第17話 初めての依頼

昨日ジュンタはシーヤと共に「新人基礎講座」で冒険者の活動における様々な事を教わった。そして、ジュンタは今日から本格的にクエストを受注しお金を稼ぐ生活が始まる。


ジュンタ「おはよう、ハルド。」


ハルド「おはよう。」


それぞれのベッドから起床した2人は食事の準備をして朝食をとる。


ハルド「どうだ昨日は?ためになったか?」


ジュンタ「うん。行ってよかったよ。」


ハルド「今日からクエスト受けるんだろ?」


ジュンタ「うん。何かオススメの依頼とかある?」


ハルド「まずは、ギルドから出ている常設クエストにしてみたらどうだ?都市によって内容や難易度は多少違うが、条件さえ満たしてたら誰でも受けられるぜ。ここメルン町での常設クエストは初心者なら誰でも通る道だ。安心してクエストを受けられるし、難易度も高くなく、安心して金を稼ぐことができるだろう。」


ジュンタ「なるほど。じゃあ、今日はそれをやってみようかな。」


ジュンタは朝食後、その足でギルドへ向かい、クエストリストに目を通す。クエストはクエストリストというファイル形式の書類であり、様々なクエストが記載されている。

クエストには常設クエスト、一般クエスト、緊急クエストの3つの分類がある。


常設クエストはギルドが常時設けているクエストで、国や都市によって内容は様々である。条件を満たす者は誰でも受注可能であり、クリアの期限も無制限である。但し、報酬はかなり低いため、初心者向けである事が多い。


一般クエストは外部の一般人が依頼主となり、ギルドに依頼を発注する。そしてクエストの書類をギルドが作成し、クエストリストに追加し、受注する冒険者を募る。中には期日が指定されているものもあり、ギルドは冒険者にそれを優先的に受注するよう促すため、クエストボードにその内容を掲示する。


緊急クエストは国や都市が緊急事態だと判断した時に設けられる臨時のクエスト。国や都市に危険が及ぶことを防ぐために近隣の冒険者を大勢緊急招集する。

発生するのはごく稀だが、1つの判断ミスで殉職した者は少なくない。しかし、活躍の内容によっては、特例で冒険者ランクの昇格をすることもある。


そんなクエストの中からジュンタはハルドのアドバイス通り、常設クエストを選択し、それを受注する。メルン町での常設クエストの内容は次の通りである。


メルン町常設クエスト

内容:ゴブリン5体の討伐

報酬:50ℳ

受注資格:Eランク以上

※注意事項

“ゴブリンの腰巻き”をギルドに提出することでクエストクリアとする。


ジュンタ「最初はこれにするか。クエストそのものに慣れるつもりで行こう。」


ゴブリンの討伐に向けてジュンタは武器の点検をしたり、六角手裏剣や石ころなどの携帯する暗器を確認したりする。こまめな点検や手入れを習慣にする。これも師匠からの大事な教えの一つである。


因みにハルドは、日中一般クエストの受注で忙しくしているため、今日は別行動である。

シーヤは杖が戻ってきたものの、戦闘は未だに苦手なので町の中で受けられる一般クエストを行っている。


ジュンタ「ナイフの切れ味よし、六角よし、石ころよし、水と食料よし。」


点検が終われば出発直前の持ち物確認である。ジュンタは前世から人一倍確認を怠らないため、ほぼ忘れ物をすることはない。


ジュンタ「包帯と回復薬もよし。」


ジュンタ(クエストを受けるってことは、俺はまだ若いけどもう社会人って事だよな。まさか齢17歳で、しかも異世界で仕事を始めるとは思わなかったな。油断せずに任務をこなそう。)


この世界の成人年齢は現在の日本と同じく18歳。飲酒も同様に20歳からである。冒険者は16歳から登録可能である。因みにハルドは20、シーヤは16である。だが、多くの人がイメージする冒険者にはランク以外の上下関係はなく、この世界の冒険者の多くもその通りになっている。


そんなこんなで準備を終えたジュンタは初仕事のためにいつもの森へと向かった。


ジュンタ「さて、5体まとまっている群れが見つかればすぐ終わるんだが、」


森に入ってから数分後、ゴブリンの群れを見つけた。丁度5体いる。


ジュンタ「ラッキー!これですぐに終わらせられる。」


次の瞬間、ジュンタが懐から石を取り出す。


ジュンタ(狙いを定めろ、額や喉に当てるんだ。)


ピッチャーのように大きく腕を振りかぶり、ターゲット目掛けて一直線に石を投げる。


ジュンタ「100マイル!!」


剛速球が群れの中の1体の喉に命中した。 そして、残りがこちらに気づき襲いかかってくる。距離があったため、間合いに入られる前に六角手裏剣で処理した。


ジュンタ「思いの外早く終わったな。証拠の腰巻きを回収するか。」


クエストクリアの証明になるゴブリンの腰巻きをしっかり回収したジュンタはまだ時間がたっぷりあり、暇を持て余していた。


ジュンタ「後はもう報告するだけだからやることないな。どうしよっかな~。一旦町へ帰るか…いや待てよ…せっかく冒険者になったんだし、ここで日帰りの探索でもするか。よし、そうしよう。」


冒険者はクエストと探索が本分。ジュンタはもう正式な冒険者なので、試験や訓練のためではなく、探索で自由に歩き回ることにした。


ジュンタ「何度通ってもこの森は綺麗だよな。歩いてるからゆっくり景色も楽しめる。」


ジュンタ(それに前世に比べて空気も美味しい。あと、俺にはデスクワークよりも、絶対体を動かす方が性に合っている。師範への申し訳なさはまだあるけど、ここに来てから早くもこの世界に来れて良かったと思う。)


やがて昼が過ぎ森での探索をしばらく楽しんでいるとき、ジュンタは新たな影を見つけた。


ジュンタ(何だ…見たことない奴だ。)


ゴブリンよりもデカくて全身に茶色い体毛を生やした魔物がいた。大の男より少し大きい位か、少なくとも180cmは超えてそうである。これはオークと呼ばれる有名な魔物だが、もちろんジュンタは知らない。


ジュンタ(新しい魔物だ。恨みはないが1発入れさせてもらう!)


物陰から飛び出し、オークに襲いかかる。オークはジュンタの存在に気づき振り返ったが、既にジュンタが懐をとっていた。


ジュンタ「セイッ!」


どんな魔物なのか様子見のためにナイフではなく拳で正拳突きを放った。オークの体は後ろへ吹き飛び、威力が高かったのか殴られた箇所を片手で押さえている。


ジュンタ(なるほど。やはり直立二足歩行の魔物とは戦いやすい傾向にある。逆にプレーンキャットのような四足歩行の奴と戦う機会がほぼなかったからその分苦手だ。)


ジュンタ(効いてはいるが流石に一撃じゃあ殺れないな。膝を着いてる訳でもないし、ゴブリンよりは個体として強いと思う。)


新手の魔物を相手に自分なりに細かく分析してると、オークの反撃が飛んでくる。


ジュンタ「よっと。」


攻撃をさっと避けたジュンタは、目の前のオークをどうしようか考えを巡らせている。


ジュンタ(どうしようかな…そういえば、ギルドで素材の売買ができるんだっけ。てことは、ここでオークを殺せば素材をギルドに売ってお金にできる。でも…)


オークの攻撃を捌いている間、ジュンタずっと考え事をしていた。躱し、いなし、時折カウンターも混ぜて考える時間をつくっていた。その後1分弱経ち、ジュンタがようやく動いた。


オークの右のパンチに合わせてジュンタが体を外側にずらし、オークの肘関節を外した。

そしてなんと、痛みに悶絶するオークを他所にトドメを刺さず、ジュンタはすぐにその場を後にした。ジュンタがとった選択は殺しではなく、無力化だった。


オークからダッシュで離れたジュンタは町へ戻ろうとしていた。


ジュンタ(確かに殺せばお金になったかもしれない。もう既にゴブリンやスライムなどは殺してるけど、あれは自衛や進路、仕事に関わるから戦わざるを得なかった。でも、何の縛りもない状態で殺しをするのはまだ…どうしても抵抗を感じてしまう。でも、新しい魔物に出会えたし、どの程度かも確かめられた。今日はこれで良しとしよう。)


考え事を終え、結論が出た頃にはもう町に着いた。そして、ジュンタは常設クエストクリアの報告を済ませ、真っ直ぐ帰宅するのであった。


To be continued

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る