駅構内の似顔絵屋さん
ジャック(JTW)
似顔絵屋の小筆さん
.˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
駅構内に佇む小さな似顔絵屋の店先には、
彼の描く似顔絵は、ただ特徴を写実的に捉えるだけでなく、その人の内面まで映し出すかのような温かみを持っている。彼が大切にしているのは、絵が出来上がるまでの間にモデルの人とお話しし、その人の人生観や雰囲気を取り込んだ絵を描くことだ。
彼にとって、似顔絵は単なる肖像画ではなく、その人の物語を紡ぐ手段であり、それが彼の絵に魅力を与えている。
.˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
似顔絵屋は、観光客やカップル、家族連れなど、様々な人々で賑わう。小筆はお客さんの表情や雰囲気をじっくりと観察し、その人の魅力を最大限に引き出すような絵を描くことを心がけていた。彼にとって、似顔絵を描くことは単なる技術の応用ではなく、お客さんとの交流を通じて得られるものだった。
お客さんとの会話は、小筆自身にとっても癒しであり、新しい技術やアイデアを研究する刺激となっていた。
しかし、似顔絵を描くことは決して簡単なことではなかった。様々なお客さんに応えるために、小筆は常に新しい技術やアイデアを研究し、時には描写に苦労することもあった。しかし、お客さんの喜ぶ顔を見ることができれば、その苦労も吹き飛んでしまうのだった。
彼の似顔絵屋は、お客さんとの交流や絵を通じて、温かい雰囲気が溢れる場所となっていた。
.˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
そんなある日、小筆の前に、ヨレヨレのスーツを着た平凡なサラリーマンといった出で立ちの男が現れた。彼は会社帰りのようで、『
小筆は、しゃがんでそれを拾い上げる。サラリーマンの彼の疲れた表情は、重荷を背負っているように見える。
小筆は、我楽の様子に心配そうに近づき、優しい声で尋ねた。
「あの……大丈夫ですか? 僕、駅構内で似顔絵屋を営んでいる、小筆と申します。今、初回無料サービスで絵を描いているんです。宜しければ珈琲もお出ししますし、その時間だけでも、ゆっくり休んで行きませんか?」
最初は戸惑っていた我楽も、小筆の優しい雰囲気に包まれると、少しずつ心が和らいでいった。彼は小筆の提案に応じ、似顔絵を描いてもらうことに決めたようだ。
「えっと……ありがとうございます。じゃあ、せっかくですし、よろしくお願いします」
小筆は、我楽の表情や雰囲気をじっくりと観察し、彼の人生観や心情を絵に表現することに集中した。彼の手がキャンバスに描く線は、ただ特徴を写実的に捉えるだけでなく、その人の内面まで映し出すかのような温かみを持っていた。我楽さんも、小筆の描く絵に自分自身を見つけていくような気持ちになっていた。
「名刺を頂戴しましたが、
「ええ、はい、そうです。大仰な漢字でしょう。移民登録する際に、妻に当て字を選んでもらったんですよ」
「格好いい名前ですね。漢字の意味もとても素敵です」
我楽さんは、みるみるうちに完成していく自分の似顔絵を見て、驚きと感動で言葉を失った。小筆の絵は、自分の内面を表現してくれているようで、過程を見ているだけでも心に響くものがある。
「指がこんなに繊細に動くなんて」
そう我楽が言うと、小筆は照れくさそうに微笑む。
「ありがとうございます」
小筆の描く絵は、ただ特徴を写実的に捉えるだけでなく、我楽の柔和さや穏やかさを表現していた。だからこそ、小筆のお店は、ただ似顔絵を描く場所ではなく、人々が心を開き、繋がる場所として愛されているのである。
やがて、我楽が珈琲を飲み終わった頃、小筆は彼の似顔絵を完成させて手渡してくれた。
「どうぞ。袋もお付けしております」
「すごい! そっくりです! 特に、目が!」
「ありがとうございます。……我楽さん、ゆっくり休めましたか? 宜しければ、ご家族と一緒にまたいらしてくださいね。色んな依頼を承っておりますので」
小筆の笑顔に、我楽は感謝を伝えるように頭を下げる。
今度はきちんと休みを取ってから、家族を連れて訪れようと我楽は心に誓った。
.˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
自宅に帰りついた我楽は、貰った似顔絵を部屋に飾った。本人そっくりに出来上がったその絵は、特徴を捉えていてとてもいい絵だった。丸っこい目が四個あり、手が十本あり、紫色の肌の照り返しも綺麗に表現されており、足が四本ある。ヨレヨレだったはずのスーツもバッチリ着こなした出で立ちで、心做しか凛々しく描いてくれている。
我楽は自分の似顔絵を見て、少し照れくさそうに笑った。
我楽は異星生まれであり、最近では珍しくない地球移民の一人だった。
.˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
時は西暦3124年。
宇宙駅No.08255。
どこにでもある平凡な宇宙駅の片隅に、小筆の似顔絵屋はあった。
.˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
駅構内の似顔絵屋さん ジャック(JTW) @JackTheWriter
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます