青い世界の話

白水カトラ

青い世界

「ねえ、青い世界って知ってる?」

そこを知ったきっかけは、彼女にそう言われた事だった。


「何それ?」


「ちょっとした都市伝説みたいなもんでさ、今の世界に絶望した人だけが行ける世界なんだって。そこに行くと二度と帰ってこれないけど、なんか…すごくいい場所らしいよ」


「へーえ」




あの時は、噂程度にしか思っていなかった。

でも、今は違う。


なぜなら、私の目の前にそれがあるのだから。



「…」

町、道、街灯、雲。

全部見慣れたものだけど、全部青い。

まるで、青い絵の具をメインに描かれた世界のようだった。


ここは、いつも学校に通うのに使っている道。

見慣れた光景だけど、何か不思議な感じだ。

あたりは静かで、空気は澄んでいて、私の他に歩いている人はいない。


ちょっと怖いけど、それ以上にわくわくしたし、落ち着いた。

何だろう、この気持ち。


受験勉強と親の威圧が辛くて、もう自殺しようかとさえ思っていたこの頃。

友達と遊ぶ時間もなくて、勉強詰めでおかしくなりそうだったこの頃。


ついさっきまで憎らしく、恨めしかったこの世界が、今はとても美しく愛おしいものに見えた。


色が変わるだけで、こんなにも印象が変わるものなのか。







いや、違う。

変わったのは、私の心だ。

憎らしかったのは、私自身だ。


自分を押し殺して、先の見えない努力を続ける私自身が嫌だったんだ。


それを、認められない。

ただ、それだけだったのだ。


ああ、なんだか心がすっきりした。

そして、なんだか頭がー





「青い世界」

そこは、全てが青い世界。

世界に絶望し、泣いた者だけが行ける世界。

涙に染まった、悲しくも美しい世界。


そこの正体は何なのか。

そこに行ったらどうなるのか。

そこは何のためにあるのか。


それはわからない。


しかし、一つだけ確かな事がある。


それは、









青い世界は、疲れた心を癒し、そして救うためにある世界だ、という事。

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青い世界の話 白水カトラ @toukousya

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