第18話 パーティを組もう

ジュンタは今日、冒険者としての初仕事に臨んでいた。仕事の流れを掴むために常設の簡単なクエストをこなしていた。仕事自体は早く終わり、持て余した時間を探索に費やし、日の入りのタイミングで町に戻り、クエストクリアの報告を済ませた。


その夜…家でジュンタは今日の出来事をハルドに話している。


ハルド「まあ、ジュンタにかかれば30分もかからねえ仕事だな。」


ジュンタ「そうだね。でも、簡単な事からこなしてだんだん慣れてかないとだからね。仕事の流れを掴むには丁度良かったよ。」


ハルド「そうか。あと、オークに会ったんだな?」


ジュンタ「オークっていうのか。手応えはゴブリンやスライムより一段上だった。」


ハルド「そらな。オークの討伐難易度はDだからな。魔物の討伐難易度は冒険者ランクと同じように8つある。冒険者は基本自分と同じランクまでの魔物をかるのが一般的だ。まあ、お前ならオーク相手に苦戦することはねえだろうがな。」


ジュンタ「手足が2本付いてる奴なら何とかね。」


ハルド「そうか。あと、出会ったオークを殺さなかったらしいけど何でだ?もう既に魔物は何体も倒してるってのにどうして今回は躊躇ったんだ?実力不足ならまだわかるが、そうじゃねえなら尚更気になる。」


ジュンタ「それは…確かに魔物は何回も殺したよ。でもそれは、自衛のためや、進路の都合上退路がなかったからだ。だけど今回は、仕事でもなんでもないただの探索だった。命を懸けた生業とわかった上で言ったら甘いって思われるかもしれないけど…やっぱり、何の動機もなく目の前にいるからって倒すのはまだ抵抗がある。」


ハルド「そうか。まあ、その考え方もわかる。俺も最初はそうだったからな。だが、今のままでは確実に壁にぶち当たる。例えば強敵に逢った時とかな。それに、冒険者はそういうもんだし、俺たちはまだ弱いから選択肢が少ねぇ。だから生活のためにやる。」


ジュンタ「うん…。」


ハルド「まあ、こればかりは慣れてくしかねえな。」


ジュンタ「うん、そうだね。ありがとう。頑張ってみるよ。」


ハルド「おう!お互いに頑張ろうぜ!」


ハルド「ところで、明日はどうすんだ?」


ジュンタ「明日ももちろん仕事だよ。次からは一般クエストを受けるつもり。今までは居候させて貰ったんだし、早めに経済的に自立しないとだし。」


ハルド「お前ほどの律儀さを持った奴はなかなか見ねえな。」


ジュンタ「よくしてもらったんだから当然だよ。懐に余裕ができたらそのうちお礼もするつもりだから。」


ハルド「んじゃ、いつかはその心意気を受け取るとするか。だがその前に、明日の午後は開けといてくれねえか?」


ジュンタ「え、うん。いいけど。何するの?」


ハルド「“チーム”を組むために、少なくともお前をギルドに連れていかないとダメなんでな。シーヤにも声を掛けとく。」


ジュンタ「うん。わかった。じゃあ仕事は午前中に終わらせとくよ。」


2人は家の戸締りをして、一緒に家を出て、午前中は別行動になった。ジュンタは納品クエストを行い、ハルドは鍛冶屋に剣のメンテナンスを任せ、町の売店の臨時の店番をした。


昼時を少し過ぎた頃2人は合流し、少し遅い昼飯を定食屋で食べた。


そして今、ギルドにある手続きのためにやってきた。


マーシャ「こんにちは。ご要件をお願いします。」


ジュンタ「はい。えっと………“チーム”を作りたくて………」


マーシャ「チーム?」


ハルド「悪ぃ。パーティの事だ。」


ジュンタ「何それ?」


ハルド「昨日言った“チーム”を組むための仕組みだ。」


ジュンタ「そうなんだ。」


ハルド「パーティの手続きを頼む。」


マーシャ「かしこまりました。」


ハルド「それとあと1人、シーヤっていう女の子がいるんだがその子も加えてくれ。話はしてある。」


マーシャ「承知致しました。」


ハルド「しかし、遅せぇな。もう手続き始めちまったんだが。」


ジュンタ「ホントに声掛けたの?」


ハルド「ああ。家出てすぐに宿屋に行って、確かにパーティを組む話をした。」


と話しているうちにシーヤが遅れてやって来る。


シーヤ「ハルドさん、ジュンタさん、遅れてすいません。クエストに時間がかかりました。」


ハルド「大丈夫だ。よくある事だ。そして、お前もパーティに加えてある。」


シーヤ「よかったです。」


ジュンタ「ところでハルド、パーティを組む際の決まりって多少あると思うけどどうなの?」


ハルド「俺は今までソロでやって来たし、そこはよく分かってねえな。名簿の作成が終わったら説明があんだろ。」


ジュンタ「それもそうだね。よく聞かないと。」


ジュンタたちのパーティ登録の名簿を作成したマーシャが奥から戻ってきた。


マーシャ「お待たせ致しました。」


ジュンタ「ありがとうございます。」


マーシャ「皆さんはパーティを組まれるのは初めてでしょうか?」


ジュンタ「初めてです。」



マーシャ「パーティを組むにあたり注意事項がいくつかございます。」


マーシャ「まず、パーティ内で1名リーダーを決めるのですが、基本的に冒険者ランクが最も高い方になって頂きます。実力と経験を兼ね備えた者が最も相応しいとされるからです。」


ハルド「だとすると俺だな、と言いてえ所だがジュンタは手加減したとはいえ教官に一撃当てた事がある。悔しいが既に戦闘力は俺より高いと思うぞ?」


マーシャ「確かにギルドマスターやラルスさんからの報告によれば十分やっていける素質はあるとの事ですが、新人である以上経験が浅いのは確かです。」


ジュンタ「マーシャさんの言う通りだ。俺もハルドがリーダーに相応しいと思う。俺は仮に即戦力であっても今はリーダーたる器じゃない。」


シーヤ「私も賛成です。」


ハルド「分かったよ。俺に任せろ!」


マーシャ「1つ1つ口頭で説明すると時間がかかってしまいますので、パーティに関する資料をお渡ししてもよろしいでしょうか?」


ジュンタ「はい、お願いします。」


マーシャは窓口の奥から1つの書類を持ってきた。


マーシャ「こちらにパーティ登録に関する注意事項がまとめてあります。よく目を通して下さい。」


ハルド「おう。助かる。」


ジュンタ「そこのテーブルで読んでからまた戻ります。」


マーシャ「承知致しました。パーティ登録名簿に記入事項を書いたらまた持ってきて下さい。次の方どうぞ。」


ハルド「一旦、テーブル行くぞ。」


ジュンタ「うん。」


受付の近くにあるテーブルで名簿を記入し、注意事項をよく読む。


ジュンタ「初給料でメモ帳買ったんだ。後で見返せるよう書いとくよ。」


資料に記載されている注意事項は次の通りである。


・パーティ名を必ず決めて下さい。


・パーティは2~5名で結成して下さい。


・パーティのリーダーは基本的に冒険者ランクが高い人がなって下さい。


・リーダーの冒険者ランクより2ランク上下の冒険者とはパーティを組めません。


・パーティの資金運用やルール等に関してギルドは一切の責任を負いかねます。


・パーティからメンバーの除名及びパーティを解散する場合、またパーティメンバーが死去した場合はギルドで手続きをして下さい。


ハルド「名簿はだいたい書き終わったぜ。そっちはどうだ?」


ジュンタ「一通りメモしといたよ。どこか埋まってないとこある?」


シーヤ「後はパーティ名を考えるだけですね。」


ジュンタ「パーティ名か…」


ハルド「他人に名乗ったり、知られたりするから結構大事だぜ。」


ジュンタ「じゃあよく考えないとね。」


しばらく3人でパーティ名を考える。


ジュンタ「そうだ!名前の由来が分かるように3人の特徴を名前に入れない?」


ハルド「なるほどな。例えばどんな感じなんだ?」


シーヤ「特徴といったら、自分が使える魔法とかですか?」


ジュンタ「そんな感じでいいと思います。」


ハルド「俺は風魔法が使える。」


シーヤ「私は雷魔法…」


ジュンタ「俺は武器や拳で戦う…」


3人の特徴を踏まえて、ジュンタは命名案が1つ浮かんだ。


ジュンタ「じゃあ、『風雷拳』なんてどう?風のハルド、雷のシーヤさん、そして武術の俺。どう、リーダー。」


ハルド「俺はいいと思うぜ!」


シーヤ「とてもしっくり来ます。」


ハルド「うし、その名前で登録すんぞ。」


名簿の提出と資料の返却のためにもう一度窓口に行った。


マーシャ「『風雷拳』ですか。いいですね。特徴がよく現れてると思いますよ。」


ジュンタ「ありがとうございます。」


マーシャ「因みに、パーティで活動する時、パーティ名義でクエストを受けることが出来るんです。」


ジュンタ「つまり、パーティとして挑む事が出来ると?」


マーシャ「そうですね。より難易度が高いクエストを挑む時にオススメです。但し、個人で挑んでもパーティで挑んでもクエスト報酬が変わることはありません。パーティの場合は報酬を分割したり、パーティ全体の資金にしたりとお金の管理が個人の時より大変になります。なお、パーティ内のトラブルで最も多いのが金銭トラブルというギルドの公式データもありますのでご注意下さい。」


パーティ登録を終え、ジュンタたちはギルドを後にした。


ハルド「マジか…そこまで考えてなかったな。」


ジュンタ「やっぱりお金がない状態でパーティ組むのはまずいんじゃないかな?ハルドは貯金どれくらいあるの?」


ハルド「俺は1500ℳある。」


シーヤ「私は200ℳくらいしかないです。ジュンタさんはどうですか?」


ジュンタ「俺は130ℳだけ…」


ジュンタは午前中の仕事で100ℳ獲得していた。先日の50ℳと合わせて150ℳ。そこから20ℳするメモ帳を購入したのである。


ハルド「…よし、分かった。俺の1000ℳをパーティ運用の資金にするぜ。」


ジュンタ「いいの?ハルドのお金だよ?」


ハルド「言い出しっぺは俺だしな。それに…お前の態度が少し移っちまったよ。」


ジュンタ「えー?なにそれー?」


ジュンタ「それじゃあ、リーダーであるハルドから一言!」


ハルド「急に振ってくるな!?」


3人が手を重ね合わせる。


ハルド「コホン…お前たちと出会ってからまだ日は浅いが、最高の仲間だと思ってる。これからも頼りにするぜ。一緒に強くなろうな!」


ハルド「『風雷拳』ここにあり!」


2人「おー!」


パーティを結成し共に道を歩む事を誓った3人。ジュンタたちの冒険譚はまだ始まったばかりである。


To be continued

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