第一回さいかわ卯月賞 特別賞について
第一回さいかわ卯月賞にご参加いただき、誠にありがとうございました。
主題、開催時の宣言通り、「犀川の独断と偏見と気まぐれ」の結果、下記を特別賞とさせていただきます。
『ハルちゃん』/ヒニヨル
https://kakuyomu.jp/works/16818093074884148156
凛と咲く花の季節に。 ~鬼姫さま奮闘記 番外編~/ハマハマ
https://kakuyomu.jp/works/16818093075068270015
はるの風/大隅 スミヲ
https://kakuyomu.jp/works/16818093075228086703
(参加順・敬称略)
総評
一賞につき一作を考えておりましたが、今回予想以上の参加数であったこと、作品のレベルが高く接戦が多かったことをなどを踏まえまして、三作とさせていただきました。
特別賞を贈らせていただく理由は、「テーマ『春』に対して優秀である」からです。優秀賞と同格の出来でした。むしろ、本来は優秀賞であるべきなのかもしれませんが、今回のテーマ「春」に対して、わたしが望んでいた以上の作品を読ませていただいた功績を称え、敢えて特別賞を贈らせていただきたいと思います。
「『ハルちゃん』」は青春ド真ん中のドストレートのキュンキュン作品でありながらも、細かい技法によって完成度の高いお話になっておりました。心情にシンクロさせて手がグーからパーに変わったり、おでこを出したりと、読者を青春という春に上手く誘ってくれました。
「凛と咲く花の季節に。」「はるの風」の二作は、わたしの苦手な古典ジャンルであり、かつ、それぞれオリジナル作品の番外編と思われます。しかしながら、(選者たるわたしに対しては)そんなハンデだらけの中で、ハマハマさんと大隅さんは「胸躍る春」を見事に書いてくれました。どちらも咲き始めの美しい春を丁寧に演出していて、心温まるものがありました。
お三方とも、今回の企画にご参加いただき、誠にありがとうございました。
個別評
「『ハルちゃん』」 ヒニヨルさん。
本作、単純な青春ラブコメではなく、ガキタ君とのやり取りの中で上手く春を演出しています。そして、ガキタくんとのやりとりがイチイチ青春真っ盛りで、わたしが忘れかけていた微笑ましい時代を美しい過去として思い起こさせてくれました。また、「おでこなら、しても良いよ」という表記が、なんとも味わいがあると思いました。高校時代の女子なんて前髪を作るのが仕事みたいなものですし、雨に濡れたとはいえおでこは出すには抵抗しかないと思うので、まだ女の子を抜けていない中学生なのかな、とか色々想像が膨らみました。
一番の魅力はガキタくんとの不器用なやりとりです。そんな二人の恋が実り最後に手を開くあたりは、序盤の状況を上手く切り返していて良いと思いました。心理の変遷についてキチンと手順を踏んでおり、わたしたちがもんどりうちたくなるような甘酸っぱい春を提供してくれています。ハルちゃんとガキタくんで、春が来た。最高でした。
ありがとうございました。
「凛と咲く花の季節に。 ~鬼姫さま奮闘記 番外編」 ハマハマさん
出だしこそ、作品を知っている前提かつ二次創作的な作品に感じたのですが、読めば読むほどハマっていきました。会話主体で必要最低限の心理描写でわたしをズルズルと引きずり込んでいくのは、見事としか言いようがありません。大変失礼ながら本編未読のわたしですが、主人公卯月が抱く叔母の孟夏への憧憬と恋心を上手く展開させていて、読者の心を卯月へと寄せていきます。
作品の中で春に対して抜かりなく配置している点も見事です。これにより作品全体が春らしい温かさと香りに包まれています。文章を書き連ねて世界観を構築する凡百な作品とは一線を画しており、全体として非常に満足できた作品です。「春の詰合せ」に読者だけではなく選者としても嬉しくなりました。
必要最低限の心理描写と言いましたが、その一文一文が非常に的確で、うまく心情を読者に伝えており、「卯月くん頑張れ!」と思わず母親目線で応援してしまいました。
読めば読むほど、読者として満足させられ、選者としても満足させられ、作家としても尊敬できる。そんな素敵な作品でした。
ありがとうございました。
「はるの風」 大隅 スミヲさん
わたしには文学的素養がないことや、古典への知識が乏しいこともあって、この手のジャンルには腰が引けてしまうのですが、大隅さんの作品はそんな「古典初心者」への配慮が上手になされていました。これまた失礼ながらオリジナルを拝見していないのですが、平安時代という(読者の興味において)アリナシの激しいテーマを書いている中で苦心してきた結果が滲み出ているように思います。
大隅さんも必要なだけの地の文で書かれており、平安時代の作品にありがりな「やけに華やかでとっつきにくい」部分を排除しています。特に用語についてはかなり初心者向けに説明してくれていて、しかもそれが作品の質を損なわないところが非凡だなと思いました。それを読んで、わたしは「ああ。この作品、好き」となりました。
もうひとつ本作品の素晴らしいところは、リズムが一定であるところです。慌てず騒がず淡々としたペースを崩さずに書いているので、リズムにおいて読者をずっこけさせることがありません。読者にとってはとてもありがたいです。これは自身の得意な分野で書いているからかもしれませんが、大隅さんの腕の良さが伺えます。
ラストも良かったのです。当時の女性もこんなナンパをするのか、なんて思いましてここにも春を感じました。
ありがとうございました。
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