No aim, a long way 04 黒風と銀旋

「よせ! お前には無理だ!」

 ヘイロウに向かって走り出すナキビをアタラギは止められなかった。そのナキビの前にブンギが飛び出し行く手を塞ぐ。

「何をする気だ、あん? そんなできっこねぇことをよ!」

 ナキビは為す術なく短剣を払い落とされ、ブンギに羽交い締めにされる。

「後腐れがないようにしてやったんだ、おとなしく俺のもんになりな。ヒッヒ……がっ! て、てめえ!」

 股間を蹴られてブンギの拘束が緩む。逃げ出したナキビを追おうとするも、その背中にアタラギの投げ矢が突き刺さる。

「なっ……がぁ、クソが!」「早く逃げろ、ナキビ!」

 しかしその隙をヘイロウが見逃すはずがない。災禍猿サスカッチの鋭い爪がアタラギの目をえぐる!


 倒れたまま荒い息を繰り返すアタラギをヘイロウと災禍猿サスカッチ、ブンギが見下ろす。アタラギの体にナキビが縋りついて号泣している。

「アタラギ……どうして! ごめん、ごめんなさい……死なないで!」

「死にはせんだろう。殺さない代わりに親父への言づてを頼もうか。『せいぜい震えて眠れない夜を過ごすがいい』とな。ハハハハハ!」

「ほれ、お前は一緒に来るんだよ! 早く立て。でないと猿に食わせちまうぞ?」

 ブンギがナキビを立たせようとする。

「……よ」「あん? 何か言ったか?」

「だったらそうしなさいよ! 生き地獄と分かって誰がついて行くもんか!」

「このあま、調子にのるんじゃねえぞ! よぉし、だったら……えっ?」

 山刀を抜こうとしたブンギだったが、額を撃ち抜かれ放心した顔でどっと後ろに倒れた。それを見てヘイロウが辺りを探る。

「誰だ? まだ仲間がいるのか」

『いや、追ってきたのはその通りだが別口だ。お前よりもその災禍猿サスカッチに用がある』

「何だと? そうか【魔狩斗マガツ】……魔獣退治の専門家」

『専門という訳じゃないがな。頼まれれば害虫駆除も請け負うぞ』

「害虫? ……言ってくれる。だがいつまでそうしているつもりだ。正体を見せろ!」

 ヘイロウの呼びかけに森の闇の中から二人、顔を仮面で隠した陣羽織のサムライが現れる。

『われら双頭狼オルトロス流星ナガレボシ見参……』

『……えーっと、ま幻影マボロシ?』

『……ったく、お前はいい加減に口上を覚えろ!』

『僕はいいよ。だいたい何で狙撃手が前に出るのか意味が分からない』

『そこは前にも言っただろう。名を売らなければ何も始まらんのだ』

『そういう評判は人づてに噂で広まっていくんじゃないの?』

『甘いな、そんな殿様商売で冒険者稼業がやっていけると思うか?』

『えーっ、そうかなぁ?』

『そ・う・い・う・も・の・だ!』

「いい加減にしろ! 何なんだお前ら……夫婦喧嘩なら後でやれ!」

『夫婦じゃない!』

『今はまだね』

『ちょっ! 幻影マボロシ、こらぁぁ!』

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【きみなぐ!】物理の聖女とこじらせ魔王『君が世界征服を諦めるまでボクは殴るのをやめないッ!』 桜盛鉄理/クロモリ440 @kuromori4400

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