第一回さいかわ卯月賞 特撰について

 第一回さいかわ卯月賞にご参加いただき、誠にありがとうございました。

 主題、惣山沙樹先生による選考の結果、下記を特撰とさせていただきます。


 画鋲/鳥尾巻

 https://kakuyomu.jp/works/16818093074890155871

(敬称略)



ご講評(惣山さんより)


 今回私が選んだのは、鳥尾巻さまの「画鋲」です。


 まず、テーマである「春」とは直接関連性のない「画鋲」をキーアイテムとして作品をまとめられているところに惹かれました。


 次に、祖父の言葉から入る今回の作品。その部分だけは難解な言い回しですが、その後は主人公の語り口がマイルドですっと読み進めることができます。何の話だろう、と興味を持たせた上で、さくっと世界観にいざなってくれるとてもいい冒頭だと思います。


 猫の描写がいいですね。今回の企画では猫が出てくる作品は数多くあったのですが、発情期の鳴き声、ということを明示し「生と死」の対比になっているところはとても好きなポイントでした。


 そして、何よりも「画鋲」です。画鋲で致命傷を与えることはできなくても追い払うことはできる。そう考えた子供時代の主人公が、自転車のパンク事件を引き起こしてしまう、というところは実際にありそうな出来事です。大人になって錆びた画鋲を拾うシーンも妙にリアルな質感がありました。


 実際に何か怪異が現れるわけでもなく、怪奇現象が起きるわけでもない、主人公の妄執だけで成り立っているホラーである、というところも好きです。


 画鋲へのこだわり、それだけで読者の心をざわめかせることができているのは、情景描写が美しいからでもあると感じます。決してしつこくなく、それでいて春の空気感をしっかりと伝えてくれる、いい塩梅の表現に好感が持てました。


 今回、ゲスト選者として参加させていただき、沢山の面白い作品と出会えて本当に良かったです。貴重な経験でした。数多くの中から一つだけを選ぶのは困難なことでしたが、「画鋲」を何度も読み直し世界観にひたった後では、「これが一番好き!」と大きな声で言えます。未読の方はぜひ。


謝辞及びひとこと(犀川より)


 お忙しい中、惣山さんにはご自身がお好きな一作を選んでご講評していただくことができました。ゲストレビュワーであるsnowdropさんも仰ってましたが、一作を選ぶということは全作を読まねばならず、お二人にはわたしが想定していた三倍以上のご苦労をおかけしてしまいました。お忙しい中、一方的なお願いをお聞き届けくださり、ありがとうございました。

 鳥尾巻さんの「画鋲」は優秀賞も受賞しております。惣山さんもわたしもお互いに何を選出するかは知らないですし、惣山さんに至っては最終選考作品すら知らされていない中で選んでおりますので、W受賞は快挙だと思います。

 惣山さんのご講評を拝読いたしまして、わたし自身も「画鋲」の素晴らしさを再確認いたしました。


 改めまして惣山さんにはこの場をお借りして感謝をお伝えするとともに、鳥尾巻さんには優秀賞及び特撰のW受賞特典として、今回特別に「卯月特撰」の称号を贈らせていただき、ここに鳥尾巻卯月特撰の栄誉を称えたいと思います。

 

 おめでとうございます。

 ありがとうございました。(犀川 よう)

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