第10話 お隣さんと一晩
説教が終わって帰って来て、一息。
確かに、初対面だったのにあれは言いすぎた。すみませんでした、叶多さん。
そういえば今日は……火曜日。お隣さんの両親が帰ってこれない日だ。
燃えそうになったりした服からまっさらな服に着替えて、もう一度家を出る。
そして、数年前から持っている合鍵で、お隣さん――日下部さんのお宅に入る。
「あー! 和希兄ちゃんだ! おーい!」
家に入った途端に元気な声がする。
「やったー! 和希お兄ちゃんだ!」
「……かずきにぃ……!」
日下部家は三きょうだい。
長男は、
「和希兄ちゃん、聞いてよ!」
最年長の小学六年生、
「和希お兄ちゃん! あかりね、こんなのできるようになったんだよー!」
小学五年生、
「かずきにぃ……ピアノきいて?」
小学四年生、
「はいはい、楓からなー」
「はーい」
「えー!」
「やったっ!」
ハハ、単純な奴ら。
でも本当に可愛いな。こんな天使がこの世にいていいのか? 誘拐されるぞ?
「バッハひくね!」
楓はピアノが得意だ。特にバッハを極めているらしい。
最初の頃のおぼつかない手つきのバッハから、随分成長したな。
難しい進行なのに、指が動いている。
次の音が分かっていながら、今の音を丁寧に弾いているっていうか。
だから、四年生のピアノでもこんなに綺麗に聴こえるんだと思う。
楓はピアノのコンクールなどにも、実際に出場している。
何度も入賞したことがあり、ニュースにも取り上げられたことがあるくらいだ。
こんな楓の世話役ができることを、自分自身でも誇らしく思っている。
弾き終わって、俺も稔も灯も素直に拍手。
「やっぱすげーな、楓ー!」
楓の長くて真っ黒な髪をくしゃくしゃとかき混ぜる稔。
「ありがと、お兄ちゃん」
楓は、記者に『おめでとう』とか、『すごいね!』とか言われると黙ってしまうが、兄姉に対しては素直だ。
……俺に対しては、どうなんだろう……。
だからって、それを確かめるにはあまりにも勇気がいりすぎて、楓の頭に伸ばそうとした手を止めた。
「よーしっ、和希お兄ちゃん! 今から二重跳び20回するよっ!」
バタバタと足音を家に響かせて、庭へ出て行く灯。
相変わらず元気だな。
「よっしゃ、オレは30回!」
「えっ、じゃああかりは40回!」
何かと勝負をする稔と灯。
どちらも運動万能なこともあって、運動ではすぐに勝負したがるし、どちらも負けず嫌いだからケンカすることもある。
それを止めるのが、勝負を観戦している俺と楓の役目だ。
楓は運動万能……とは言えないが、全ての才能がピアノに集中している感じだ。
「和希兄ちゃん! はーやく!!」
外で稔が手を振っている。
灯もおねだりする顔でこっちを見上げている。
「ほーいほい! ごめん!」
色々考えていたら、楓も外に出てにこっと笑って待っている。
本当に、こいつらは可愛いな。
「じゃあ、和希お兄ちゃん数えてて!」
そう言われたから両手で数え始めたけど。
……あれ?
稔と灯のテンポが少しずつずれていくから、分からなくなってきた……。
「「あぁっ!」」
結局、タイミング的には同時に縄が足に当たって崩れ落ちた二人。
テンポ的には、多分灯の方が早かったと思うから、それを口にしようとしたら……。
「引き分けだっ……」
「なんで同じタイミングなんだよ! 一秒早くしろよー!」
と小学生らしい勘違いをしていた。
だから、
「引き分けだったな~……もっかいやるか?」
と嘘をついてしまった。
「「やる!!」」
本当に勝負好きだな。
あ、もしここに叶芽がいたら……お喋りな叶芽は、俺の胸の内を全部吐き出して、俺は稔と灯に怒られるんだろうな。
でも、そんな姿を想像して、何故かハハッと笑ってしまった。
あとから入ってきた俺ら、古参のお前ら全員蹴散らしてやる! ~利用してきたクラスメートと相棒になったので、二人で魔法業界無双します~ こよい はるか @attihotti
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