第7話 大団円
三津木は、離婚してからしばらくは、ゆっくりと自分を見返していたが、少しずつ離婚のショックから立ち直っていくうちに、少しずつ婚活のようなものを始めていた。
当時では、婚活というと、
「お見合いパーティ」
なるものが流行っていて、それ専用の会社もあり、一日にいくつかの会が催されているようだった。
会費も、
「男性が、平均して、三千円くらいから五千円くらいで、女性は千円という、男女で差別化がされていた」
というのも、
「差別化をしないと、なかなか女性が集まらないので、会の男女比率の悪さから、せっかく計画していても、開けない場合がある」
という意味で、しょうがないところがあるようだ。
もっといえば、一日、3つの会があったとすれば、すべての会に参加している女性も結構いるということになり、会の主催者側からすれば、
「サクラ」
としての役割をしてくれているということになるであろう。
そんなことはわかっているが、そんなパーティに数年通ってみて、実際にカップルになったこともあったが、なかなか続かない。これだけ参加していれば、カップルになるコツというのも分かってきたようで、そのおかげでカップルになるということも、不本意な気分にさせられるのだった。
そんなことはわかっていて、それでも続けてきたのは、
「惰性から」
ということなのだろうか?
確かに惰性であることに変わりはないが、
「ここで辞めると、中途半端になる」
という、何が中途半端なのか分からないという感じで、悩ましいところであった。
そんな状態で、
「とことん参加してみる」
と思っていると、今度は、もう、結婚というものに冷めてくるのを感じた。
もっとも、
「お見合いパーティ」
というものに参加していたが、本当に結婚を目的としたものだったのかどうか、聴かれたとすれば、答えようがないような気がした。
「あんなものに参加していて、本当に結婚できるというのだろうか?」
というのが大きな感覚であり、
「結婚というのが、本当に自分に必要なことなのか?」
と思うようになってから、今度は、女性と、どうしても知り合うということがナンセンスに感じられたのだった。
そういう意味での、
「お見合いパーティ」
は自分にとって、どのような意味があったのか?
ということを言い聞かせながら生きてきた。
そんな中で、あいりを見つけ、思わず電流が走った気がした。何と、以前、どうしても結婚したいと思った、
「結婚適齢期」
に出会った、自分が唯一の、一目惚れだった女性に似ているではないか?
「いや、瓜二つだと言ってもいい」
とも感じられるほどだったのだ。
お見合いパーティというものが、
「次第に自分にとって、ムダな時間だったのかも知れない」
と思うようになると、
「結婚はもういい」
と思っていたはずなのに、ふとしたことで見かけた女性が、自分の身体の中の血を滾らせて、さらに逆流させるかのような感覚になったことは、自分でも驚くべきことだった。
次第に、思いはどんどん募っていって、彼女が何者なのかということを知らないと、気が済まないと思うようになっていた。
まさか、後輩の田代が、どんな苦しい状況にいるかということを知る由もなかった三津木だったのだ。
三津木は、田代に引き合わされて、あいりに遭ってみた。すると、彼女の母親が、やはり、以前付き合っていた女性であることを知った。
「お父さんは?」
と聞くと、
「私が小さい頃に亡くなったらしいの。でも、お母さんが私をちゃんと育ててくれたのよ。だから感謝してるの」
というではないか。
田代から、彼女のことは大まかに聞いていたので、三津木も、それ相応の対応はした。
三津木は、今までに、離婚してから鳴かず飛ばずだったのだが、今の状況を考えると、
「ひょっとすると、この時のために、人生があったのかな?」
と感じるほどであった。
いろいろ遠回りをしたりしたが、それも、再度彼女に出会うため。ただ、想像の中にいる彼女は、娘のあいりの姿だった。
そのことに少々、自分なりの憤りを感じる。
あいりが、そして彼女がどのような人生を歩んできたのかもわからない。
聴こうと思えば、田代に聴けば、少々のことはわかるだろう。
そかし、それが実際のことであったとしても、
「自分にとっての実際のことなのか?」
というのが分からない。
そんな人生を歩んできたのか分からない。分かるはずもない。だから、人から聞くと、変な先入観が働くことで、本当に正しい目で見ることができるのだろうか?
そんなことを考えていると、あいりが、
「精神疾患を持っている」
と聞くと、
「彼女の遺伝なのかも知れない」
と思った。
彼女は、自覚がなかったこともあったし、三津木もそんなことを考えるだけの余裕があったわけでもなかった。
そう思うと、
「俺は、彼女の何を知っていたというのだろう?」
ということであった。
あいりの話は、結構本人がしてくれた。普通なら隠すのだろうが、彼女のその天真爛漫さは、昔の母親を彷彿させる気がしたのだが、果たしてそうだったのだろうか?
思い返してみると、そんなに天津爛漫ではなかった。むしろ、いつも苛立っていて、喧嘩が絶えない状態で、こちらのことに気を遣ってくれているのかと思いきや、舞い上がっていたのは、自分だけだったようだ。
「本当にこれでいいんだろうか?」
と考えると、あいりを見ていて、さらに気の毒に思えた。
それは、あの時の彼女ではなく、今のあいりや、まだ再会してもいないのに、母親のことを考えると、今から思えば、
「どうして、あの時、別れたりしたんだろう」
と思ったのだ。
「もう一度、やり直したい」
という思いがないでもなかったが、果たしてうまくいくかどうか、正直自信がなかった。
あいりを見ていると、
「母親がよほど、しっかりしていたのだろう?」
と感じるのだが、今度は、田代を見ていると、
「母親に対しての自分を見ているようだ」
と思ったが、
「結局何もしてあげられなかった自分が悪い」
と思うようになったのだ。
三津木は、母親に再会を果たした。
その顔を見た時、落胆よりも、衝撃だった。
昔の名残のないほどに、やつれていた。
「子供一人を育て上げるのに、昔あれだけ純真無垢に見えた彼女が、変わり果てた姿に見えた」
ということで、
「ここから先は、俺が幸せに……」
と思ったのだが、どうもそんなことではないようだ。
「あいりのこともあるし」
と考えたが、あいりを見ていると、またしても、昔の彼女を思い出す。
すると、
「昔の自分たちと彼女とを切り離して考えることなど、できないのだ」
ということであった。
しばらくの間、三津木は、三人、いや、田代も含めると4人であるが、そのことを一生懸命に考えていた。
どうしても、一度考えたことが、裏に回って、同じところに帰ってくる。
まるで、
「はつかねずみを入れたかごの中に、まわるジャングルジムのようなものがあって、そこを永久ループしながら、回っているかのようだ」
と言えるのではないだろうか?
そのクルクルまわるものを見ていると、
「何かおかしくなりそうな気がする」
ということを感じた。
「ああ、俺って、今ひょっとすると、目の前のかごのような、永久ループのような状況ではないのだろうか?」
ということを考えていると、
「結局、自分が負のスパイラルに入り込んでいるかのようだ」
と思えたのだ。
「このまま、鬱状態に入り込むと、抜けられなくなるような気がする」
と思い、
「何かの化けものに追いかけられている」
と思えてくるのだ。
「明日、医者に行ってみようか?」
と思ったが最後、もう自分が病気だということを自信をもって受け入れられる。
そもそも、
「俺がそんな状態ではいけないのではなかったか?」
と思ったが、これが、昔彼女と付き合っていた時の自分だったような気がする。
それを考えると、
「逃げられない何かに惑わされている」
と思い、その思いが、
「あいりの状態なんだ」
と思った。
「俺は結局無限ループから抜けられないんだ」
と思ったことで、付き合っていたことのことが、思い出されたような気がするのだった……」
( 完 )
無限ループ 森本 晃次 @kakku
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