ストナップ鉱石
🌳三杉令
幸せの奪い合いはだめです
No. 002 設定 by Mana Shinomiya
https://kakuyomu.jp/works/16818093074605440391/episodes/16818093074621164388
幸福には本来、上も下も、大きい小さいもない。
では、なぜ人は争うのだろう。
それは、より幸せになりたい、その一心からではないだろうか。努力をするのは、その先に幸福があると信じているからではないだろうか。
人は本能的に知っているのだ。
幸福になれるのは、運が良いからではない、という事を。
幸福には、上も下も、大きいも小さいも、ある。
そして、世界の幸福の総量は決まっているのだ。
---------------- 本文はここからです ------------------
『ストナップ鉱石』 三杉 令
超人も住むという惑星テディでは今ゴールドラッシュならぬストナップ(Stnap)ラッシュが起きていた。ストナップとは天然鉱石で地球の金に相当する。
惑星テディではストナップ硬貨で物資の取引が行われている。そしてストナップ鉱石の埋蔵量(つまり総量)は決まっている。
今一番人気の鉱山に世界中から腕に覚えのあるストナップハンターが集まっている。技術やパワーを駆使する採掘のプロ達だ。
「今日こそは世界最大のストナップを採掘するぞー!」
「お前なんかが掘れるかよ! 俺がいただきだ」
「お前達、ストナップの総量は決まっているんだから、がめつく取るんじゃない!」
「「うるせえ」」
荒くれ男達はいつも喧嘩ごしだ。
僕はスリア、7歳。鉱山のふもとに住んでいる。
大人達をちらちら見ながら砂遊びしてる。
この場所で良質のストナップが採掘できることがわかって、最近たくさんの大人が争って採掘しているんだ。こんなもの昔から僕は遊んでいるけれど、そんなに欲しいのかな?
あ、ガウフお母さんが来た。
お母さんは面白くて優しいんだけど、怒ると怖いんだ。
「スリア、一人で遊んでいるの?」
「うん」
スリアが遊んでいる砂のところにキラリと光る石がガウフに見えた。
「あら、そこに光るものが……」
よく見るとそれは鉱石で……
「スリア! それってもしかして」
「うん、ストナップだよ」
「うわっ、そんなに大きい鉱石。家が10件建てられるわよ」
ガウフはわが子が遊んでいた石を見て驚愕した。
「お母さんも欲しいの?」
「欲し……、いえ。そんなもの手に入れると災いが降りかかるわ。ストナップ鉱石の総量は決まっているのよ。みんなで分け合わないといけないわ」
「当たり前だよね」
「スリア…… あなたって、すごい」
今日はハンター達が激しい。いくつかの小ぶりのストナップ鉱石が見つかり奪い合いで大騒ぎだ。
「俺のもんだぜ」
「俺が見つけたんだよ!」
「俺の管轄エリアだから、俺のモノだ!!」
つかみ合いで喧嘩して収まらない。
やがて周りの大人達も巻き込み大騒ぎになった。
そこへつかつかと小さなスリアが歩いてきた。
それを見た大人達が一瞬鎮まる。
スリアは騒動の中央まで歩いて行った。
ハンター達が円形に彼を囲んだ。
(この子、何だ?)
「おじさん達さ、――」
皆、ごくりと唾を飲む。
「これ欲しいの? あげるよ」
スリアは大きなストナップ鉱石をポケットから取り出して、ポロっと地面に捨てた。皆、再度ごくりと唾を飲んだ。誰の目も大きく見開かれて、その鉱石の大きさに驚愕している。
ハンター達は互いの顔をちらりと見て牽制し合う。まるで決闘で銃を撃つ直前の雰囲気だ。
次の瞬間全員が鉱石に飛び掛かった。
スリアはふわりと空中に浮いて、彼らをかわした。
修羅場である。その奪い合いは本当に見苦しい。
「バカモノども!」
大きな声がして、強烈な電撃が男達を襲った。ガウフだった。
「お母さん……」
「いい大人がハイエナの様に群がって、恥ずかしくないのか!!」
そして再度強烈な電撃がハンター達を直撃した。
ハンター達は黒焦げの顔とボロボロの服で茫然としている。
そして、ガウフはつかつかと歩いてくると、地面に置いてあった大きなストナップ鉱石に近寄った。そして上から鉱石を拳で一突きした。
するとなんと鉱石は粉々に砕かれ砂金のように散った。
「すげえ、この女、超人か? 鉱石を素手で砕きやがった」
「一人10粒ずつ持っていきな!」
「へえ、恩にきます」
男達は一人10粒ずつ拾ってすごすごと去って行った。
「さすが、僕のお母さんだ!」
スリアは尊敬のまなざしで母のガウフを見つめた。
「あ……」
でもスリアは見逃さなかった。母の左手に大きめの鉱石のかけらが隠れていることを。
「しょうがないなあ、大人は」
了
ストナップ鉱石 🌳三杉令 @misugi2023
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