第268話 孤児院ローズガーデンとミスリルランク

 

 夕方、冒険者ギルドに行ったクル姉ちゃんを妖精王国の食堂で待った。


 いつものテーブルに、アンリとスザンナ姉ちゃんとマナちゃんがいる。今の時点では水しか飲んでない。クル姉ちゃんが冒険者ギルドで魔石を換金してるからそのお金で何かを飲むつもり。


 今日の稼ぎがどれくらいになるかはわからないけど、リンゴジュースが飲めるくらいだと嬉しい。最近はアンリも自分でお金を払ってる。貯めるべきなんだろうけど、建て替えた妖精王国のためにも宿にお金を落として経済を回さないと。


 それはそれとして、今日は朝の勉強の時からマナちゃんが、というよりもマナちゃん達が嬉しそうだった。それによく見ると、何度も胸についた薔薇の造花みたいなものを触ってる。触る度ににへらって感じの顔になってるけどどうしたんだろう。


「マナちゃん、今日は朝から嬉しそうだけど、何かあったの?」


「あ、分かっちゃった? 実はね、この薔薇をリエル母さんから貰ったんだ。リエル母さんの手作りなんだよ?」


「そうなんだ? マナちゃんだけじゃなくてみんなが付けてたからお揃いってこと?」


「そう! 実は孤児院なんだけど、名前が付いたんだ。孤児院ローズガーデン」


「ローズガーデン? ええと、薔薇の庭園とかそう言う意味かな?」


「うん! 私達リエル母さんの子供はその薔薇の庭園にいるからってくれたんだ。薔薇のように気高く生きろって言われたんだ」


 薔薇のように気高く生きる。なかなかいい言葉のような気がする。こう、薔薇にはとげがあるから、誰にも媚びないぞってイメージは確かにあるし。


 でも、ローズガーデンってどっかで聞いたような? 誰かの名前だったような気がするけど、どこでだっけ? でも、ちゃんと聞いたことはない気がする。誰かがボソッと言ったのをチラッと聞いただけ……まあいいや。


「リエル姉ちゃんはたまにいいことを言う」


「リエル母さんはいつもいいことを言うよ? いま、リエル母さんの言った言葉をまとめてるんだ。あとで皆に見せるつもり」


「……そうなんだ?」


 アンリとしては疑問に思うようなことも言ってるけど、確かにリエル姉ちゃんはいいことを言う。それにリエル姉ちゃんはフェル姉ちゃん並みに男前。面倒見もいい。


 最近、ルハラにある聖人教から孤児を引き取って欲しいって言われて、何の躊躇もなく引き取った。一人増えれば当然食費も増える。でも、そんなことを考えることもなく二つ返事で了承した。


「今日から俺がお前達の母親だ!」


 そんなことを言って十歳くらいの男の子と女の子を三人まとめて抱きしめた。皆がちょっと泣いてたと思う。


 孤児院では怪我した冒険者さんを治癒魔法で治す代わりにちょっとだけお金を貰ってる。でも、決してたくさんのもうけがあるわけじゃない。今だってギリギリ黒字くらいだとか聞いた。それなのに簡単に引き取るのはすごい。


 それにすぐにおじいちゃんの勉強に参加させたり、お仕事させたりするために皆のところへお願いに行ってる。


 リエル姉ちゃんは普段眠ってばかりなのに、行動するときは早い。ちなみにマナちゃんはリエル姉ちゃんのお昼寝をお祈り中って言ってる。下手に否定すると大変なことになりそうなので、絶対に言わないけど。


 そういえば、そろそろ成人するリエル姉ちゃんの子供がいるって聞いた。たしか成人したら孤児院を出ないといけないってことらしいけど、大丈夫なのかな?


「マナちゃん、孤児院は成人したら出て行かないといけないんだよね? そろそろ十五歳になる人がいるみたいだけど、どうする予定なのか聞いてる?」


「うん、このまま孤児院のスタッフさんをやるんだって」


「あ、それでいいんだ?」


「でも、衣食住の面倒は見ないってリエル母さんが言ってた。厳しいけど、仕方ないよね。いつまでもリエル母さんの庇護下にいる訳にはいかないし。リエル母さんは独り立ちしたら、いい男見つけて、幸せな家庭をつくれよっていつも言ってる」


「いつも言ってるんだ?」


「リエル母さんはいつも家族を大事にしているからね。私も成人したらこの孤児院のスタッフになろうと思ってるよ」


 マナちゃんはすでに将来を決めているみたいだ。まだアンリと同じ七歳なのにすごい。まあ、アンリも成人したら人界征服に乗り出すけど。


「皆お待たせ、魔石を換金してきたよ」


「おかえりなさい、クル姉ちゃん」


 あれ? なんだかクル姉ちゃんが嬉しそうにしてる。それにチラチラとギルドカードを見せてるような。いや、チラチラっていうか露骨に。これは指摘したほうがいいのかな?


 でも、アンリが何か言う前に、スザンナ姉ちゃんが「あ」って言った。


「もしかしてランクが上がった? それってミスリルランク?」


「あ、分かる? いやー、そうなんだ! 今日、ゴールドランクからミスリルランクに上がってね! 長かった!」


 分かるって言うか分かるように見せてた気がする。でも、そこを指摘しないのがやさしさ。


「おめでとう、クル姉ちゃん」


「おめでとうございます、クルさん」


「おめでとう」


「ありがとう! 十五でミスリルランクってなかなかないよね! 普通だったら十五からしか冒険者ギルドに所属出来ないし」


「何を隠そう、私は十五歳でアダマンタイト。もっと言うなら十三の頃からアダマンタイト」


「知ってるって。でも、ユニークスキル持ちのスザンナと一緒にしないでよぅ。これでも一生懸命頑張ったんだから、その努力を誉めて」


 みんなでクル姉ちゃんを褒め称えた。確かにスザンナ姉ちゃんのユニークスキルは反則。それがないクル姉ちゃんは普通の人と言ってもいい。十五歳でミスリルランクなのは結構すごいことだと思う。


 そういえば、以前ディア姉ちゃんに聞いたとき、特例なら冒険者ギルドに八歳から所属できるって聞いたことがある。


 そしてアンリは七歳ちょっと。


 なんてこと。あと一年も待たずにアンリは冒険者ギルドに所属できる。


「実は来年、アンリは八歳になる」


「えっと? 知ってるけどそれがどうかした? できれば今日のお祝いは私のことをお願いしたいんだけど?」


「それは関係なくて、アンリも来年なら冒険者ギルドに所属できる歳。特例でギルドカードを作ってもらうにはどうすればいいの?」


「特例の八歳って相当すごくないとダメだよ? それこそスザンナ並のユニークスキルを持ってないとダメじゃないかな?」


 ユニークスキル……?


 そういえば、以前、アビスちゃんがアンリは四つもユニークスキルを持ってるって言ってた気がする。いまだに使えるような気はしないけど、アンリはまだ覚醒してないってことかな?


「使えないけど四つ持ってる。これじゃダメかな?」


「冗談が過ぎて面白くないよ。そういうときはもう少し信ぴょう性のある形にしないと」


 アビスちゃんが嘘を吐くとは思えないし、本当のことだと思うんだけどな。


 そうだ、今度ギルドのネヴァ姉ちゃんに詳しい話を聞いてみよう。この間は絡まれちゃったけど、今度は絡まれないように外までネヴァ姉ちゃんを呼び出せばいいと思う。


「ねえねえ、それよりもさ、私のことを祝ってよぅ。あんまりそういうイベントが少ないんだから、こういうのは大事にしたい」


「うん、それじゃ、アンリは今日の稼ぎを全部出す。なにか美味しい物を食べよう」


「マナも出す。じゃんじゃん食べよう。今日は無礼講」


「二人が出して私が出さないわけにはいかない。アダマンタイトの力を見せる」


「すごいことになりそうだね! よーし、今日は楽しむよ!」


 アンリ達だけのプチ宴会。なんだか大人っぽい感じでいい。クル姉ちゃんがいうように今日はたくさん楽しもう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る