竜眼のジェド

時守ナガト

◆竜眼のジェド

 神話の時代、旧神――竜を狩る一族がいた。


 新神の代理として敵を倒す彼らの手には、神が生み出したとされる神剣があった。

 その剣は、強力な竜の肉体を容易く切り裂き、竜の吐くブレスを無力化した。


 そんな竜狩りの一族の中でも、随一の使い手・ジェド。

 ジェドは多くの竜を葬り去った。


 竜族最強の魔竜・ダロスメギアを討伐した際に、ジェドは右目に返り血を浴びる。

 旧神の血を浴びた目は、竜眼となった。


 その目は、すべてを見通し竜の動きを縛った。

 その竜眼をもってジェドは多くの竜を屠った。


 竜狩りの一族は、最後の竜が死んだ後、ジェドを神剣をもって封印した。

 竜眼に取り込まれたジェドが、竜とならぬよう……。


 そして永い月日が流れる。


◆◆◆


 王国歴3045年、かつていた神は去り、竜を屠った一族のその血も絶えた。

 人はかつてあった旧神・竜の骨を人に移植し、その身を竜の力で異形の戦争兵器に変えて利用していた。


 東の小国にて――


「……ここまでのようですね」

「殿下」


 帝国の新兵器・竜牙兵ドラゴンウォーリアーの力は凄まじく、敵対した国はことごとく滅び去った。

 小国の女王・レティシアの国も帝国と敵対し、今まさに滅びを迎えようとしていた。


「殿下! 聖堂の中に人が」


 その時、幼い王女・イライザだけでも助けようとしていた臣下が、誰も踏み込んだ事のない聖堂の奥に眠る少年・ジェドを発見した。


 その周囲にはジェドを封じる神剣が突き立っていた。


「これは……剣?」

「殿下、これは最後まで抵抗せよとの神の啓示かと」


「そんな、そんな事が……」


 レティシアは困惑するが、近衛騎士のバーンズら一団はやる気になっていた。


「よし、いくぞお前ら!」


「はっ!」

「お供します、団長!」


 次々に神剣を引き抜いて行く騎士たち。

 5本あった剣の内、4本までを引き抜くと、その中心に眠っていた少年に変化があった。


 ぞくり、とした悪寒、威圧感と言えばいいのか自分が巨大な竜に捕食されるような感覚を味わったバーンズ。


 少年は両目を見開き、言った。


「……竜がまだいたのか」


 その少年の右目は、金色に輝く竜眼であった。


 その時、聖堂内に押し入るモノがあった。

 帝国の兵器・竜牙兵である。


 その竜牙兵・ジュタイタスは、その宿主の身に竜の爪を移植した攻撃により向いた竜牙兵だった。


「来たな、よしっ! やるぞお前ら」


 バーンズが号令をかけるが、


 ガァアアシャアァアーッ!!


 ジュタイタスの細い節が連なった、触手のような長い爪がバーンズを襲う。


「ぐっ! くっ」


 かろうじて防ぎえたのは、その手にした神剣のためだろう。


「どいていろ」


 静かに少年・ジェドが言った。

 地面に突き立った最後の神剣・インセティアを引き抜き、駆けるジェド。


 シャアアアァアーッ!!


 合計10本ある爪を次々と差し向けるジュタイタス。

 ジェドは、その全てを防ぎ、身をかわし、斬り落とした。


 近間に駆け寄り、竜牙兵を正面から正中線を抜き斬り割いた。

 神剣は、宿主である人間を殺し、その動力を失った竜牙兵を活動停止に追い込んだ。


「おお、神よ……」


 女王・レティシアはその少年が神の使いに見えた。


◆◆◆


 女王レティシアとジェドの出会いから15年。

 幼かった王女イライザは、16才となった。


 今はライザと名を変え、帝国反乱軍の連絡員をしていた。

 ライザは、寒村で待機しているジェドへと情報を伝えに向かう。


「ジェド、最後の依頼だ」

「ライザか」


 突如眼前に現れたライザの気配は、身かくしのマントの効果で、今のジェドにも察知出来なかった。

 最後の竜牙兵、竜の王・ダロスメギア、それを倒せばジェドの役目も終わる。


「行くか」


 ジェドは向かう最後の戦場、帝国首都・グレムダインに。


◆◆◆


「右翼軍が左翼城壁を突破しましたー!!」

「よおし、俺たちはここまでだ。竜牙兵が出て来るぞ。あとはあいつらに任せるんだ」


 竜牙兵には、ジェドが持つような神剣をもってしかまともに対応出来ない。

 人間同士の戦いが終われば、あとは神の次元の戦いが待っている。


 ジェドはひとり、最後の竜牙兵・ダロスメギアを倒すため帝城に侵入した。




 城の中は、不気味なほど静まり返っていた。


 ジェドは城内を進む。


 するとやがて開けたホールに出た。


 そこには最後の竜牙兵が鎮座していた。


 竜牙兵・ダロスメギアは、戦闘状態だというのに静かにただそこに在った。


「……まあ、いい。終わらせるぞ」


 ジェドは迷わず駆けだした。

 宿主の首があるであろう部分に右なぎの斬撃を繰り出す。


 すると、ダロスメギアは形態を変じ、宿主である人間の頭部を露出させる。


 弱点である宿主の頭部を見せるなど、本来ではありえない事だが、ダロスメギアには理解わかっていた……こうすればジェドが手を出せないという事を。


「……レナッ!?」


 ジェドの妹・レナもまたジェドが受けた返り血をぬぐった時に竜の血に侵され不老となって現代までいたのであった。

 剣閃は鈍り、首をはねる事はなかった。


「がはぁっ!!」


 致命的な油断、時間にして数秒でもすぐに首をはねられるほどの近距離においてそれはジェドに大きな傷を与える事になった。

 大きな爪で抉られた右わき腹を抑えジェドは退く。


 ギシャアアアァアーッ


 ダロスメギアが嗤う。


 絶体絶命かと思ったその時、少女・レナの首が宙を舞った。

 身かくしのマントで忍び寄っていたライザの剣が宿主の命を絶ったのだった。


◆◆◆


 人は竜牙兵に勝った。

 ジェドは、全ての役目を終えた。


 ジェドはあてもない旅に出る事にした。


 旅の途中、


「……ライザか」


 身かくしのマントを使っていたライザをジェドの竜眼は看破した。

 ジェドの身に宿る竜の力が増した結果だろう。


「……分かるんだな」


 ライザは身かくしを解き、ジェドの前に立った。

 そして、腰に穿いた剣を抜いた。


「ジェド、竜の力はこれからの時代に不要なんだ」

「……俺を殺す、か」


「安心しろ、痛いのは一瞬だ」

「……来いよ」


「やあぁああーっ!!」


 叫び、ライザは駆けた。

 勝敗は、一瞬の内に決した。


 ライザは、胴を斬り割かれ二個の塊となって地に落ちた。

 しかし、その剣はジェドの持つ竜眼をえぐり取り、ジェドの持つ竜の力の源を全て奪っていたのだった。


◆◆◆


 不老でも不死でもなくなったジェドは旅を続けていた。

 乗合馬車に揺られたジェドは、眠っていた。


 馬車に乗り合わせた少女がジェドを見て言う。


「おじちゃん寝てるのー?」

「おにいちゃんでしょ」


 少女の母はジェドの方を向かずに言った。


 竜の力を失ったジェドの身体は、今になって時の経過を受け急速に老化していた。

 その眠りは永遠。


 ジェドは、ようやくその心と体を休める事が出来たのだ。




 END

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竜眼のジェド 時守ナガト @yokuyomuman

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