異世界に転生したがどうやらこの世界に男は俺一人らしい

伊咲有

女だらけの世界に男は『俺』一人きり

ある日、ダイビングが趣味の俺は友達と沖縄でダイビングを楽しんでいた。

美しいラグーンの通路を通り抜け、最高の気分で泳いでいた。

しかし、ふと違和感を覚えて振り返ると、一緒にいたはずの友人たちの姿が消えていた。

暖かい海の中、一瞬で背筋が凍る。

見通しの良い沖縄の海で周りに誰もいない。

どうして

怖い

はぐれた

いつから

帰れない

そんな考えが頭の中を渦巻いている。

深呼吸。

エアは十分に残っている。

慌てるな、慌てず、落ち着いて浮上しよう。

そう思った矢先、一匹のジンベエザメが俺の頭上を通過していった。

でかい

そんなありきたりな感想を抱いた瞬間、何かにぶつかったのか俺の体に大きな衝撃が走る。

ブゥーンンと言う不思議な音と共に俺の意識はブラックアウトしていた。


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ザーと言う波の音が聞こえる。

暖かなと言うにはいささか刺激的な太陽の光を肌に感じる。

ここは、ビーチだろうか。

そこで『俺』は寝転がっているようだ。

『俺』は一体どうしたんだろう。

体を起こして閉じていた目を開く。

そこには、ビーチで佇む一人の少女が立っていた。

明るい黄色のビキニを着て、金髪のポニーテールに大きな赤いリボンが特徴の美少女だった。

「あ、あの…」

「あ、起きたんだ!よく寝てたね!」

金髪のポニーテールの少女がそう言う。

いや、『俺』は確か海の中で意識を失ったはず…寝ているとかそう言うレベルの話ではない。

もしかしてこの少女が助けてくれたのだろうか。

「ええっと、助けてくれたのか?」

「助ける?なんのこと?」

どうやら違ったらしい。

しかし、『俺』の声ってこんな声だっただろうか。

「なーに寝ぼけてんのよ?」

後ろから強気な女の子の声が聞こえてくる。

振り返るとそこには青い髪の癖のあるポニーテールの美女が立っていた。

青いビキニ姿で、モデルのようなスタイルをしている。

「さっきまで海に潜ってたと思ってたんだけど。」

「今日はまだ潜ってないわよ?」

「そうだよ、今から潜るんだもんねー!」

次はだれだ?活発そうな女の子の声が近づいてくる。

声の主をみると、ピンク色のツインテールでスレンダーな美少女が『俺』たちの方へとやってきた。

この子も例にもれず、ビキニスタイルだ。

ピンクと白のスポーティなタイプでとても可愛い。

しかし、彼女たちに見覚えは一切ない。

彼女たちはまるで友人のように話しかけてきてくれているが全く心当たりがない。

そこでふと自分の姿を見る。

いつの間にかウエットスーツは着ておらず、ビキニパンツ一枚の姿になっていた。

いや、気にするところはそこではない。

『俺』はいつの間にこんなにボディビルダーのような体系になっていたんだろうか。

まるで別人だ。

これは噂に聞く異世界転生と言うものだろうか。

『俺』はこの名も知らぬマッチョに転生して、彼女達はこのマッチョの友人…いや恋人かもしれない。

しばらく寝ぼけたふりをしてそれとなく情報を探ってみるとしよう。


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『俺』はなんとか頑張って情報を聞き出してみたが、どうにも、頭を抱えたくなる世界のようだ。

『俺』を含む彼女達は普段からこの海、おそらくビーチの奥に家でもあるのだろうがそこで生活しているらしい。

そして驚くことに、ここにいる人間は彼女達三人と、『俺』一人。

噂に聞く異世界転生でも、美少女ハーレムモノだったのか、と思ったがどうも彼女達は『俺』との間にラブがあるようには思えない。

珍獣ポジションだったのだろうか。

しかし、『俺』含む彼女達の世界には人里はないのだろうか。

先ほどまで『俺』がいたはずの沖縄は知っているようだが今いる場所とは遥か彼方のようだった。

ならここはモルディブか何かなのかと思ったが、沖縄以外の国は知らないと言う事だった。

かろうじて雪山と言うキーワードが出てきたがどうなっているのだろうか、この世界は。


「それじゃあ、今日も潜ろうよ!」

『俺』が腕を組み悩んでいると、金髪のポニーテールの少女が言う。

「そうね、行きましょうか。」

「わーい!ザブーン!」

金髪の少女が海に向かって走っていくと、青髪の美女、ピンク髪の美少女と続いて海へ走っていった。

ダイビングの装備は一切つけていないから素潜りだろうか?

「気を付けてなー!」

『俺』はそう言って彼女たちを見送った。

もう海に浸かっている彼女たちは手を振ってそれに応えてくれた。


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彼女達が水中に潜って10分は経った。

その間一切息継ぎに浮かんでくる様子が見られない。

もしかしてと嫌な考えが過る。

三人いて全員溺れてしまっているのではないかと。

「マジかよ!」

慌てて俺も海に向かう。

彼女達が潜っていったであろう所に向かって潜水する。


潜水した先では、なんと金髪の少女が2匹のサメに囲まれていた。

「危ない!」

水中なのに思わず叫んでしまう。

しかも彼女は水中で手をバタバタさせている様子だった。

そんな彼女に向かってもう一匹のサメが迫って来ていた。

急いでサメを追い払おうと近づくも、距離かありすぎる。

間に合わない!

そう思ったときサメは彼女を無視して通り過ぎて行った。

そして、彼女を囲んでいた2匹のサメもどこかへと泳いで行ってしまった。

だが、彼女は10分以上も呼吸をせずに水中にいる。

急いで救助しなければ!

そう思って近づいていると、彼女がこちらを向いて手を振る。

助けを求めていると思ったが、その顔には笑顔が浮かんでいた。


そして、彼女は『俺』の方へと向かってくると「やっと来たー!」と声をかけてきた。

声を?

水中なのに?

そう言えばさっき『俺』も叫んでいた。

ここは本当に異世界で、もしかして水中で生活できる種族だったのだろうか。

「あ、タコさんが呼んでるから行かなきゃ!」

そう言うと彼女は再び深くに潜っていった。


その姿を見ていると、なんだか無性に『俺』も海の生き物と戯れたいと言う気持ちが込みあがってくる。

そうするのが正しい行いのように思えてきた。

俺は気が付くと、彼女を追い越し、タコの群れへと泳いでいた。


そして、タコの群れの中でポージングを決めていた。


ああ、そうだ『俺』は…

「ムッキムキ!」

『俺』はサムだったんだ!




海物語のサムに転生した男~

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異世界に転生したがどうやらこの世界に男は俺一人らしい 伊咲有 @isakyu

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