泣き顔

家族とドライブしてたときの話。

もう二十年ぐらい前かな。

どこに向かう途中だったかはもう忘れちゃったんだけど、なんとなく、窓の外を眺めてたわけよ。

あるでしょ?君もそういうこと。

誰も何も話してなくてもさ、家族だから特に気にすることもなくって。

なんとなく、居心地いい無音の空間で、車窓に肘ついて、外の景色を見ること。

うん。別に、何を見たかったってわけじゃなくてさ。

後ろに流れてく枯れ木とか、なかなか途切れないガードレールとか、なんとなくそういうものを目で追いかけたりしてたんだ。

そのときにさ。

目に入ったんだよ。

泣き顔が。


どういうことかっていうとね。

ほら、ガラス張りの建物に、内側から掲示物が張られてることってたまにない?

パッと思いつく例だと学習塾かな。

何人がどこどこ高校に合格しました、とか、卒業おめでとう、とかさ。

ああいうのって車窓からでも見えるようになのか、結構大きい字で書いてあるじゃん。

サイズ感はあんな感じ。

あんな感じで、ぺたって。

内側からはりついてたの、その顔が。


え?いや、二十年前の話って言ったじゃんか。

そんな細かいとこまで覚えてないよ。

見間違いだったのかもしれないし、何かのポスターだったのかもしれないし。

でもまあ、当時9歳の私の目に、くっきり焼き付いちゃったんだよね。

だからほら、見てこれ。

いや、ここここ。

左目。

わかんない?

もうちょっと近づいてみてよ



その目の中に、小さな泣き顔が映っていた。

この世の全てを悲しみ尽くしてまだ悲しみ足りないような。

泣く為だけに悲しんでいるような空っぽの泣き顔が。

どんどん大きくなっている。

どんどん大きくなっている。

どんどん大きく

違う、近くなっている。

どんどん近付いてきている。

こっちを見た。



「ああすっきりした!いやあ、ずっと視界にへばりついててさあ、すごく邪魔だったんだよね、それ。由来とか因果とかは全然わかんないけど、私はもう関係ないしなんでもいいや。じゃあ、君も頑張って他の人に押し付けなね」


その泣き顔が、僕の目に焼き付いてしまった。

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恐ろしい顔 過言 @kana_gon

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