第2話 冒険者ギルド、そこは短期雇用斡旋所
“ガタガタガタガタ”
土の街道を馬車に揺られ移動すること暫し、執事長ゴルドバに連れられ向かった先にあった建物、そこは多くの冒険者と呼ばれる者たちが集う場所であった。
“ガチャッ”
「シャベル、降りなさい。ここが冒険者ギルド、これからお前が世話になるいわば新しい職場です」
執事長ゴルドバに促され馬車を降りたシャベルは、多くの冒険者たちから向けられる好奇の視線に一瞬戸惑うも、先を進むゴルドバに置いて行かれまいと急ぎ後を追いかけるのだった。
「これはゴルドバ執事長、本日はどの様な御用でしょうか?」
冒険者ギルド建物の中に入ってきた彼らに声を掛けたのは、ギルド受付を取り仕切る責任者のキンベルであった。
「あぁ、キンベル殿、お騒がせして申し訳ない。今日は何か緊急の依頼があって尋ねたのではない。以前お話しておいた件でね、これが例の者だ、以降よろしく頼む。
シャベル、ここから先はこちらキンベル殿に説明を聞き手続きを行うように。
くれぐれも旦那様の言葉を忘れない事、しかと肝に銘じなさい」
「はい、ゴルドバ執事長にはこれまで大変お世話になりました。小屋の荷物は今週のうちに片付けておきます。お忙しい中本当にありがとうございました」
執事長ゴルドバに深々と礼を述べるシャベル。執事長ゴルドバはそんな彼に一瞥を向けると、用は終わったとばかりに踵を返し冒険者ギルドを後にするのであった。
「えっと、それじゃシャベル君と呼んだらいいのかな、冒険者手続きについて説明するからこっちに付いて来てくれ」
シャベルはキンベルに促されギルドの受付カウンターへと向かうのだった。
「それじゃまずは冒険者ギルド会員登録を行うから、教会から渡された鑑定書を見せてくれるかな?」
キンベルに言われるがまま懐から鑑定書の入った封筒を取り出すシャベル。
キンベルは“中身を拝見するよ”と一言声を掛けてから、鑑定書を取り出すのだった。
鑑定書
名前 シャベル
年齢 十五歳
職業 テイマー
スキル
棒術 魔物の友 自己診断 採取 索敵
魔法適性
なし
「ふむ、ちょっと聞いてもいいだろうか?シャベル君の事情はある程度ゴルドバ執事長から伺っているんだが、もしかして冒険者になる為の訓練でもしていたのかね?
このスキル構成からだとそうとしか思えないのだが」
訝しみの視線を向けるキンベルに、シャベルは素直に事情を説明する。
「はい、私の職業がテイマーであり尚且つ底辺魔物しか使役出来ないスキル<魔物の友>を持っていることが発覚した時から放逐されることは決定していましたので。
幸い屋敷の下男として勤めていたものは元冒険者をしていた者でしたので最低限必要な技能の手解きを行ってもらい、あとは只管訓練を。
まぁそれも仕事の合間ではありましたが、何とか採取と索敵だけはスキルとして身に付ける事が出来ました。
少なくともこれで薬草採取を行う事が出来ますので」
シャベルの落ち着いた受け答えに感心するキンベル。だがそんな彼に一つ注意しておかなければならない事があると思い出し、口を開く。
「あぁ、うん、シャベル君が十分先を見据えて準備をしてきた事はよく分かったよ。だけど一つだけ、その丁寧な言葉遣いは冒険者として少し問題かな?
冒険者は簡単に言えば何でも屋だ。その業務は多種多様、荒事も多い為その出自を問わない代わりに気の荒い者も多い。そんな者の中にやけに品のいい言葉使いのきちんとした者がいたらどうなると思う?
絡まれることは確実だろうね。
冒険者にはなめられたらお終いと考える者が多い、そういう者からすると丁寧な言葉遣いは馬鹿にされてる様に感じてしまうんだよ」
キンベルの説明に驚きの表情を浮かべるシャベル。これまで徹底して丁寧な言葉使いに気を付けていた彼にとって、その言葉使いが否定される事は衝撃以外の何物でもなかった。そして自分がいかに狭い世界で暮らして来たのかという事を改めて実感するのであった。
「そうですか、分かりました。いえ、分かった。うん、難しいですね。まぁぼつぼつやって行こうと思います。変に肩肘を張るのも性に合いませんから」
三つ子の魂も百まで、長い時間を掛けて身に付けてきたものは急に変えることは難しい。だが朱に交われば赤くなるとも言う。
シャベルはこの辺はなる様にしかならないと、問題を先送りにすることにしたのであった。
「まぁそうだね、一応心に留めおいてくれればいいだろう。それでは冒険者の説明をしよう。先ほども言ったが冒険者とは簡単に言えば何でも屋の集団だ。依頼を受けそれをこなす、その結果によって報酬をもらう。
よく“冒険者は強さが全て”と言う者がいるが、それはある意味正しいとも言えるし間違っているとも言える。冒険者の依頼はその名の如く討伐依頼や採取依頼などが含まれる。その仕事はまさに冒険と呼ぶにふさわしい困難なものも多い。
そうした仕事を
依頼人にとって大事なことは依頼内容の完遂、その仕事が丁寧かつ正確に行われる事に越したことはない。つまりただの力自慢ではダメという事なんだよ。その辺がよく分かっていない冒険者が多くてね、自分より仕事の出来る新人冒険者に難癖を付ける事が多いんだ。
シャベル君は今までの態度から見るにそうした点は問題ないだろうが、絡まれる対象になりそうな要素が多くてね。そこは十分気を付けてくれたまえ」
キンベルの説明に途端顔をしかめるシャベル、厄介事の匂いしかしないとの宣告はあまり歓迎出来ない事態であったからだ。
「では説明を続けるよ?
冒険者には鉄級、銅級、銀級、金級、白金級、金剛級の階級分けがある。鉄級は成り立ての冒険者、銅級は初級冒険者と呼ばれる階級だ。
このクラスの冒険者は各領間の自由な移動が許可されてはいない。それは単に危険であるという意味もあるが、都市に人口が流入して犯罪が多くなることを防ぐ意味合いの方が強いかな。
都市間の移動は魔物や盗賊の危険が伴うからね、それに対処できない人材は半人前と言うのが冒険者ギルドの判断なんだよ。
次に銀級冒険者、これは俗に言う一人前の冒険者、商人の護衛を行う者や盗賊の討伐、魔物討伐の主戦力はこの銀級冒険者となる。
金級冒険者は更に上、依頼を正確に熟すばかりでなく、その強さや品格も求められる所謂冒険者の上澄み。冒険者ギルドの顔とも呼べる存在なんだ。
現在ここスコッピー男爵領には残念ながら金級冒険者はいないんだよ。それはこのスコッピー男爵領が比較的平和である証左でもあるから文句も言えないんだけどね。
最後に白金級冒険者、彼らは所謂伝説的存在だね。その強さはもとより人間的にも素晴らしい者が多く、市井で語られる冒険譚も彼らの活躍を題材にしたものが多いんだよ。その条件はワイバーンを討伐する事、ワイバーンなんて厄災としか言えない魔物を倒せるという時点で私などからしたら雲の上の人間としか言えないかな?
金剛級は気にしなくていいよ、一番近いところで百六十年前の剣の勇者様がそれに当たるかな。ドラゴンと三日三晩戦いその実力を認められたり、魔王討伐を成し遂げたり。金剛級とはそうした偉業を成し遂げた者に送られる名誉の称号みたいなものかな。
白金級冒険者が冒険者の最高峰、通常の冒険者の中では金級冒険者が頂点と考えてもいいかな?冒険者に憧れる若者が目指すのがこのクラスだね」
キンベルはシャベルの鑑定書に改めて目を向けながら言葉を続ける。
「シャベル君は既にシャベル君という事なんだね。まぁ話に聞く限りその生活が急激に変わるものではないとは思うけど、住む場所や食べ物を得る為に働かなければならない事には変わりがない。
成り立ての鉄級冒険者が出来る仕事は、街中の雑用か薬草の採取になるがどうするかな?
次の銅級に上がるには薬草採取を五回、街の雑用を三回熟す必要があるんだが」
「はい、その事は屋敷にいた元冒険者の下男に聞いています。薬草の採取は常時依頼だとか、屋敷
シャベルはそう言うと肩掛けカバンから薬草の束を十五束取り出した。キンベルは近くの職員を呼び薬草依頼の処理を頼み、冒険者カードの発行処理を行うのだった。
「それじゃこれがシャベル君の冒険者カードになる、通常は登録に銀貨一枚、再発行に銀貨三枚掛かる。登録費用は既にゴルドバ執事長にいただいているので気にしなくてもいいよ。なくさない様に首から掛けておくことをお勧めするよ。
ん?薬草の方は問題なしだったのかい?どうもありがとう。
シャベル君の提出した薬草は処理も全く問題がないようだね、評価もすべて優良となっていたよ。銅級冒険者までは薬草採取も昇格の評価に加算されるから、時間があれば続けて欲しいかな。
薬草採取依頼は一件に付き三束、今回提出してくれた十五束で鉄級の必要数は完了としておくよ。それとこれが依頼料、一束銅貨七枚で三束で銅貨二十一枚、依頼五回分で銀貨一枚と銅貨五枚だね」
「ありがとうございます。確かに受け取りました」
シャベルはキンベルから鉄級の冒険者カードと依頼報酬を受け取るとそれを巾着袋に入れ、カバンにしまい込むと深く頭を下げ礼を述べるのだった。
「それでこの後はどうするのかな?一応冒険者登録はこれで終わりになるが」
「はい、出来れば街の雑用依頼を受けたいのですが。早く銅級に上がって収入を確保しませんと、宿屋に泊まるのも一苦労となりますので。
聞いた話ではそこそこの宿で一泊銀貨一枚は掛かるとか、さっきの薬草でも一泊しか出来ませんし、せめて生活が安定するくらいには稼ぎませんと。出来る限り頑張りたいと思います」
「そうか、シャベル君は現実を見据えているって言う事なのかな。簡単な依頼だとこの荷物運びの依頼がおすすめかな?」
キンベルはそう言うと手元の依頼束から適当な依頼を見繕いシャベルに勧める。
男爵家からの正式な放逐、新しい身分としての冒険者登録、平民シャベルの人生が今ここに幕を開けるのであった。
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