第19話 『風雷拳』始動

先日ジュンタたちはパーティの手続きをした。パーティ名は「風雷拳」。3名の中でランクが上のハルドをリーダーとし、注意事項を聞きながら登録をした。翌朝、ジュンタとハルドはいつもより早く家を出てシーヤと合流し、ギルドにやってきた。


ハルド「てな訳で、クエストを受ける前にだ。パーティのルールを決めていこうと思う。」


ジュンタ「確かに、親しい仲で組んだとはいえ、チームとして動く以上ルールは必要だよね。」


シーヤ「そうよね。でも、具体的にどうすればいいのかな?」


「風雷拳」のメンバーは早速ルールについて話し合いを始めた。パーティ運用において、ルールはメンバーをまとめる大事な要素なのである。


ジュンタ「うーん、まずは基本的な所から決める?例えば仲間や周りの人に挨拶をするとか。」


ハルド「そんな事でいいのかよ?」


ジュンタ「うん。なんだそんな事かって思うような事こそ、ちゃんとルールとして定めるべきだと思うんだ。」


ジュンタ「シーヤさんは何か意見ある?」


シーヤ「えっと…」


ジュンタとシーヤは昨夜からタメ口で話すようになった。ハルド曰く、仲間内で敬語を使う事に違和感があるからだそうだ。


シーヤ「ごめんなさい。守らなきゃいけないことはいっぱいあると思うんだけど、多すぎて思いつかないわ。」


ジュンタ「そうか…」


ハルド「そういえばジュンタ、お前メモ帳買ったらしいな。そいつに意見書き出せばいいんじゃね?」


ジュンタ「そうだね。じゃあ、挨拶は意見として書くよ。」


ハルド「他には何かねえか?」


シーヤ「じゃあ、パーティのお金の使い道は皆で相談して決めるっていうのはどうかしら?」


ハルド「そいつぁ凄くいいと思うぜ。」


ジュンタ「それも書いとくよ。あと、俺からも1つ。」


ハルド「聞かせてくれ。」


ジュンタ「冒険者に限らず人としてコミュニケーション能力は大事だと思うんだ。だから挨拶をするっていう意見も出た訳だし。」


ハルド「まあ、そうだな。」


ジュンタ「これもコミュニケーションの一環なんだけど、俺の故郷に『報連相』って言葉があるんだ。」


ハルド「ホウレンソウ…?」


シーヤ「何それ?」


前世のコミュニケーションにおいて大事にされる「報連相」という行為。「報告・連絡・相談」の3つのポイントの略で、集団に属する習性があるヒトにとって無くてはならない習慣である。物事を進める時の定期的な「報告」、指示や体調などの情報を伝える「連絡」、そして困った時の「相談」。これら3つが行き届いていないと冒険者の場合、クエストを受けづらくなったり、ランク昇格試験の受験資格を得られなくなったりと損することが多い。


ハルド「なるほど。聞き馴染みのない言葉だが、確かに真っ当な考え方だ。」


シーヤ「私も凄くいいと思うわ。」


ジュンタ「どうもありがとう。」


ハルド「ルールはあんまり多くても大変だろうし、1回まとめようぜ。」


ジュンタ「うん。そうしよう。」


冒険者パーティ『風雷拳』のルールは以下の通りになった。


・仲間や周りの人に必ず挨拶する


・お金の使い道は皆で決める


・「報連相」は欠かさない


・ルールの追加や削除は話し合いで決める


ハルド「こんな感じでいいんじゃねぇか?このルールに賛成の奴は挙手。」


2人「はい!」


ハルド「決まりだな。んじゃ、せっかくだしこのままクエスト受けに行かねえか?」


2人「賛成!」


ルールを決めたジュンタ一行はクエストを受ける為に受付からクエストリスト借りる。


ハルド「せっかくパーティで動くなら、戦闘が発生するクエストがいいな。」


ジュンタ「そうだね。実戦経験を積むのは大事だ。」


シーヤ「でも私は、戦いにそんなに自信ないわ。」


ジュンタ「大丈夫。君一人で戦う訳じゃないんだ。心配いらないよ。それに、今は杖があるから魔法を連発できるでしょ?」


シーヤ「ええ。」


ハルド「心配なら魔法場でウォーミングアップするか?30分までなら無料だしな。」


シーヤ「じゃあ、お願いするわ。クエストもあるし、時間はそんなにかけないから。」


クエストを受けてからシーヤのお願いで魔法場でウォーミングアップを済ませた。初対面の時と違い杖があるため、魔法は安定して使えるようだ。


パーティで初めて挑むクエストは…


一般クエスト

内容:ゴブリン20体、オーク10体の討伐

報酬:個人→500ℳ パーティ→1000ℳ

受注資格:Dランク以上

※パーティで受注する場合、リーダーの冒険者ランクがD以上だと受注可能。ゴブリンの腰巻きとオークの毛皮を討伐数と同数持ってクリア報告をすること。


シーヤ「ホントにこれやるの…?その…数多くないかしら?」


ハルド「だからパーティで動くんだろ?」


ジュンタ「そうそう。それに、一気に30体を相手することはないから。」


シーヤ「ええ。頑張ってみるわ。」


一般クエストをパーティ名義で受注した後、風雷拳一行は森へと向かった。


ジュンタ「そういえば、俺たちが協力して戦うのは初めてだよね。作戦は立てなくていいの?」


ハルド「その事だが、もう考えてあるぜ。」


シーヤ「もう!?どんな内容なの?」


ハルド「ここで重要なのは、3人とも戦い方が違うって事だ。しかもそれは、パーティでの戦いにおいては有利だ。」


ジュンタ「確かに、それぞれ役割があった方が戦いやすいよね。」


ハルド「んで、その肝心な戦い方だがよ。まずジュンタ、お前には先陣を切ってもらう。得意な格闘術やナイフ捌きで敵を倒しまくってくれ。」


ジュンタ「なるほど。前に出て戦うのは俺が適任って事か。」


ハルド「そしてシーヤ。お前には、後ろから魔法で援護してもらう。前衛に隙ができた時にカバーするんだ。」


シーヤ「ええ、分かったわ。」


ハルド「そして俺は、お前らの間で戦う。ジュンタの事を魔法で援護できるし、シーヤに攻撃が飛んできても、俺なら打ち消せる。何より、真ん中にいた方が指示が通りやすい。」


ジュンタ「かなり合理的な作戦だね。全部ハルドが考えたの?」


ハルド「まあな。こちとら伊達に1年やってきてねえぜ。」


ジュンタ「流石だ。シーヤさんも一緒に頑張ろう!魔法使えるようになったから大丈夫だよ。」


シーヤ「ええ、ありがとう。そう言ってもらえると頑張れそうだわ。」


ハルド「…さて、早速お出ましだぜ。」


森の茂みからゴブリンが飛び出してきた。


シーヤ「上手くできるかしら…ゴクリ…」


ハルド「そんじゃあ、作戦通りに頼むぜ。」


ジュンタ「了解!」


先程話した通り、まずはジュンタが電光石火の如く、敵に切り込む。


ジュンタ「シュッ!」


一瞬で距離を詰め、強烈な袈裟斬りを叩き込み、ゴブリンが1体断末魔を上げた。


ハルド「いつ見ても速ぇな。俺たちも行くぞ。」


シーヤ「ええ。」


後の2人も、ジュンタに負けじと続く。


ハルド「《エアー・剣裂スライス》!」


シーヤ「《エレキ》!」


2人の魔法がゴブリンを1体ずつ仕留めた。


ジュンタ「2人ともナイス!これなら、後隙を埋められる。」


連携のとり方を何となく掴んだ3人は、順調にゴブリンの群れを撃破したのだった。


討伐数

ゴブリン5/20体 オーク0/10体


ハルド「初めてにしては上出来だったな。」


ジュンタ「そうだね。俺の攻撃の直後に魔法を撃ったのは良かったよ。見事に俺の隙をカバーしている。」


シーヤ「私も、ここまでちゃんと戦えたのは初めて。2人ともありがとう。」


ジュンタ「こちらこそ、勉強になったよ。」


ハルド「おっしゃ!この調子でどんどん倒しまくるぞ!」


2人「おー!」


ジュンタたちはあれからゴブリンを少しづつ倒していき、森を深く進んだ。


討伐数

ゴブリン20/20体 オーク0/10体


ジュンタ「今のところ、オークにはまだ会ってないね。」


シーヤ「うん。オークはゴブリンより少し強いって聞いたけど大丈夫かしら。」


ハルド「そこは心配ねえ。確かに、オークはちょっとだけ倒しにくいが、個体数はゴブリンより少ねぇ。個人の初心者だと手強いがパーティで動く分には問題ねえだろ。」


ジュンタ「ゴブリンの時も連携取れてたし、落ち着いて戦おう。」


シーヤ「そうね。1人じゃ怖かったけど、皆がいれば大丈夫!」


オークとの戦いに向けて、戦闘に不慣れなシーヤが気合いを入れ直したところで、オークと遭遇した。


ハルド「ようやく見っけたな。しかも、まさかの10体。」


シーヤ「オークが…10体…」


ジュンタ「どう?やっぱり、不安が残る?」


シーヤ「ええ。あなた達には何度も話したと思うけど、強そうな魔物が目の前にいるとどうしても不安なの。」


ジュンタ「そうか…自信が無い事に挑むって、どうしても恐怖が残っちゃうよね。だけど、仕事である以上避けられない。でも大丈夫。俺たちがついてるから。」


シーヤ「っ!」


シーヤ(俺たちがついてる…)


ジュンタ「…シーヤさん?」


シーヤ「え…ええ、そうね。私頑張る。ゴブリンの時のように。」


ハルド「ほら、早くしねぇとオーク行っちまうぞ。」


ジュンタ「そうだった。」


ハルド「今度はパターン変えてみるぜ。まずは、シーヤの魔法で不意打ち。そこから、俺ら2人で一気に突っ込む。パーティ戦はあらゆるパターンを持っとくことが大事だ。行けるか?」


シーヤ「ええ。頑張るわ。」


ハルド「それじゃあ、作戦開始!」


シーヤ「いっけー!《エレキ》!」


雷魔法を前方広範囲に放った。ファーストヒットでオークたちに直撃し、怯んだところで、ジュンタとハルドが同時に突撃する。


ジュンタ「今だ!」


ハルド「おっしゃ行くぞ!」


ジュンタ「ハアァッ!」


先にジュンタがオークの懐に潜り込んで、一撃を入れる。


ジュンタ「《裡門頂肘りもんちょうちゅう》!」


ドゴンッ!


凄まじい炸裂音が響き渡り、オークがもんどり打って吹き飛ばされ、一撃で絶命した。


裡門頂肘りもんちょうちゅう

八極拳はっきょくけんの技。肘を使った超至近距離での体当たり。相手を肘の一点で捉え、震脚しんきゃく(強い踏み込み)と共に全身で強打する破壊力抜群の一手。八極拳の技はいずれも、まともに喰らえばひとたまりもない。


ハルド(えげつねぇ…何つー威力してやがんだ。ドゴンッ!って聞こえたぞ今。あん時もらってたらやばかったな…。)


ハルド「やるじゃねぇか!ならこっちも…」


ハルド「スキル発動!《突進タックル》!」


ハルド「からの、《エアー・圧弾バレット》!」


続いてハルドもスキルを行使し、流れるように魔法のコンボでオークを狩った。


ジュンタ「《燕返しつばめがえし》!」


ハルド「《エアー・剣裂スライス》!」


シーヤ「《エレキ》!」


燕返しつばめがえし

→日本の剣術の技。二発の斬撃を素早く反対に放つ。


ジュンタたちはそれぞれの役割を己の技で全うした。無事ゴブリンとオークをそれぞれ指定数討伐に成功し、町に戻ってクエストクリアの報告をした。


ハルド「俺たちでの初クエストクリアって事で、パーッと飲み明かさねぇか?」


ジュンタ「でも俺とシーヤさん酒飲めないよ?」


ハルド「細けぇこたぁ気にすんなって。さぁ呑み行くぞー!」


シーヤ「待ってよ2人ともー!」


かくして、パーティでの初一般クエストを終わらせたジュンタたち。この後、ハルドの飲みすぎとジュンタの見事な食欲で、2人の所持金が瞬く間に底をつくのであった。


風雷拳一行の冒険はまだまだ続く。


To be continued

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