アナザーワールドファンタジア〜世界一のゲーマーが仲間と共に最速攻略〜
音緒
第一話 アナザーワールド
『おい
電話ごしに聞こえてくるのは友人の
アナザーワールドファンタジアとは、世界に誇る日本のゲームであり、ゲームの中に本人の意識を移すという新しいゲーム環境が確立されてから、世界で最も売れたゲームを更新してしまうほどの神ゲーだ。
「なんだよ今更、前まであんなゲームやらねとか言ってた癖に」
『そんなことはどうでもよくって! あんな神ゲーをやんないなんて勿体無い! 自分の自由に動けて理想を追求できる、あんな神ゲー俺は他に知らないね』
前に一度面白いと聞いた時にやろうかなと思っていたのだが、冬季が面白くないというからやらなかったのに、何を今更面白いなんて。
ソフトは家にあるのだが、全くの未開封。もはや売ろうかなんて考えていた。
「分かった、分かった。てかなんで急にアナザーワールドファンタジアだっけ? やろうと思ったんだ?」
『ああ、実はな
かなりとち狂ったやつなので、冬季も何をされるか分からずとりあえず分かったと了承したのだろう。
「というか、お前アナザーワールドファンタジーなんてやってる暇ないだろ。今日の配信あと十分で予定時間だぞ」
『えっ、まじ!? やべ、なんも準備してねえ。アナファン始めろよ! じゃあな!』
「おい、はぁ……切れた。しっかしまあ、あいつがあそこまでいうならやってみるか」
冬季はかなり人気の配信者であり、顔出しはしてないものの、かなりいろいろなゲームの腕がプロ並みだ。情報の整理が得意らしく、さまざまな大会で助けられた。
電話の切れたスマホをベッドにポイし、俺はカセット収納にある何百ものカセットケースの中から、全く未開封の一つのカセットを取り出した。
「やってみるか。アナザーワールドファンタジア」
VRのようなごつい機械を頭にはめて、横にある窪みにアナザーワールドファンタジアのカセットをはめ込み、そして電源のスイッチを押し込む。そしてベットに横になり、意識をゲームへと向ける。
空気の抜けるような感覚と共に、広いドームのようなVR空間に飛ばされる。
「お、これかーなかなか面白そうじゃないですか。まあ面白くなきゃ世界一売れたゲームにはならないか」
そして目の前に現れたのは一冊の本。中を開くと、そこにはアナザーワールドファンタジアのあらすじが書かれており、俺はそれをじっくりと読む。
内容としては、さまざまな世界がぐちゃぐちゃに混ぜ込まれた世界ということで、以前まではすごい魔法や技術があったが、神たちの消滅と共に全てが過去の遺産になってしまったらしい。
「よし、あらすじで世界観掴めたし。早速プレイしていくか」
俺は本を閉じ、本を真上に投げる。
「ゲームプレイだ!」
そう呟くと、投げられた本から世界が溢れ出すように視界を覆っていく。
ゲームとは思えないリアルな世界と、それにうまく溶け込むゲームタイトル。楽しくないわけがない。
《自由に見た目を変更できます。変更しますか?——yes/no——》
「お、いきなりか。もちろん yes だ!」
いきなり現れた見た目変更の問。大体どのゲームにも見た目変更はあるが、大抵同じようなものしかない。
まあ仕方がないといえば仕方がないのだが、できれば少しでもレパートリーを増やして欲しいものだ。
「て、これは……」
俺は絶句した。せざるを得なかった。なんせこのゲームの見た目変更要素は、一つのゲームを作れるんじゃないかというほどのレパートリーを揃えており、しかも希望すれば現実の見た目と全くの同じにできるときた。
「よし、ガチろう」
俺はそうと決めると、溢れ出る好奇心に身を任せ、だんだんと見た目変化の要素の沼に引き摺り込まれていくのだった。
***
「うーん……よし、これで決定だ!」
ゲームを初めて何時間たっただろうか。俺はやっとのことで自分に合う見た目を作り出すことに成功した。
結局現実の自分の顔面を少しイケメンにしただけで、今までの時間を全て無駄にしたが、やはり自分には自分の顔がしっくりくるというものだ。
「んで、完了と」
《この見た目でよろしいですか?(見た目はあとから変更できます)——yes/no——》
「 yes だ」
見た目は後からでも変更できるらしいし、多分大丈夫だろう。それに次はメインイベント、職業決めだ。
職業決めとは、この世界で生きるための天賦のようなもので、魔法使いや、傭兵、弓手などさまざまな職業が存在する。
まあここで悩むことはない。なんせ俺が選ぶ職業は決まっている。
《本当に『魔法使い』でよろしいですか?(あとから変更できません)——yes/no——》
「ああ yes だ。俺はこの世界で唯一、近距離攻撃型魔法使いになる」
通常魔法使いは後ろから高火力の魔法で敵に向けて攻撃するしかできないが、それでは俺は満足しない。ならば、俺がやることはただ一つ。近距離、武器を使った物理攻撃と魔法を組み合わせた俺の考えた最強の職業を自分で作ってやる。
普通の人間には不可能だろう。しかし俺ならやれる。俺の持つ全力のプレイヤースキルでどうにでもしてやる。
《では最後にあなたの名前を教えてください『 』》
「俺の名前は、『穀狼』だ」
殻狼、小さい頃に間違えて翻訳してかっこよかったから定着した俺の固定ネームだ。それが今じゃ世界で最も有名なゲーマーの名前。本当に人生は何があるかわからない。
《殻狼様ですね、では素晴らしい新たな世界の開拓を》
「ああ、目指すは最速攻略だ!」
パッと視界は明るくなり、俺の目には木々の自然が飛び込んできた。
《全ての始まり、出立の草原》
「すげー風の匂いがする。本当に現実にいるみたいだ」
草の音、風の匂い、地の感覚。そのどれもが地球に限りなく近い。
開発陣がどれだけこのゲームに力を入れたかが一目で分かった。
「これは冬季のいう通り、神ゲーだな」
数多くのゲームをやってきたが、ここまで完成されているものは初めてだ。
冬季が神ゲーというのもわかる気がしてきた。
「てかこれ邪魔だな。しまっちゃお」
風でバタバタと暴れる魔法使いのローブを外してカバンに突っ込む。やはり近距離戦は機動力が大切だ。無駄に邪魔されたらたまったもんじゃない。
「よし、とりあえず、探索だ!」
草原のちょっと行ったところにある小さな街。このゲームを始めた人は真っ先にいく最初の街。しかし俺は違う。いち早くこのゲームの戦闘、探索を味わいたい! なのでとりあえず近くをみて回ることにした。
「そういえば初期リスから街に行く人入るけど、初期リスから真後ろにいく人なんているのだろうか」
普通に考えたらいないだろう。初日勢は最速攻略のために全力疾走で街行っただろうし、それ以外でも後ろに進む理由なんてない。
もし誰も行っていないならば、何かお宝があるかもしれない。
「灯台下暗しっていうしね、そうと決まればレッツゴーだ!」
マップの端の方だから何もないかもしれないが、少しでも可能性があるならそれにかけるのがゲーマーだ。
***
「なんもねー」
1時間ほどたっただろうか。結局初期リスの後ろをぐるぐると探索してみたものの、敵にすら合わない他、お宝なんて全くない。外見変更同様に時間を無駄にしただけだと思っていた。
「ん、ちょっと待て。うーん、ここの壁……ゲーマーの感が言っている。やけに色が周りと違う壁はぶっ壊せと」
しかし、初期リスから最も近いマップの境界線。そこにはやけに色が明るい怪しすぎる壁があったのだ。
「とりあえず初級火魔法でも打ち込むか」
初級火魔法、魔法使いの初期攻撃魔法の一つで、破壊力が一番な代わりに、攻撃スピードが最も遅い。そのため、動かない岩を壊すには最適な魔法というわけだ。
「初級火魔法、ファイヤーボール!」
まるで本当に俺自身が魔法を使っているようだ。杖の先から真っ赤に燃えたぎる炎の玉が生み出され、だんだんと大きくなる。
それを思いっきり投げるように岩に向けて放つ。
「うわーこれで初級かよ……」
炎の玉が岩に到着した瞬間。眩い光と共に、鼓膜が破けるんじゃないかというほどの轟音がなる。
そうして爆発した後は隕石が落ちたようにクレーターができていた。
確かに発動は遅いが、これを敵にでも放ったら跡形もなくなりそうだ。
「まあでも、本当に隠し通路があるとは思わなかった」
クレーターの少し先、さっきまで色の違う壁があったところだけが綺麗に壊れ、少し不気味な通路が現れた。マップを見てもここから先はマップ外と書いているだけで何もない。確定で隠し通路だ。
「こう、上手くいきすぎると逆に怖くなってくるな」
運がいいのはいいことだ。このゲームも運はかなり重要になるらしいし、たまたまが会心の一撃になることだってある。
しかしここまでうまくいくとこれからの運が吸われてる気がして少し怖い。
「よし、とりあえず中入ってみるか。初期リス近いし敵がいても強くはないだろ」
そんな甘いことを考えていた。このゲームの隠し要素はそんなに甘やかしてはくれないことを、俺は身をもって痛感することになる。
《新エリア「永劫の図書館」》
《ユニークミッション開始、「叡智の図書は永劫の時の中で」》
*あとがき
最後までお読みいただきありがとうございます。
無事に進学し、小説を書く余裕も出てきたので新連載です。書き途中の小説もぼちぼち書いていきます。よろしくお願いします。
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