「燈護」


「む……」



「私は、賦殱御魂ふつみたまを見せろと言ったが、抹殺しろとは言ってないな? むしろ、避けろと言ったな?」

「……見せろ、というのは清濁併せ吞むという意味だと、自分は解釈した。それに、仕方がなかった。社員の命も、杜若さんの命も危険にさらされていた」

「だからといって、本人の目の前であんなに派手に殺すとはどういうことだ……ァ?」


 愛生がビルの屋上から逃げ出したのち、燈護は現場を収拾し報告のためにオフィスに戻っていた。

 報告を聞いた七楽は、青筋を立てて燈護に説教する。

 人手が不足しているこの状況に、やってきた新人をむざむざと辞めさせるわけにはいかない。そのため、きちんと順序だてて説明しようと計画していたのだが――――――。


「無ゥ~理でしょ。堅物センパイには無理無理。死んで生き返らなきゃ無理」

「燈護。気持ちはわかるけどなァ。いつも言ってんだろ? 憎悪に飲まれんな」


 課内満場一致で、燈護に冷たい視線が注がれることになる。

 燈護は反省しろと言われて、かれこれ一時間くらい姿勢よく正座を続けている。


「で、杜若さんは今どこに?」

「一時間前に市内の監視カメラに映っていて、そこからはちょっと」


 照太はがっかりと項垂れて、モニターの電源を落とす。


「これで辞めたらどう責任取るつもりだ? それに、お前もわかっているだろう。教協師メンターとて、橙朧人ダウナーになることもあるのだ。その可能性をお前は高めたんだぞ」

「課長マジ裏番長にしか見えん」

「怖ェ怖ェ」

「お前たち、うるさいぞちょっと」


 リオと灰狼は、何かに満足したのか、すすっと身を引いた。


「少し、やりすぎたことは、認める」

「少しィ?」


 七楽は燈護の膝をぐりぐりと足で押さえつける。そのたびに燈護の顔色が青くなっていく。


「足が、しびれてるんだね燈護さん……!」

「課長、たまに激ヤバイオレンス発揮するよね~」

「面白い言葉」

「写真撮って今度ゆすってやろ~」


 リオは、ニヤニヤしながら燈護の写真を撮りまくる。


「も~みんな優しくしてあげようよ~……」


 騒がしい外野を見る余裕などない燈護は、七楽の顔をまっすぐ見て告げる。


「誤解を解き、謝罪する。必ずだ」

「はあ……ただでさえ、彼女をつくしに合わせるまでにステップがあるというのに……」

「課長そういえば、盡はどこに行ったの?」


 七楽はリビングのソファに深く腰掛ける。


「調べものという名の自由行動だ。あいつは一番事情が複雑だからな。燈護バカ以上に激ヤバイオレンスしかねん」

「ぷぷぷ……使うの!? 課長だっさ~い!」

「いいなぁ。オレも遊びに行きたい!」

「照太はダメだ。いてくれなきゃ困る」

「そ、そうかな~」


 嬉しそうに照れた照太は、うきうきで皿洗いを開始する。七楽はため息をついて、燈護から離れる。


「なら、行ってこい。不器用なりに謝ってみろ」

「……承知した」


 七楽がソファの上で横になろうとした時、室内に警報音が鳴り響く。


「また、橙朧人ダウナー反応だ。多いな……えっと、場所出しますね。北区山沿いの廃倉庫」

「仕方がない。灰狼とリオを連れて私が出るしか……」

「待ってください。えっと、愛生さんの反応があります!」

「何だと!?」


 それを聞いた燈護は、真っ先にオフィスを飛び出した。


「待て燈護……!!」

「へへ。まっすぐなところが、燈護さんのいいところですよね」

「そういう問題ではない。単独行動は原則禁止だというのに」

「市内への隠れルート、見つからないといいですね」

「はあ……」


 七楽はため息をついて立ち上がると、パソコンに接続された賦殱御魂ふつみたまを見つめる。


「言われた通り、照合かけてます」

「結果は?」

「第三者を気取って、遠くから見ていたっていう愛生さんの推理が正しいなら、今までヒットしなかった想術師が一人ヒットしました」


 照太はパソコンの画面を七楽に見せる。


「こいつが、犯人なのか?」

「さあ……証拠はないですけど……」


 二人は、画面に映し出された男の顔を、じっと見つめた。



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