第6話

「ユイが魔法を――? どうして」

「わかんない……。撃とうとしたら、頭が真っ白になって、手が震えて……魔法が、わかんなくなっちゃった……」


 わたしのせいだ。とミーシャは思った。

 

 ユイの撃った魔法が、ミーシャを殺すことになったかもしれない。

 それがユイの心に深い傷を作ったのだ。魔法を撃てなくなるほどに。

 

「魔法が使えないって、それじゃ……あんた、これから先どうするのよ」


 ユイは運動が苦手だ。力も弱い。冒険者を目指していくら鍛えても、努力しても、人並みにもなれなかった。

 そんなユイがただ一つ得意だったものが、魔法だった。

 初めて撃ったときから大人顔負けのその威力は、威力だけは確かに絶大で、見る人をあっと驚かせたものだった。

 

 ほかに道はないと決めて、幼い頃からただひたすらに魔法だけを鍛え続けてきた。

 魔法が使えなくなったユイに、なにが残っているのだろう。


 ユイがミーシャに笑顔を向けた。

 

「もう冒険者は、できないや」


 声が震えている。

 

「食べ物屋さんで働こっかなあ。甘いものとか、ユイ大好きだもん。ねえミーシャ、知ってる? 最近となり町にね、評判のケーキ屋さんがあってね」


 顔は笑っているのに、瞳から涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

 

「ユイ……」


 ミーシャは何を言えばいいのかわからなかった。


 悲しむユイを前にして、ミーシャの心は歓喜に包まれていた。

 

 飛び去ろうとしていたミーシャの幸せは、飛ぶための翼を失ったのだ。




 ミーシャが退院する日がやってきた。

 治療院に運び込まれたとき、ミーシャは酷い火傷で右半身全体が焼けただれていたのだが、回復魔法の力でかなり早く治療することができた。

 

 脚はほとんど完璧に回復した。運動能力に支障はない。右腕はなくなったものの、ミーシャは両利きだ。性能のいい義手を付ければ冒険者として復帰するのは難しくないだろう。

 だけど回復魔法は万能ではない。火傷の痕はしっかり残るのだ。

 

 美しかったミーシャの顔の半分は赤黒く変色し、目や口元が引つれたようにただれていた。

 

 

 ユイに付き添ってもらい、ミーシャは久しぶりに自室に帰った。

 ミーシャは顔の包帯をはずして鏡に写る自分の顔と見つめ合う。

 

「これで、わたしに声をかける人もいなくなるね」

「そんなこと……」

「ユイには言わなかったけど、誘ってきた人の中にわたしを冒険者として欲してる人なんて一人もいなかったんだよ。みんなわたしの外見だけを見て、飾りにしようとしてた。冒険者にしておくには惜しい、なんて言われたこともあったっけ。だから、こんな体になったわたしには、もう人から求められる価値はなくなっちゃった」

「…………」

「本当にわたしを必要としてくれたのは、ユイだけだよ」

「ミーシャ……」


 ユイが涙を流す。ミーシャに怪我をさせた日を境に、ユイは泣いてばかりいた。


「もうひとつ、ユイに言えなかったことがあるんだ。わたし、ユイが好きなの」

「ユイも、ミーシャのこと好きだよ……?」


 意味が伝わっていないことを知りながら、ミーシャは続けた。

 

「わたしの恋人になって」

「えっ……」


 ユイから表情が消えた。

 この反応は予想していたものだったが、なぜだかミーシャの心がざわめいた。

 

 そして、すとんと腑に落ちることに思い当たった。

 

 あのとき……ミーシャがパーティーメンバーから告白されたときも、きっとこんな顔をしていたのだろう。

 

 ミーシャは振り返って、一生消えない火傷の痕を見せながら嬉しそうに言った。

 

「ユイはわたしのこと、捨てないよね?」

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大好きな幼馴染を殺しかける話 ささみし @sasamishi

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