第16話

「パパ、大丈夫? 飲み過ぎたの?」と、長女が心配そうに僕の顔をのぞき込んでいた。僕は起きあがろうとするが、頭がガンガンする。見回すと、ここはどうやら家のリビングで、家の駐車場でバーベキューをしている真っ最中のようだ。ご近所の家族も一緒だ。目の前の公園では桜がほとんど散りかけている。自分の腹をつねるとブヨブヨと柔らかく、そして痛かった。このたったいまのわが世界は、夢でもなく、可能性に辱められた世界でもない。


「あなた大丈夫? みんなのために、ちゃんと肉を焼いてよ、もう!」


 そういえば、以前、僕はこのバーベキューで飲み過ぎて、途中から操縦不能になっていた。


「わかった、焼く焼く」と僕が返事すると、お願いね、といって妻は忙しそうに、解凍した肉と、お気に入りのスパーリングワインを外に持って行った。外はご近所の子供たちや僕の子供たち、また、その親たちで賑わっていた。ちっぽけな幸せがそこにはちゃんと在った。ここに再び幽霊どもが通ったとしても、完全に無視してやろうぜ。


 『だだっぴろい有限な世界よりも、ちっぽけで無限の超現実を』か

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g現実と生命体シンドローム 裸のプラントエンジニア @Stone1ove

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