大好きよ。もう二度と、会いたくない。
野森ちえこ
分岐点
カビた食パンをかじって笑う。
またか。バカじゃないの。
何度も信じて、何度も裏切られて。
どうせまた。今度こそ。また、また、つぎこそは。
バカみたい。バカだよね。
すこしは愛されているんじゃないかって。
きっと愛されているはずだって。
信じて、信じたくて、くるくるクルクルおなじとこまわりつづけて目をまわす。
ママ、ママ、ママ、どこへ行ったの。どこにいるの。
私が悪いの、いけないの。
つらいよ、怖いよ、苦しいよ。
だれにも見えない、気づかれない。
人って簡単に死んじゃうね。
人ってなかなか死なないね。
私がママをえらんだの。ママが私をえらんだの。
わからない。わからないよ。
人生の難易度、高すぎませんか。
みじめな心を隠して。
みんなとおんなじふりをして。
繕ってごまかして、道化を演じて。
平気よ、平気。なんでもないわ。
自分の声を封じて。
自分の心をだまして。
ものわかりよく、やさしく、いつも笑顔で。
私は必要ですか。いりませんか。どうすればいいですか。
居場所がほしくて、居場所を探して。
図書館、映画館、博物館、劇場、プラネタリウム。
どこに行けばいいの。どこに居ればいいの。
歩いて歩きつづけて歩き疲れた。
どこを探しているの。なにを探しているの。
もそもそと栄養補助バーをかじりながら、おわりの見えない作業に明け暮れる。
つくして支えて、都合のいい人間やってます。
人なみってむずかしい。
人なみってなあに?
憎んでおびえて羨んで。
期待して依存して失望する。
愚かなサイクル、いつまでくり返す?
苦いコーヒー。
甘いチョコレート。
まんまるお月さまのほほ笑み。
聞き上手ね。ペラペラぺらぺらどうして私、こんなに話してるの。
ごめんなさい。ごめんなさい。しあわせ感じてごめんなさい。
揺れて揺れて、おおきな揺りもどしに消えたくなって。
もうやめよう。
もうやめたい。
思って願って立ちすくむ。
百回信じて、百回裏切られて。
百一回目を信じてやれという人もいたけれど、知っていますか?
千々にちぎれた心は、もとにもどらない。
空気を読んで、顔色を読んで。
気づかい気くばりご機嫌とり。
この人生はだれのもの?
自分以外のだれかがつくった食事。
ホカホカあたたかいごはんに泣きたくなった。
生きていいの。生きてください。
目玉焼きにはなにかける?
しょうゆ、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、塩こしょう。
たべるのは自分。好きな味でたべればいい。
それだけのこと。それだけのことなのに。
もう遅い? まだまにあう?
どちらでもいいわそんなこと。
自分できめた。きめられた。
きっとそこが、分岐点。
今日が最後。
今日で最後。
もう願わない。だまされない。すがらない。
愛されているかもなんて、期待しない。
血のつながりなんて。
運命なんて。
もういらないよ、必要ないよ。
バイバイ、大好き。
もう二度と、会いたくない。
大好きよ。もう二度と、会いたくない。 野森ちえこ @nono_chie
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
備忘録 週間日記/野森ちえこ
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 24話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます