第269話 変わらない優しさ
アンリは八歳になった。
これで半分は大人と言ってもいいはず。背も伸びたし、結構腕の筋肉が付いたと思う。お母さんは「女の子はもっとおしとやかなほうがいいのよ」とか言ってるけど、その考えは甘い。今は女の子だってバリバリ戦う時代。
それにおじいちゃんとお父さんは強くなることは悪くないって言ってくれてる。そう、アンリはフェル姉ちゃんを負かすほどの強さを手に入れないといけない。
残念なのは冒険者ギルドで特例が認められなかったこと。なぜかアンリはユニークスキルがないことになってた。というか、使えないからないと同じ事みたい。アビスちゃんに改めて聞いても四つあるはずなんだけど。せめて一つでも使えたら良かったんだけどな。使えるようになったらもう一度申請しよう。
アンリが八歳になったと言うことはマナちゃんも今年八歳。なんていうかリエル姉ちゃんに似てきた。反則的な顔立ちになって来てる。この間、リエル姉ちゃんがマナちゃんをジッと見つめて、「結婚してもいいけど、俺の後な」ってすごく真剣に言ってた。マナちゃんは「リエル母さんにまだ嫁に行かないでくれって言われた」って喜んでた。当然、アンリは何も言わない。
反則的だといえば、スザンナ姉ちゃんもそう。ちょっとミステリアスな雰囲気を前面に出してきた。アンリ達といるときは違うんだけど、ちょっとクールな感じが村で人気だとか。お付き合いを申し込まれたこともあるみたい。それらは全部断っているみたいだけど、リエル姉ちゃんは絡んでない。自分の意志で断ってる。
クル姉ちゃんも美人さんになった。今はちょっと里帰りでルハラへ戻ってるけど、すぐに帰ってくるって言ってた。なんか傭兵団の紅蓮でも色々と改革があるみたいで、その対応をしてくるって言ってたかな。多分、あと二、三日くらいで帰ってくると思う。
そういえば、最近はヴァイア姉ちゃんが村に良く来る。ようやく魔術師ギルドが落ち着いたみたい。ギルドの運営自体はクロウおじさんとかオルウスおじさんが色々やってるんだけど、ヴァイア姉ちゃんは魔道具の開発とか術式の考案で大活躍みたいだ。そういえば、この間、リンちゃんを連れてきてくれた。アンリのことを覚えていてくれて嬉しかったな。
それと、ヴァイア姉ちゃんは長距離転移魔法の別バージョンを編み出した。フェル姉ちゃんでも使える長距離転移魔法だ。たしか転移門という魔法。ただ、フェル姉ちゃんでも一日一回しか使えないみたい。それに色々制限があるとか言ってたかな。全然知らないところへは行けないとか、行けるようになるためには何日か滞在しないといけないとか。
アビスちゃんのダンジョンには登録してあるみたいだから、遺跡から帰ってくるときは時間が短縮出来たって喜んでた。アンリもフェル姉ちゃんにすぐ会えるから嬉しい。
リエル姉ちゃんのローズガーデンは冒険者さんが増えたからお客さんも増えた。前とは違って結構な稼ぎになってるみたい。それにリエル姉ちゃんの子供達も増えてる。最近は村に子供が増えてちょっと嬉しいかも。
問題はディア姉ちゃんだ。ニャントリオンの売り上げが減ってるみたい。お金自体はスザンナ姉ちゃんから借りてるからあるんだけど、収益が赤字になっちゃったとか。ラスナおじさんの言うとおりになったと思う。アンリも何か手伝えたらいいんだけど……たくさん服を買おうかな。
ラスナおじさんのヴィロー商会は結構利益を上げてる。冒険者に必要な物を取り扱ってるからそれの売り上げがいいみたいだ。
メノウ姉ちゃんのメイドギルドはメイドさんがたくさん増えた。そして一階で飲食店を始めたみたい。アンリも一度行って「良きに計らえ」ごっこをした。ああいう遊びは嫌いじゃない。
飲食店はやってるけど、ホテル妖精王国とは客層が被っていないみたい。それ以前にニア姉ちゃんの料理がすさまじいからいつも食事の時間は満員。メイドさん達が味を盗みに行ってるけど、あのレベルになるのは無理だと思う。でも、ヤト姉ちゃんはものすごく料理が上手くなってる。今はすでに副料理長って立場みたい。たった三年でニア姉ちゃんに追い付きそうなんて普通じゃないと思う。
村はいっぱい変わったし、みんなも色々変わった。でも、変わらないものもある。
もちろんそれはフェル姉ちゃんのことだ。あの頃から全然変わってない。不老不死ってこともあるんだけど、肉体的な事じゃなくて心が優しいまま。
そのフェル姉ちゃんが昼間に村の広場にいた。数日前に遺跡へ向かったのになんでいるんだろう。アンリとしては嬉しいけど、もう遺跡の調査が終わったのかな。
「フェル姉ちゃん、なんでいるの? もちろんいてくれるのは嬉しいけど、帰ってくるのが早くない?」
「いや、リエルが緊急事態だというから戻ってきたんだが」
「何かあったの? 村は平和だったけど」
「それが、リエルの子供の一人がリエルの肖像画を描いたんだよ。それを私に見せて、天才じゃないか? って言ってな。まだ遺跡の攻略中だったんだが、リエルの笑顔を見たら怒るに怒れん」
「そうだったんだ」
「まあ、丁度良かった。魔物の毛皮とか色々あったからちょっとニャントリオンへ売ってくる」
「もしかしてディア姉ちゃんのお店が危ないから、そういうのを持って来てるの? 今まではしてなかったよね?」
「私がそんな面倒くさいことをする訳ないだろ。たまたま遺跡にいた魔物を倒したらたまたま手に入ったから売るだけだ……まあ、ちょっとボロボロだから査定は安そうだけどな」
フェル姉ちゃんは亜空間からちょっとだけそれを見せてくれた。
フェル姉ちゃんは嘘が下手。どう考えても遺跡とかダンジョンにいない魔物さんの毛皮だ。それにものすごく綺麗。狩人のロミット兄ちゃんに教わったから分かる。ものすごく丁寧な解体をしたはず。でも、そこは突っ込まないのがやさしさ。
「ところで今日は一人か? 珍しいじゃないか」
「うん、スザンナ姉ちゃんは冒険者ギルドでなにかの手続き中、マナちゃんは孤児院のお手伝い、クル姉ちゃんはルハラに行ってる。スザンナ姉ちゃんとマナちゃんは用事が済んだら妖精王国に来る予定になってるから、アンリだけ先に行くつもり」
「そうか。今日はアビスへは行かないのか?」
「クル姉ちゃんがいないから帰ってくるまでダンジョン攻略はしないつもり。休暇も大事。大体、あのジャングルにいるワニさんに勝てない。ジョゼちゃんのお友達みたいだけど、ものすごく強くて困った。なにか対策を考えないと無理だと思う」
四人でも勝てないのに三人じゃ絶対に勝てない。以前ジョゼちゃんが魔界から連れてきた魔物さんみたいだけど、あんな低階層を守らせていいのかってちょっと愚痴りたい。
「デイノスクスと戦ってるのか。すごいな」
「あのワニさんはそんな名前なんだ?」
「そうだな。進化はしてないから種族名ではあるが、かなり強い。あれとは昔、喧嘩仲間だったから強さも知ってる。私が魔王になる前の話だが、結構戦ったぞ。それに昔はジョゼと同格だった。今はかなり差があるけど」
「そうなんだ? でも、戦ったことがあるなら、これで弱点を教えて」
「ヒマワリの種で買収しようとするな……アイツは噛む力は強いけど、口を開ける力は弱いんだ。口を縛れば、攻撃の一つは封じれると思うぞ。まあ、暴れながら回転するなんとかロールは危険だけどな」
「それはいい情報。次は必ず勝つ」
「そうだな、頑張れよ。それじゃ私はニャントリオンへ行ってくる」
「うん、それじゃ。今日は村にいるなら食堂に来て」
「分かった。あとで顔を出す。じゃあな」
フェル姉ちゃんはそう言ってニャントリオンへ向かった。
やっぱりフェル姉ちゃんは優しい。普段ぶっきらぼうな感じなのにみんなのことを気にかけてる。絶対に部下に欲しい。ちょっと下克上されそうな気がするけど。
よし、それじゃ妖精王国の食堂でみんなを待とうっと。
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少女と魔族と聖剣と ぺんぎん @penguin2000
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