火車VSサメ
惣山沙樹
火車VSサメ
ああ、そろそろ人間の死体にも飽きてきたな。
俺は
「お母さんを返せー!」
そんな遺族の泣き叫ぶ声が何よりのスパイス。悼む者が多ければ多いほど美味いのだ。
しかし、人間の世の中は超少子高齢化社会。葬儀も家族葬だ直葬だで縮小傾向にある。昔のように親族や知人らが一同に集まって豪快に行われることも少なくなってきた。
それに、人間がいつもラーメンばかり食べていれば、たまにはあっさりとした湯豆腐が食べたくなるように、俺だって違う死体を食べてみたい。
そこで目をつけたのがサメだ。水族館のオオメジロザメが亡くなったというニュースを聞きつけた。子や孫、水族館の同僚たちや職員が集まり、大掛かりな葬儀をするらしい。
俺は黒雲に乗り、水族館近くの葬儀場までやってきた。故鮫は本当に慕われていたのだろう。記帳の列は長く延びており、皆が涙を流していた。
「あんなに元気だったのに……」
「鮫生、何があるかわかりませんね」
「でも、あんなに沢山の子孫を残して、ご立派でしたね」
俺は舌なめずりをした。きっとこのサメの肉は美味い。全長三メートルはあるというし、食い尽くすまでたっぷりと楽しめそうだ。
俺は出棺の時を狙うことにした。外には黒く塗られた霊柩トラックが待機していた。報道陣が詰めかけており、式場に入れなかった一般者も、棺が出てくるのを今か今かと待ち構えているようだった。
まずは、遺影を抱えた一頭のサメが顔を出した。続いて、何頭ものサメが棺を支えてゆっくりと泳いできた。葬儀の場には何百回も訪れたことのあるこの俺だ。棺は相当高級なものであることは一目でわかった。
「ヒャッハッハッハー!」
俺は一気に突進し、棺を持つサメを火のついた荷車で轢いて、ヒレを離させる作戦で行こうとした。ところが。
「何だお前は!」
俺の動きにいち早く気付いたサメがいた。他のサメより一回り小さいが、その目は鋭く、若々しく、情熱に溢れていた。そいつに尾で弾き返されたのだ。
「チィ!」
体勢を立て直す。俺は距離を取り、堂々と名乗った。
「俺は火車! その死体は頂いた!」
すると、小さなサメが叫びながら俺に向かってきた。
「じいちゃんは渡さない!」
なるほど、孫か。いいぞ。ちょっとくらい抵抗される方が、奪い甲斐があるってもんよ。
孫は口をガバっと開けて噛みついてこようとしたが、俺はひらりとかわした。サメにしては小さいとはいえ、俺よりは図体がデカい。小回りがきかないようだ。俺は太鼓を鳴らした。
「轟け
会場にいた参列者に広範囲の電撃を浴びせた。人間なら長時間動きを止めることができる。小魚やカメも倒れ伏してしまったのが見えた。
「ふんっ!」
「何ィ?」
俺の後頭部めがけてサメの尾が振り下ろされる!
ギリギリのところでそれを避け、再び間合いを取った。
「俺の電撃が効かないだと……?」
孫はニタリと口元を歪めた。
「僕はただのオオメジロザメじゃない。複数の生物の遺伝子をかけ合わせて創り出された、
そして、大きく口を開けて突進してきた! 俺はたまらず背中を見せて荷車に加速をかけた!
「待て! 食いちぎってやる!」
「クソッ……荷車に乗せちまえばこっちのものか!」
棺は地面に落ちていた。俺の目的は死体を奪うこと。孫を倒せなくてもいいのだ。とにかく棺に手をかけようとする!
「
「な……に……?」
後ろを振り返ると、孫の口から冷気が発射され、俺の荷車に浴びせかけられていた! 火は消え、たちまち凍り、動きを止められてしまった!
「ぐっ……ぐぬっ……!」
あともう少しで棺に手が届くのに。もう諦めるしかない。俺は荷車を捨てて脱出することを試みた。
「させない!」
孫の鋭い歯が俺の腹をえぐる!
「グギャァァァァァ!」
鮮血がほとばしり、俺の身体はぴくぴくと痙攣した。孫が口を離し、俺はポトリと地に落とされた。
「じいちゃん……僕が守ったよ!」
クソッ……サメなんて、サメなんて……狙うんじゃなかった……。
火車VSサメ 惣山沙樹 @saki-souyama
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