第三十一話 新しいダンジョン

居室に戻ると全員勢揃いしていた。

カティの両脇にミルカ、ヤンニシャリラがくっついていて、肩を抱きしめている。

もうお話は済んだようだな。

「どうなったの?」ターニャが聞いてきた。

「済ませてきたよ。ピンク髪の少女が好きな変態野郎だった。もう心配ない」

カティがはっと顔を上げた。何か問いたそうな視線。


「少しカティとお話がしたい。皆、良いかな?」

皆が頷いてくれたので、居室を出てコンソール前に座った。

カティはうなだれてスカートの裾を掴み、少し震えている。

「聞いたんだね」

そう言うと、カティは無言で頷く。

「なにかその頃の事、覚えてる?」

カティは首を横に振った。


ここはチュートリアル先生に確認しよう。

――そもそも人間を生成できるの?

――デフォルトではあり得ません。が、カスタマイズなら可能です。

――どこか普通の人間と違いはある?

――生物としての違いはありません。性別も付与できますし。


さて、カティに違いはあるのだろうか。

ピンクの髪って滅多に見ないからそんな所かな。

後、ステータスに霊力ってあったな。

――カスタマイズの要素として指定すれば可能ですね。

――謎がひとつ解けたな。カティに違いが他にある?

――立派な人族の女性ですよ。もうすぐ排卵も始まるでしょう。

おう。それはそれは。


「でも、あの人、わたしの事、モンスターって……」

そう言って、ぽろりと涙をこぼすカティ。

僕はそっとカティの手を握った。出来るだけ優しく。

「今のチュートリアル先生の言葉、聞いただろう?カティは人間だ。立派な女の子さ。それを言うなら僕なんかダンジョンマスターだぞ。しかも前世の記憶持ちだ。時空制御なんてスキルもある。よっぽど人間離れしてると思わない?」


カティは頭をぶんぶん横に振った。桃色の髪が翻る。

「生まれがどうであろうと、カティはカティ。僕の大好きなカティに違いない」

初めてカティが顔を上げた。

「……本当?」

「ほんとにほんと。だから元気出して」

そしてぎゅっと抱きしめる。


カティはふにゃりと体を預けてきた。そのまま静かに泣き始める。

愛おしさが込み上げてきた。なんて可愛いんだろう。

僕はこの感情を知っている。彼女を女性として愛し始めている。

ロリコン?言いたければ言ってろ。

カティは絶対素敵な女性に成長する。これからが楽しみだ。


それからチュートリアル先生がとんでもない事を言い出した。

――ダンジョンマスターを倒したので、そのダンジョンのマスターになりました。

ええっ?何だそりゃ。

――チュートリアルをちゃんと読んでませんね。もうしばらくすると繋がります。

いや、ま、そうだが、管理するダンジョンが増える?

なんて面倒な!


管理ルームの壁面に扉が現れる。

押し広げると、同じような管理ルームがあった。

ディスプレーの数は少ない。

――マスターの馴染みの仕様にしておきました。

おー、それは有り難い。魔王城仕様なんて、覚えるのが大変そうだもんな。


一応確認すると、十階層のありふれた階層構造。

ダンジョンマスター、何してたの。と思っていたら。

生み出されるモンスターがユニークだった。

多分、自分の好きなモンスターを生成するのが趣味だったに違いない。

素材としての価値はあるのかな。それにしては難易度が高そう。


ユニコーン、キマイラ、茸の家、レッドキャップ、ワータイガー、………………

何か前世のおとぎ話に出てくるような?

もしかしたらあの男も前世持ちで、そっちの趣味があったのかもしれない。

うーん、それはそれで安定していてくれれば、特に設定をいじるつもりはない。


表層の集落は町と言うより村。アンザックより随分規模が小さい。

人気がないんだな。ま、難易度が高くて実入りが少なければそうなる。

――それでこの村はどこ?

――サーダイル帝国ガザ侯爵領のアルタ村ですね。

ええーっ!なんて危険な場所にあるの!

――顔を出さなければ問題ないでしょ。侯爵の城にも近いですけど。


何だと!じゃあ、昔のアルシェ王国の中か。

因縁が深いな。

でも、今の僕はアンザックのアースブリーズ。この地に興味はない。

大好きだった人達は、アルシェにはもう誰も居ないんだ。


「おい、アッシュ?」ターニャが心配そうに声を掛けてきた。

ん?あ……涙をこぼしてた。はずい。

でもターニャは何も聞かない。そう。僕達は過去の傷口に何も触れない。

僕も笑って誤魔化した。


「で、だな、こいつはどれだけ強い?」

ターニャがワータイガーを指さして聞いてきた。

「うーん、ステータスだとオークキングよりかなり強いね」

「ブートキャンプに出せるか?」

獰猛な笑みを浮かべて聞いてくる。どんだけ強くなりたいんだよ。


僕達は既に十二階層を突破して十三階層に挑みつつある。

もちろん、ブートキャンプでモンスターを一体ずつ倒しながら、戦い方を研究してからだ。

ああ、これはずるだ。でもアドバンテージを生かさない手はない。

一番の目標は十四階層、皇花蜂の蜂蜜だ。

そこまで攻略すれば、おおっぴらに蜂蜜を売り出せる。


僕にとってダンジョンは目的じゃない。手段だ。

僕達、アースブリーズ・ファミリアが、いかに安全確実に生き抜くかの手段にすぎない。

そういう意味では新ダンジョンは何の役にも立っていない。

まあ、ターニャの経験値稼ぎにはなっているか。


そういう僕のためにカティは頑張ってくれている。

彼女はサブマスターだ。ダンジョン管理の権限を持っている。

どうやら、やる気無しの僕の代わりに、チュートリアル先生はカティに色々注文をつけているらしい。いやー、助かる。

そういうの内助の功って言うんじゃない?


「カティ、ありがとう。助かるよ」

そう言って髪を撫でて上げると、とても幸せそうな顔をする。

やばい、可愛すぎる。抱き潰したくなる。

でもまだ子供だ。自制、自制。


でも、自制出来ない人達が居た。

ある日、ミルカが不安そうな声で僕達に言った。

「あのう、アリーシェが泣いてるよ。オルトが虐めてるみたい」

この子は独特の“鑑定眼”を持っている。

まさかの状況だが、問題があっては困る。


拠点の客間に設定した一室。

僕達が突入すると、ふたりともまっぱ。オルトがのし掛かっている。

アリーシェが絶頂に達したらしい嬌声を上げていた。手足絡ませて。

えー、これって。


僕達は馬に蹴られないように、あわてて撤収。

ミルカに説明するのが大変だった。

この世界、性教育なんてないからなあ。

僕達は浮浪児として、隔絶された環境で育ってきたし。

後はアリーシェに丸投げしよう。なんたって当事者。

ターニャは駄目だ。傷口をえぐるようなものだから。


あの二人はさっさと結婚させるのが良いな。

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