第20話 オフの日は休む?否、修行だ

ジュンタたちは初めてパーティで一般クエストに挑み、見事クリアに至った。冒険者登録の段階から連日バタバタしていたので、ジュンタの希望で今日は休みを取ることにした。因みに、シーヤは町中で臨時バイトのクエストを受けているため別行動だ。


ジュンタ「おはよう。」


ハルド「おう、おはよう。」


今日の朝も、ハルドの自宅で始まった。2人で食事の準備をして、朝食を摂る。


ハルド「冒険者になってから初めての休みだな。何か予定はあんのか?」


ジュンタ「今日は、修行するよ。手続きや仕事で時間が取れなかったし。」


ハルド「修行!?せっかくの休みにか?」


ジュンタ「休みだからだよ。本来なら生活の為に働かなきゃいけない訳だし。休みの日位だよ、本格的な鍛錬ができるのは。」


ハルド「お前ほんっとうにストイックだな。他の奴らはだいたい買い物したり遊んだり、中には飲んだくれてる奴もいるってのに。」


ジュンタ「それ褒めてる?」


ハルド「もちろん。」


ジュンタ「でも、食べてすぐ修行したらお腹下すからまずは、武器の手入れから始めるよ。修行はそれからでも遅くない。」


ハルド「とことん真面目だなっ!じゃあ、俺も武器のメンテナンスしとこうかね。大枚はたいて買った鉄の剣だし、使えなくなったら痛え。」


ジュンタ「そうだ!せっかくだし、ハルドも修行に付き合ってよ。」


ハルド「え、俺も?」


ジュンタ「うん。ハルドだって強くなりたいんでしょ?」


ハルド「まあ…そうだな。分かった、お手柔らかに頼むぜ。」


食事を終え、食器を片付けた2人は、家の戸締りをして鍛冶屋に直行した。


ジュンタ「すいません。武器の点検お願いします。」


鍛冶屋「あいよ。持ってきた獲物見せてみな。」


そして、2人は持参した武器を鍛冶屋に渡して見てもらった。


鍛冶屋「ナイフの方の兄ちゃん、こまめに手入れしてんな。状態に問題はねえ。ギルドからもらう青銅の武器は使いっぱなしにしちゃあ2日3日でダメになるが、どれくれえ使ったんだい?」


ジュンタ「5日以上は使ったと思います。」


鍛冶屋「ほーう、長持ちしてんのはよく点検してる証拠だぜ。そんで、問題はもう片方の兄ちゃんだ。」


ハルド「俺?何が問題なんだ?」


鍛冶屋「これそこそこ傷んでんだろ。おめぇどれくれえの頻度で手入れしてんだ?」


ハルド「えっと、月1…」


鍛冶屋「バカ野郎!それじゃ少ねぇだろ!冒険者は毎日のように武器使うんだろ?しっかり管理してねぇと、いざという時にガタがきちまう。そん時死ぬのは紛れもなくおめぇだ。せめて、少なくとも週1で手入れしねぇとな。」


ハルド「ああ…気をつけるぜ。」


鍛冶屋「冒険者にとって、武器は命綱だからな。しっかり管理して、いつでも使えるようにしとけよ。」


ジュンタ「はい、肝に銘じます。ありがとうございました。」


こうして、武器管理についてアドバイスをもらった2人は、メンテナンスを終えて一時帰宅した。武器を自宅に置いといて修行の準備をした。木剣を2振り、木製ナイフを1本用意した。そして2人は、魔法場ではなく町を出て草原へ行き、それほど遠くないところで足を止めた。


ハルド「ここでやろうぜ。町からそんな遠くねぇし、金もかからねぇし、魔物もほぼ湧いてこねぇ。修行にはうってつけだろ。」


ジュンタ「そうだね。じゃあ、まずは準備体操とウォーミングアップで走り込みだ。」


ハルド「ランニング?ホントに修行なのかよそれ。」


ジュンタ「もちろん、修行の一環だよ。ケガ防止の為に準備体操をして、体力向上の為に走り込み。その後組手や技の修行に入るんだ。」


ハルド「なるほど。じゃあ、やるか。」


修行内容をジュンタが説明した後、準備体操と走り込みを行った。走り込みはシャトルランのように、一定の距離を何度も往復するような感じだ。20mを125往復…5km走った所で体力トレーニングは終了した。


ジュンタ「ふぅ…基礎鍛錬はここまでかな。」


ハルド「ハァ…ハァ…お前どんだけ体力あんだよ…休憩しないことにはもう動けんぜ…。」


ジュンタ「そうだね。休憩したら技の修行に入ろう。」


2人はマッサージがてら10分ほど休憩し、技の修行に移った。


ハルド「なあジュンタ。俺、お前の格闘術を体験してみてぇんだ。」


ジュンタ「え、いいけど、どうして?」


ハルド「単純にお前の技をよく見てみてぇんだ。もちろん、ここでは俺も素手でいくぜ。風魔法もナシだ。」


ジュンタ「でも無茶だと思うよ?君は片手剣の間合いでしか戦ったことないんでしょ?」


ハルド「だからだろ。見て、体験することでいいトレーニングになると思うぜ。」


ジュンタ「一理あるね。分かった、まずはそれでいこう。」


2人は立ち上がって、対峙する形で構えをとる。


ハルド「なんか慣れねぇな、素手の戦い。」


ジュンタ「やっぱり武器でやる?」


ハルド「いや、今はこれでいい。おっぱじめるぞ。」


先に仕掛けたのはハルドだ。魔法を使わなくても、なかなかの踏み込みを見せる。


ハルド「ウォラァァァァ!」


ジュンタ(速い。俺と出会う前からきちんと訓練したんだね。でも…)


ハルドは右拳を大きく振りかぶり、ジュンタに向かって振り下ろす。しかし、ジュンタはそれを半身引いて躱す。


ハルド「ちっ、簡単にゃ当たらねぇか。」


ジュンタ「いきなりもらってやるほど甘くはないよ。」


ハルド「じゃあ、当たるまで殴るしかねぇってことよ!」


ジュンタ「だからそれが無茶なんだ。」


ここでハルドにカウンターが襲いかかる。ハルドのパンチをいなし、右手首を掴んだジュンタはそのまま捻って投げる。


ジュンタ「《小手返しこてがえし》」


ハルド「うおっ!?」


小手返しこてがえし

合気道の技。相手の手首を外側に捻って投げる。


華麗に技を決められたハルドは宙を舞い、受け身を取れず地面に叩きつけられる。


ハルド「ぐほっ!」


ジュンタ「フッ!」


流れるように、ジュンタが上から掌打を放つ…が、ハルドの顔の前で寸止めをして徒手での軽い手合わせは終了した。


ハルド「ハハッ…やっぱスゲェな、お前。」


ジュンタ「ありがとう。武術だけが俺の武器だから。」


ハルド「流石は専門家だな。俺の戦い方はどうだった?」


ジュンタ「まず、パンチを大きく振りかぶってたね。タイミングが丸わかりだから避けられやすいよ。」


ハルド「なるほどな。じゃあ、コツはどんなだ?」


ジュンタ「パンチを早く打つならボクシ…拳闘術のやり方がオススメだよ。脇をしめて、真っ直ぐに、力まずに打つ。腕の力だけじゃなくて、全身で捻じりながら打つんだ。」


ジュンタがアドバイスと共に動きで見せてみる。


ハルド「おおスゲェ!速ぇし動きが綺麗だな!」


ジュンタ「このとき、もう片方の手は頭をガードする事と、打った拳を直ぐに戻すこともポイントだよ。」


ジュンタ「それと拳闘術では、利き手じゃない方の手で速いパンチを打って、利き手の一撃を叩き込む隙を伺うんだ。もちろん、前手での攻撃は他にもあるよ。」


ハルド「なるほどな。片手剣の状態で取り入れたらもっと強くなれるぜ。」


ジュンタ「そうだね。片手剣との相性は良いと思うよ。」


ハルド「こりゃ絶対できるようにしてえな。」


ジュンタ「ハルドならできるようになるよ。」


ハルド「うし、今度は武器ありでやろうぜ?」


ジュンタ「そうだね。じゃあ、ナイフを…」


ハルド「いや、今回も俺の要望で悪ぃがよ、お前も剣で戦ってくれねぇか?それとも、ナイフのみひたすら極めたいとか?」


ジュンタ「ううん、そんな事ないよ。やろう、剣で。」


先程の格闘での一戦を分析した2人は、武器ありの状態でもう一度手合わせをする事になった。


ジュンタ(剣、久しぶりに握ったな。半年ぶり位かな?)


ジュンタ「ハルド、剣使うの久しぶりだからちょっと素振りしてもいい?」


ハルド「おう、いいぜ。」


剣を両手で握って、ジュンタは正眼に構え、精神統一をする。真っ直ぐに剣を振り、静寂の中に風を切る音のみが聞こえる。数回素振りをし、ジュンタはハルドに声をかける。


ジュンタ(よし、基本は忘れてないみたいだな。)


ジュンタ「お待たせ。始めよう。」


お互いに剣を構えて、臨戦態勢をとる。


ハルド「ナイフの時は強かったが、剣でも強ぇのか?」


今回もハルドから仕掛けた。風を使わないで単純に剣のみの攻撃をするつもりだ。ハルドの剣をジュンタは剣を割り込ませて受ける。


ジュンタ「ハルド。修行とはいえ、手心を加えないでくれ。今は風魔法を使うんだ。遠慮せず、容赦なく。」


ジュンタの言葉でハルドは間合いの外に出る。


ハルド「確かに、もう既に手加減なんてできる訳ないわな。」


ハルド「《エアー・剣裂スライス》!」


ここでハルドは、十八番である風の衝撃波を飛ばしてきた。それと同時にジュンタの懐を取りに行く。


ジュンタ「シュッ!」


だが、当然の如くジュンタは衝撃波を回避する。その直後に2人の剣がぶつかる。


ハルド「お前のやり口、何となくだがわかってきたぜ。」


次の瞬間、ハルドの腕に力が籠る。


ジュンタ「っ!」


ハルド「お前、俺のことよく見てるだろ?だったら見られても問題ねぇうちに倒すだけだ!」


ジュンタ(流石はハルドだ。俺のやり方を1つ看破したか。いい気づきだよ。)


自分なりにジュンタのスタイルを分析したハルドが、ここから猛攻を仕掛ける。


ハルド「《エアー・多撃ラッシュ》!」


ジュンタ「ハァッ!」


両者は訓練用の剣で激しい攻防を繰り広げ、木がぶつかる甲高い音が絶え間なく響く。


ハルド「これで押し切れねえたぁなあ。スゲェ手数だ。」


ジュンタ「君が俺をよく見ているように、俺も君をよく見ている。初対面の時のようにはいかないよ!」


両者1歩も譲らず暫く均衡が保たれていたが、徐々に崩れ始める。


ハルド「くっ…はぁ…」


なんと、ハルドがここに来てスタミナ切れを起こし始めたのだ。


ジュンタ「どうした?手数減ってるよ?」


厳しい体力トレーニングの後に徒手空拳での訓練、そして今の武器の訓練を経て、ハルドはかなり体力を消耗していた。しかし、一方でジュンタはこれだけ動き続けてもまだ余力があるようだ。ジュンタの手数は減るどころか段々増えていき、ハルドの攻撃は次第に止み、防戦一方になってきた。


ハルド(クソッタレが…《エアー・多撃ラッシュ》は凄まじい連撃を繰り出す攻撃力の高い技だが、その分かなり体力使っちまうから長くは持たねぇ。《エアー・風纏フォース》で強化したらもっと維持しづらくなる。コイツとは相性が悪ぃ。でもな…)


ハルド「ウオオッ!」


ジュンタ「何っ!?」


ハルドは強烈な横薙ぎで強引にジュンタを懐から追い出す。


ハルド「このまま終われるかってんだ…。」


ハルド「《エアー・風纏フォース》!!」


ハルド「さあ、これで最後だ!ジュンタ!」


ジュンタ「ああ…!限界以上に自分を追い込む…それが修行。決着だ、ハルド!」


2人「うおおおおおお!!!」


ストンッ!


ハルド「カ…ァ…」


ラルス「そこまでです。」


ジュンタ「ハルド!?」


なんと、勝敗が決する直前に突然戦いの幕は閉ざされた。たまたま通りかかった戦闘教官ラルスの手刀によってハルドを気絶させ、修行は強制的にストップする事になった。ラルスはハルドが目を覚ましてから、何故2人がほぼ全力で戦っていたのか事情を聞いた。


ラルス「全く…二人とも、特にハルド君は無理をし過ぎです。魔法を使いすぎた影響で体力を殆ど消費してしまいましたね。今歩くのがやっとでしょう。」


ハルド「ああ…」


ジュンタ「確かに今冷静になってみれば、初めての2人の修行であれはキツかったかな。…シャトルランとか。」


ハルド「いきなりあれはヤバかったぜ…もう足パンパンだ。」


ラルス「トレーニングで自らに負荷をかけるのは大事ですが、あくまで身の丈にあった負荷にして下さい。過負荷になると、怪我をしたり体調を崩したりで、明日明後日の活動に影響が出ます。そうなってしまっては元も子もありません。」


ジュンタ「はい…気をつけます。」


ハルド「一旦そのシャトルラン?っていうのは止めにしようぜ。これからの修行にシーヤを加える事もあるだろうから内容はもっとよく考えねぇとな。」


ジュンタ「うん、本当にそうだね。これから行動するのは俺1人じゃないからね。」


今日1日、休むどころかかえって疲れてしまったジュンタとハルド。結局もう1日休む事になり、今度こそ体を休めた。ジュンタたちの冒険はまだまだ続く。


To be continued

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