5 命を懸ける理由は
5
私がオフィスに到着すると、照太くんはモニターを睨みながら情報を整理していた。私に気づき、ぱあっと明るい顔でモニターの上から顔を出す。
「ごめんね! 遅くなりました」
私は照太くんに手招きされ、モニターを一緒に覗き込む。映し出されていたのは、それぞれの課員の位置と、彼らが追う
「えっと……西の方向、は……」
『捉えた。目出し帽を被った男よ。きょろきょろと何かを探しているようだけど』
『こちら南。奇怪な面を被った男が、同じくきょろきょろと何かを探している。確保するか?』
『皆、
『北だがよォ、ちょいと面倒な人ごみに紛れてらァ』
「四方向それぞれ、人ごみの中に反応がありますね……」
『面倒だな。とにかく皆、見失うなよ』
照太くんは、反応のある個所の防犯カメラ映像などをハッキングし、
照太くんが四苦八苦する中、突如通信の音声に
『なっ……!』
『バレちまったみてえだ!』
『今の音は何だ?』
地図上に表示された
ある者は人ごみを押しのけ、ある者は歩道橋から落下し、ある者はビルの上を飛び移り――――――。
「何が起こって……」
慌てる私たちを嘲笑うかのように、四つの反応は人間離れした動きで逃亡する。
これってもしかして――――――。
「浅田さんと……同じ?」
その時、再び警報音が鳴り響く。
『
そんな。五か所目なんて――――――。
『クソッ。どうなっている』
『どーすんのよ課長。私たちが追うのを止めて、そっちに行くしか……』
現場に出られるのは私と、照太くんしかいない。
普段現場に出ることのない少年と、新人の私。誰がどう見ても、単独で出動するには心もとない。しばらくの沈黙ののち、七楽課長が指示を出す。
『いや、それはできん。我々はこのまま対象の追跡を続行だ』
通信越しからもわかる苦しそうな声だった。この状況に、私は緊張で鼓動が早くなるのを感じる。
「あの、課長!」
そんな状況の中、照太くんはデスクを叩いて立ち上がると、真剣なまなざしでモニターを見つめながら叫ぶ。
「オレ、行きます! オレだって想術犯罪対策課の一員です! みんなの役に立ちたい!」
その提案に、無線の先は押し黙る。正直この状況で動けるのが私たちだけなら行くしかないと思う。でも――――――。
『だめだ。お前を現場には出せん』
七楽課長は、低い声色で提案を突っぱねた。はっきりと突きつけられた言葉に、照太くんは悔しそうな表情で拳を握りしめる。
「……なんで!」
『お前は子どもだ。それに普通の
私は息をのむ。照太くんは
そんな湧き上がる疑問は、照太くんの言葉で掻き消える。
「ならオレは……オレは命をかけなくてもいいんですか」
『そうだ。命をかけるのは我々大人の仕事だ』
「
『言い争っている時間はない。私は待機を命じた』
七楽課長は語気を強めると、通信を切ってしまった。らしくないな、とつい思ってしまう。照太くんは目に涙を浮かべ、
「照太くん!」
私は無意識に手を伸ばしていた。このままではいけない。私は照太くんを追いかけなければならない。そう思い、すぐさま通信を入れる。
「課長すいません! サポートできないです。照太くんを追います」
『まて……いや、私のせいだな。すまない』
『まァ七楽。照太は嬢ちゃんに追ってもらうとして、何もマイナスなことばかりじゃねえ。今のでおれたちのやる気が上がったってわけだァ。そうだろ、
『そうね』
『ああ。全力で目の前の
『そういうこったァ。だからそっちは嬢ちゃんに任せるぜ。頼んだ!』
そう言って、三人は通信を切り、各々対象を追いかける。
「はい……!」
私も通信を切り、急いで照太くんを追う。
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