No aim, a long way 03 ヘイロウと災禍猿(サスカッチ)

 ヘイロウは5年前の暗黒島クロガシマの【大討伐】で死んだと思われていた。しかしその変わり果てた姿が【大討伐】のすさまじさと暗黒島クロガシマという魔境からの生還の過酷さを物語っている。

「それでも生きていたなら、何故戻ってきてくれなかったんだ?」

「こんな姿で帰って何になる。御家大事の親父のため息が増えるだけのことだ」

 そう言ってヘイロウは垂れたほうの袖を振って自嘲する。

「それは……だからと言って野盗はないだろう!」

「お前はどうか知らんが俺は好きにさせてもらう。もう捨て駒にされる気は無いのでな。どうせならお前も仲間にならんか?」

「ふざけるな! 俺は冒険者になったんだ。腐っても野盗など!」

 アタラギは改めて両刃の長剣を構える。他の冒険者もそれに倣う。

「この魔獣、災禍猿サスカッチを見ても引く気はなしか。さすがは【剣持ち】というところか。よかろう、ならばせいぜい抗って見せろ!」


 引っこ抜いた木を振り回し投げつける。槍で囲んで追い込んだつもりでも跳躍を許せば上から長い手足での鞭のような攻撃がくる。【城落とし】との異名を持つ災禍猿サスカッチの暴れっぷりに、冒険者たちも一人また一人と戦線を離脱していく。

「やはり殺すには惜しいな。降参して仲間に入らんか? 金は奪いたい放題、女は抱きたい放題の自由気ままの豪遊暮らしだぞ」

「追われる者の何が自由だ! それと、ナキビをそこらの飯盛り女と一緒にするな」

「ふん、そんな女に今更何の義理立てだ。もう何もかも無くしたというのに」

「何を……言っている?」

「知らぬが仏か。あの村は見せしめに燃やしてやった。【魔狩斗マガツ】を呼び寄せたからな。村長むらおさは自分よりその娘の命乞いをしていたがな? ハハハハハ!」

「そんな……よくも父を! この人でなし!」

 ナキビが怒りに震える。嫌っているとはいえ肉親を殺されて平気ではいられない。短剣を拾って体を低くする。

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