2 仕事が終わり
2
「おつかれ~ぃ! 嬢ちゃん」
夜。私が想術犯罪対策課のリビングへ入ると、
「いやァ、嬢ちゃんが単体で犯人を捕まえちまうなんてよ」
「ああ、それですか」
「なんでェ。嬢ちゃんはあんまし元気ねえみてェだな」
「いや、そういうわけじゃないんですけど……めちゃくちゃ緊張しちゃって疲れました……」
私はリビングのソファに座り、一息つく。犯人を無事に逮捕できたのはいいのだが、その後
「残りもんだけど嬢ちゃんも食べな」
「……ありがとうございます」
机にはどこかのスーパーで買ってきた寄り合わせの総菜が机に並んでおり、半分以上食べつくされていた。食卓にはリオちゃんがいて、携帯をいじりながらから揚げをつまんで食べているほか、その横で
「あれ。課長と
「怒られてやんの。嬢ちゃんは気にすんなァ」
「わがまま言ったせいですか?」
「あァ。盡のやつ、最近ストレスが溜まってんのかね……」
「そうよ、アンタが来たせいで、ね」
話に割って入ったリオちゃんは、箸で私を指し、睨みつけて告げる。
「えっ」
「おいリオ」
「アイツはね、
「そういう言い方はやめねえか」
灰狼さんは、低い声でリオちゃんを制止する。その圧にリオちゃんは舌打ちをして押し黙った。
「……すみません」
「嬢ちゃんが謝ることじゃねえ」
「平和主義の甘々
「はあ……全く手前は」
リオちゃんはもう一つから揚げをつまんだ後、冷たく続ける。
「アンタが来て三か月。抹殺した
リオちゃんは小さく「ごちそうさま」と呟いて席を立った。私はリオちゃんの言葉に何も言い返せず、ただ押し黙ることしかできなかった。
「気にすんな。手前のこと、リオは心配してんだ」
「はあ!? ボケてんのジジイ!」
「だってそうだろォ。わざわざ警告してやるなんてよ、気にしてんじゃねえか」
豪快に笑う灰狼さんに、リオちゃんは顔を真っ赤にして抗議する。
「ち、ちがうし! こんなやつのこと……! どこをどう取ったらそうなんだよハゲ!」
「おれァはありのままに言っただけだぜ。おっと顔が赤いなァ」
「こんんの……!」
「おい。お前たちうるさいぞ……」
その時、白いシャツを着たクールビズ仕様の
「いたの課長」
「ああ。お前の正論もきちんと聞いていたぞ。だが言い方が悪すぎるな。本来は人殺しなど何があっても許されない。そこは
課長は仕切りを横に避けてリビングに入ってくると、私の隣に座った。
「今回の犯人は聴取の必要があった。奴の周辺を調べたが、動機が一切わからんかったからな」
「
「なぜ
課長は私の方をまっすぐに見て、肩を叩く。
「
「い、いえ……」
「今日はもう解散にしよう。明日、容疑者
課長は手を叩き、解散の音頭を取ると、冷蔵庫から取り出したビールの詮を開け、一缶一気に飲み干した。かなり疲れているようで、ため息を吐いたのちソファに座り込んでしまった。私は皆さんに軽く挨拶をしてからアパートを後にする。
私は帰路で思わずため息を吐いてしまった。理由は、盡くんのことを含めて思うことがたくさんあるからだ。先日の〈
――――――雨の中、
憎悪に満ちた、絶望の表情。とても恐ろしくて、とても悲しい。そんな顔の納戸さんに、私はあの後何も言うことができなかった。
彼の過去と橙朧人の関係性はとても根深いものがあるのだろう。それは盡くんも同じで、彼の行動原理―――なぜ好きの意味を問うのかということ、
私は先ほどリオちゃんに言われた言葉が頭をよぎる。私のせいで、彼らが傷ついているということなのか――――――。
「はあ……だめだだめだ。気にするな私!」
私は自分の頬をはさむように引っ叩き、足早に帰宅した。
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