第二話 お話はコーヒーとともに

「永劫の図書館……やけに仰々しい名前だな。それにユニークミッションの発生とは……」

「おや、人間ですか?」


 暗い通路を進み現れたのは、広すぎる図書館と、ユニークミッション。

 真紅のカーペットが果てしなく続き、縦一列に並べられた高さ横共に長すぎる本棚。

 そして、目の前に急に現れた、白髪の髪を背中まで伸ばした耳の長い明らかに人族ではない少女。


***


「すまん。わざわざありがとう」

「いえいえ、久しぶりの客人ですから。これくらいは」


 目の前のテーブルにコーヒーを置かれる。

 俺は現在図書館の長テーブルに座り、さっき出会った少女と話をしていた。

 彼女の名前はケテラ・ヴァイスというらしく、やはり人間ではなくエルフらしい。

 そういえば見た目変更のところで他種族も選べたな、なんて考えつつ俺は出されたコーヒーを一口飲む。


「すごいな、本当にコーヒーだ」

「当たり前です。コーヒーですから」


 確かにNPCからしたらそうだろうが、俺たちプレイヤーが飲んでみても、本当に飲んでる感覚で味さえする。

 少し味が薄い気がしないでもないが、それでも本当にすごい作り込みだ。


「率直だが、この図書館って一体なんなんだ?」


 コーヒーをもう一口飲み、俺は彼女に聞いてみた。明らかに隠されるようにしてあった入り口に、果てしなく続く本棚。その全てが謎だったからだ。


「簡単にいえば世界ですね」

「世界? ここが? 俺には図書館にしか見えないんだが」


 外に広がる大自然とこの図書館が同じものと言われても信じることができる人などいないだろう。

 それに、世界は概念だ。図書館としての実態があるこことは正反対と言っても過言じゃない。

 頭に手を当てて考えてみてもわからない。一体どこに世界の要素があるのだろうか。


「そうですね。ここは図書館です。図書館であり、世界でもあります」

「いやいや何を言ってるんだ。図書館と世界は全くの別物だ」


 それだとある意味矛盾だ。両立しない二つはどうやっても結びつけられないのに。


「では、世界の意味。世界という言葉の意味をご存知ですか?」


 そういえば調べたことがあった。世界とは、俺が暮らすこの世界とはなんなのか。

 まずまず世界という言葉の意味はなんなのか。


「存在する事物や現象の総体……だったはずだ」

「正解です。そして、重要なのは総体の部分。もし、ここに収められている本が事、物、現象だとしたらどうでしょう」


 事や物、現象がそれぞれ一冊の本なのだとしたら。

 それらは全て記録されてこの図書館の本棚に収められる。そして、それらが集合するこの図書館は……


「……! そうか、それらが収められている図書館は総体、つまり世界と言える……」

「そうです。それこそが答えの一つです」


 これでまだ答えの一つらしい。ユニークミッションだとはいえ、一つのミッションへの作り込みがすごすぎる。さっきのコーヒー一杯ですらゲーム一本作れそうなデータ量してるだろうに。

 俺はもう一口コーヒーを飲む。それなりに時間が経っても全く冷めていなかった。


「それで他の答えっていうのは?」

「他の答えはひどく重要なもので、普通は教えられないんですが……」

「ですが?」


 ここまで聞いて切られるのはかなりゲーマー心がモヤモヤする。何がなんでも聞きたい……

 この際俺のできることならなんでもしてやるほどには彼女にうまく引っ掛けられた。


「手伝いをしてくださるのなら教えて差し上げます」

「ああするさ! ドラゴン退治でもなんでもしてやる!」

「ありがとうございます。では、それも含め、話を続けます」


 ユニークのミッションだからその手伝いとやらの難易度が高いのは承知の上だ。

 ここまできたのにモヤモヤを残したまま帰るのは、俺のゲーマー魂が許さない。


「さっきこの図書館が世界だという話をしましたね」

「ああ、全ての物や事、現象が収められているから世界だという話だな」

「しかし、それはこの図書館のほんの一面程度でしかありません」


 あれがほんの一面程度に収められるほどの事……想像なんてまるでできない。虚無を目の当たりにしてるような感覚だ。


「あれがほんの一面程度……」

「はい、この図書館の名前の由来がこの図書館の全てであり、隠されていた理由です」

「確かこの図書館の名前は、永劫の図書館」


 永劫、すなわち未来を含めた無限の時。

 妙だとは思っていた。図書館程度に永劫なんて名を冠させる理由などないからだ。


「そうです。この図書館は未来すら掌握する。ここに残されているのは世界程度じゃ収まらない。今までの時間、過去。そして、これからの時、未来すらもここには記され、収められている」

「未来すら!? そんなの、世界の概念を根本から否定することになる」


 未来を知ってしまったら改変することが可能になる。しかし、ここには未来が存在している。一体どうなっているのだろうか。時がある限りそんなことありえないはずなのに。


「ええ、なんせこの図書館自体が世界であり、過去であり、未来でもある。そして、世界の根本、時という概念はこの図書館では適応されない。永劫の図書館アカシックレコードでは」

アカシックレコードアカシックレコード……確か過去未来関係ない世界の全て、世界の記憶の概念」


 個人的厨二病セリフランキング第一位、アカシックレコードがここにきて来るとは微塵も思わなかった。

 しかし、そう言われると全ての点が線になる。時自体が干渉できないなんて、どれだけここが重要な場所か納得できてしまう。


「しかし不思議ですよね。時の概念が干渉しないにもかかわらず、コーヒーの量は減るし、お腹も空きますから」

「なんて都合がいいんだ」


 俺たちは動くが、時間は止まる。重力も働いているし、湯気も出る。

 規格外と言ったらいいのだろうか。まるで俺たちには理解できない。


「あ、それで手伝って欲しいことって一体なんなんだ?」

「そうでした、伝えていませんでしたね。実はですね、最近困ったことに気がつきまして」


 しかしここで満足してはいけない。多分だが、ここからがユニークミッションの本番。今まではこの図書館の説明でしかないのだから。


「困ったこと?」

「はい。実は、本が一冊足りないんです」

「本ってここのか?」

「はい、それも今から五年後の未来の本が」


 本が足りない。普通の図書館なら大した問題にもならず、ただ持ち主が返し忘れただけの可能性がかなり高い。

 しかし、この図書館は違う。ここでの本は世界を示す。しかも今回消えた本が未来の本だというのだから大問題だ。


「もしそれが誰か人間の手に渡っていたらかなり不味くないか?」

「まずいどころではありませんよ。もしその未来を変えようとしたのならば、世界の未来は矛盾へと代わり、最後には永劫の虚無が残る。つまり世界の終焉です」


 たかが一瞬の未来だとしても、その力は俺たちには到底理解できないし、今からでは観測することも不可能だ。

 だからこそその本を早く見つけ出さないと行けない。


「どこにあるかの見当はつかないのか?」

「一つだけですがあります。私の予想でしかありませんが、この世界の最奥、『神々の終点』のどこかにあると思います」


 神々の終点。現在のアナザーワールドファンタジアにおける、最終エリアだ。現在そこまで攻略している人物は指で数えられるほどしかおらず、情報がほぼ皆無と言っていいほどない。


「始まりから終わりへってことか。製作陣も粋なことするね」

「それと、私も旅に同行させてもらってもいいでしょうか」

「ケテラさんも旅に?」

「はい、私もそろそろ移動しようかと考えていたんです。とりあえず、神々の終焉まで、私もパーティに加えてください」


 移動するったってこの図書館はどうするのだろうか。まさか放置ってことはないだろうし、誰かに管理を任せたりするのだろうか。

 まあ旅は道連れ、誰と旅をしようとゲームの中ではいいだろう。


「分かった。一緒に行くか」

「ありがとうございます」


 俺は最後にコーヒーを一気に飲み干し、彼女が旅に出るための身支度を待つのだった。


*あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。

展開が早く、読みにくいかと思いますが、物語が安定してくるまでしばしお待ちください。

投稿頻度はできるだけ早くしたいと思います。

 






 


 

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