにアルバムの片方を持ち、一緒に記憶を辿る。


「これは遠足の時だね。お菓子を落として悲しそうな表情の二葉も可愛い。うんうん」

「やめてよ、恥ずかしいから」

「……二葉」


 すると芽衣は二葉を包むように抱き、頭を優しく撫で始めた。


「そうだよね、今の二葉も十分に可愛いもんね」

「お、お姉ちゃん」


 芽衣の胸に二葉の頭を押し付ける。その豊富なモノを目の当たりにして、徐々に不機嫌になる二葉。双子なのに、どうしてこうも大きな差がうまれてしまうのだろうか。なんて残酷な世の中なんだ。


「むぅ」

「なんかすごく不満そう!? なんで!?」


 姉妹で有意義な時間を過ごす。時が流れる事を忘れるくらい夢中になる中、部屋の扉が開く音が聞こえた。


「二葉~芽衣~?」


 扉の先には二人の母親、葉子ようこの姿があった。


「あっお母さんも一緒にアルバム見る?」


 ウキウキな芽衣はアルバムを持ち、葉子の元に近づこうとした。すると先に葉子が二人の元に近づき、頭に優しく手を乗せた。


「もう芽衣ちゃん、今は忙しいんだから遊ぶのは後にしなさい」

「「はーい」」

「それで、二人とも部屋は片付いたの?」

「うん、終わったよ」

「じゃあ、お母さんのも手伝ってもらっていいかしら」

「いいけど……」

「お母さんテレビつけたまま作業してら偶然、前回見逃しちゃったドラマの再放送みちゃったら、手が止まっちゃって」


「「お母さん!!」」と芽衣と二葉は心の中で思った。


「お母さん、しっかりしてよ!」

「ごめんなさい」


 すると二葉に注意された葉子はいつも以上に落ち込み、瞳から涙がこぼれた。


「お、お母さん? ごめん、ちょっと強く言いすぎちゃった……?」

「ううん、違うの。お母さん二人と一緒に過ごしたり、笑ったり、顔を見るのがしばらくできなくなると思うと寂しくなって……」


 葉子は涙を拭い、芽衣の頭を優しく撫で話始めた。


「いらないものを整理していると、昔二人が来ていた制服がとか懐かしいものばかり出てきて……今では身長も少しだけ抜かされちゃったしね。子どもの成長って早いわね」

「芽衣、そんなに伸びたかな」

「私はお母さんと同じくらいだよ」

「あっもしかすると……芽衣の制服、お母さんも着れるかも!」


 葉子は押し入れにしまおうとしていた芽衣の制服を持ち出し、娘たちの前で本気にも思える冗談を言った。


「お母さんやめてよ、別の意味で恥ずかしい!」

「もう! いい歳なんだから」


 二葉が母の背中を押し、部屋の外へと押し返す。


「えーでも、お母さん近所のママさんからはまだイケるって言われるわよ?」

「この前だって道に迷っちゃった時にナンパされちゃって」

「えーそれ本当なの?」


 芽衣は腕を組み、からかい半分に質問をした。


「きっとオドオドしているお母さんが可愛かったのね。キャハッ」

「それ自分で言うんだ」

「斬新なナンパだったわぁ……職業は何ですかって聞かれたの。いきなり職業を気なんてねぇ」

「お巡りさんだ、それ」


 うちのお母さん、職質されてる。


「お母さんはよく道に迷うけど、度が過ぎるよ……お姉ちゃんもだけど」

「えー何が?」

「自覚ないんだ……」

「それにしても……二人とも、本当に大きくなったのね。つい最近まではハイハイしていてまともに歩けなかったのに、子ども成長って本当に早いのね。よしよし」

「お母さん、頭なでないでよ! もう……」

「じゃあ芽衣が撫でてあげる!」

「そういうことじゃなくて――」

 

 姉と母から頭を撫でられ、照れ臭くもあり、恥ずかしい思いもあるが、決してそれが嫌いなわけではなく、むしろ居心地がいいとまで思っていた。

 ――数時間後には引っ越し業者が荷物の受け取りに来た。


「それじゃあ、お願いします。これが最後です」


 葉子が業者に最後の荷物を渡した。


「じゃあ芽衣たちも行くね」

「ええ……あっそうだ、三人でお散歩でもしましょう」


 三人は近くにある大きめの公園へと足を運んだ。そこは季節の風景を感じられる木々が生い茂った公園だった。そこにある桜の木がまるでアーチを描くように作られた道を歩いた。


「最後に家族で歩いたのは、もう十年も前ね」

「お姉ちゃん覚えてる?」

「流石に覚えてないなぁ」

「じゃあ、の事は覚えてる?」


 母の言葉に、芽衣と二葉は互いに顔を合わせた。


「……少しだけ」

「そっか」


 葉子は少しばかり残念そうな、寂しさを感じる表情だった。

 その後もしばらく公園を歩き、途中遊具で遊んだり、なぜか道に迷ったりと、それなりに有意義な時間を過ごした。

 公園の反対側の出入口まで来ると、葉子は足を止め、少し先に進んだ娘たちに別れの挨拶を交わす。


「それじゃあ、ここでお別れね。芽衣、二葉、たまには帰ってきてね? お母さん待ってるから」

「うん、またね」

「お母さん、道に迷ってもナンパには気を付けてねー」


 芽衣と二葉は公園を後にした。そして向かった先は――


「ここ……だよね」

「うん、住所に間違いはないけど」

「本当にここなの? 普通の一軒家だよ? アパートみたいな寮って聞いたけど……間違いじゃないの?」

「でも、ご近所の人も交番の人もみんな口を揃えていってたし……」


 二葉は芽衣の背中を押して先に行かせようとする。


「ちょっと押さないでよー。二葉が先に行ってよ!」

「こういう時こそ、姉としての出番でしょっ」

「関係ないー!」


 家の前で軽くもめていると、その音が大きかったのか、それとも偶然か、玄関の扉がゆっくりと開いた。


「こ、こんにちは……」


 扉の先には自分たちより少しばかり背が小さく、可愛らしい女の子の姿があった。


「やっぱり間違えてるよ。小さい子が出て来た」

「あ、あの! 一ノ瀬さんですよね……? お待ちしておりました! えっと、私はここをしております【真白ましろいろは】と申します」


 真白は軽く会釈をすると、後ろを振り向き家の中へと戻る素振りを見せた。


「どうぞ中にお入りください。届いた荷物もお二人の部屋へと運んでありますので」


 二人は言われるがままに、真白の後に続き扉の先へと足を踏み入れた。するとそこはリビングの様な広い空間だった。


「ワアすっごく綺麗! 新築だねこれはっ! 部屋も広いしっ」

「お姉ちゃん、はしゃぎ過ぎだよ」


 興奮した芽衣は自由行動を始めた。


「あの真白さん、そのと言うのは……」

「はい、実は私の家系が学校内と深い関係がありまして、責任者として、ここの管理を任されています。ちなみに、前まであった寮制度は建物の劣化などを含め、廃止されました。今はシェアハウスと言う形で、新たな制度を取り入れています」

「そうだったんですね」

「ねえ二葉見て見て!このソファーすっごく弾むよ! やわらかい!」

「お姉ちゃんはちょっと大人しくして」

「……良かった」


 二人の様子を見た真白はボソッと何かを呟いた。しかしそれは、二人には届かない声だった。

 三月の終わり、こうして二人の新しい生活が幕を開ける。


「ところで中学生?」

「えっと、同い年です……」


 ― To be Continued ―

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なないろぱれっと ゆずきあすか @yuzuki_asuka

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