未来を追って今を失う

ナナシリア

未来を追って今を失う

「受験生って、損してるよな」


 唐突に彼が言った。


「どういうこと?」


 あまりにも曖昧な言葉に、僕は深掘りして真意を尋ねる。


「あるかどうかもわからない未来ばっかり見て、今のことを放り出してる。高校生は今しかないのに」


「まあ、確かに。でも、あるかどうかもわからないってことはないでしょ。いつかは大学生になる」


「……どうだろうね」


 含みのある言葉に疑問を抱くが、一旦無視して話を続ける。


「だからって、変えられないよね」


「まあ、そうだよな。でも、俺は未来ばっかり見ててもつまらないと思う」


「みんなそうってわけじゃないんじゃない? 少なからず、受験勉強とか、そういうものに『今』の楽しさを感じている可能性もあるわけで」


 もしかしたらそれは新視点だったのかもしれなくて、彼は目を見開いている。


「つまりその、受験勉強に青春を見出しているみたいな人が少しはいるわけだ」


 彼は僕の話を言い換えて、飲み込む。


「つまりそれは、理想的だ。受験生が目指すべき到達点はそういうところなのか」


「というか、受験生だけの話ではないよね。みんなそう。大学生だって、就活とか重視することも多いし、お金を貯めるために働くのだって同じ」


 つまり、今の人間、特に日本人なんかは全般的に、未来ばかり見ている。


「なんというか、やるせな面白い」


「なんだその形容詞」


「遣る瀬無いだけでも、面白いだけでも、遣る瀬無くて面白いわけでもない。やるせな面白い」


 言ってることはわからないが、言いたいことはわかるような気がした。


「てかなんだ、このつまらないコントみたいな会話」


「青春なんてたいていそんなものでしょ」


「冷めてるなあ。俯瞰してるなあ」


「まあ、この世界との付き合いも長いし」

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未来を追って今を失う ナナシリア @nanasi20090127

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