第10話エピローグ

 


 翌朝、普段感じない温もりで目が覚める。

 横には一糸纏わぬ姿でレイナが寝息を立てていた。


「んっ」


 レイナの艶かしい息遣い。

 昨夜の情事が頭の中で、段々と思い起こされる。

 今ひとつ実感が湧かない。

 これ程の美女とそういう関係になるなど、俺には一生縁の無い話だと思っていた。


「俺、レイナとしたんだよな」

「ッ」


 俺がポツリと呟くと、寝ている筈のレイナの肩がビクンと跳ねる。


「‥‥‥レイナ、起きてるだろ」


 俺が体を動かして、レイナの顔を覗こうとすると顔を手で抑えられた。


「だ、駄目。今顔見られたら、恥ずかしくて死んじゃう...」


 何だこの可愛い生き物。

 枕で顔を隠しているが飛び出た耳は真っ赤に染まっている。


 きっと今のレイナは、昨日の情事を鮮明に思い出して悶えているのだろう。

 かく言う俺も、表面上は平気な顔をしているが羞恥でどうにかなりそうだ。

 お互い初めての経験だったのだから仕方ない。


「ねぇ。本当に...私が美人に見えてるの?」

「まだ疑ってるのか?」

「だ、だって...」


 何度も聞いた疑いの言葉だが、同じ言葉でも昨日のような明確な拒絶は感じられない。

 疑っているというより、戸惑いの方が強いのだろう。

 しかし、こうもしおらしいと悪戯をしたくなる。


「なんなら、もう一回教えようか?体で」

「......うん」

「え」

「‥‥‥お願い、します」


 冗談のつもりで言ったのだが、返ってきたのはまさかの同意だった。

 どうしよう。こんな朝っぱらから致したら歯止めがつかなるぞ。

 レイナの方を見ると、ギュッと目を強く閉じて小刻みに肩を震わせていた。

 湯気が出そうなくらい、顔を真っ赤に染めているレイナ。


 これは、もしかしなくても俺が襲ってくるのを待っているのだろうか。

 俺が動く気配がないのが不安になったのか、チラチラと目を開けて此方を見てくる。

 チラリと見える瞳には、明らかな期待の色。


 いやこれは我慢出来ないだろ。



 ◇



 結局俺達が寝室から起き出たのは、既に日が落ちかけている頃だった。


「つ、疲れた‥‥‥」


 初試合で何戦もしたのが良くなかった。

 心なしか顔がげっそりと痩けた気がする。

 俺の中の獣を抑える事が今後の課題だな‥‥‥


「ふふーん♫」


 それに引きかえ、レイナの肌がツルツルと潤っているようで、いつにも増して艶っぽい。

 あれだけ激しく動いたのに、今は元気に夕飯の支度をしていた。

 これ程ニコニコと機嫌の良いレイナを見るのは初めてだった。


「はい、出来たわよ。食べましょう?」

「‥‥‥あの」

「んー?どうかしたの?」

「何で隣に座るんだ?」


 食事を摂る時はいつも向かい合わせだった筈が、何故か今日のレイナは俺の隣に座っていた。

 少し動けば肩がぶつかるくらい距離が近い。


「え、恋人なら隣同士で食べるでしょう?」


 どうやら、レイナの価値観ではヤったら付き合う事になるようだ。

 俺としては、レイナと恋人になるのは吝かではないというか、寧ろ俺の方からお願いしたいくらいだから何も問題はない。

 だが、やはり俺の価値観では男の方から交際を申し込んで付き合うべきだと考えてしまう。

 考えてしまうが、上機嫌なレイナに水を差したくないので無いも言わないでおこう。

 昨日のように荒れたレイナは、出来るだけ見たくない。


 それにしたって、食事時に隣同士で座る恋人はバカップルくらいだと思うんだが‥‥‥。


「ねぇ、今日はお風呂に入らない?」


 食事が終わると、レイナがそう言ってきた。

 この世界では平民の家庭に浴槽がある事は珍しい。

 基本的には皆水浴びで済ましている。

 だが、レイナの家には浴槽が完備されてあった。

 毎日使う事はないのだが、綺麗好きなレイナは偶に風呂に浸からないと気が済まない時があって作ったらしい。

 つまり、今日がその日という事なのだろう。


「いいんじゃないか?」

「い、一緒に入りたいんだけど‥‥‥駄目?」

「ブゥッ!」


 レイナの提案に思わず吹き出してしまった。

 しかし、今日のレイナは些か積極的過ぎないだろうか。

 これから毎日こうなのか?


 ‥‥‥


 うん、何も問題ないな。

 寧ろ大歓迎だ。


「よし、入ろう今すぐ入ろう」

「あ、待って。まだお湯沸かしてないわよ」

「なら今すぐ入れよう」

「もう、そんな焦らないで。ふふ」

「俺が背中拭いてやるよ」

「あら、背中だけ?」

「ま、前も‥‥‥いや、ぜ、全身‥‥‥」

「ふふ、ならお願いね?」


 ちょっと積極的過ぎるだろ!!

 レイナってこういう事言うタイプだったか?

 もしかすると、今まで抑えていたものが一線越えて爆発したのだろうか。

 嬉しいし大歓迎なのだが、これ以上やられると俺の身が持たない可能性がある。下半身的な意味で。


「な、なぁ。今日はどうしたんだ?」

「どうしたって?」

「いや、随分積極的だなと思ってだな‥‥‥」

「‥‥‥引いた?」

「引くわけないだろ」


 これ程の美女にこれだけ求められて引く男などいるわけないだろ。

 いや、この世界には寧ろそういう男しか居ないんだったな.....。


「ごめんなさい。実はちょっと試してたの」

「試す?」

「‥‥‥貴方が本当に私の容姿を好ましく思っているのかを、ね?」

「なるほど」


 そう言われると、今日のレイナの行動には思い当たる節しかないな。

 やはり言葉だけだけでは信じられないから、普段の生活の中で見極めようとしたんだろう。


「それで、結果は?」

「‥‥‥今までの事があるから嫌悪感や悪意には敏感なんだけど、驚くくらい好意しか感じられないわ。寧ろ、その、さっきからチラチラと私の胸やお尻を見る目がイヤラしくて驚いてるわ」

「......まじかよ」


 まさかバレてたとは思わなかった。

 そういえば女性は異性の視線に敏感だって聞いた事あったな‥‥‥。

 それはさぞかし嫌な思いをさせただろうと思い、俺は謝罪した。


「いえ、いいの。寧ろ興奮したわ」

「‥‥‥まじかよ」

「それで、何だか楽しくなってきちゃって」

「その結果、風呂に誘ったと」


 確かにとても見極めようとしてたとは思えないくらい、ノリノリだったもんな。

 勿論、俺もノリノリだった。


「‥‥‥ごめんなさい。私、本当に嬉しくて。でも出来るだけ我慢するわ」

「それは駄目だ」

「え?」

「俺は嫌なんて思わないから。寧ろ大歓迎だからもっとやってくれ」


 辞めるなんてとんでもない。

 俺は、嫌なんて感情になる事は絶対にない。

 だからレイナには今までの分も、やりたい事をやってもっと楽しく生きてほしい。


「もう、大好き!」


 俺はレイナに抱きしめられながら、頼むから体よもってくれと願った。



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美醜が逆転した世界で、俺は美女のヒモになる 蘭童凛々 @kt0222

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