13、神は、いるのだ②

 お参りに行くと決めた我々は、とある週末、また国道を一路諏訪へと走った。

 今度は子どもが一緒なので、都合3人分のお願いをすることになる。


 道中で息子に「何をお願いするのか」と聞いてみたら、「お小遣いがもらえますように、にしようかな」などとのたまっていた。

 それは多分諏訪大社に頼むより父ちゃんに頼んだ方が早いぞ、息子よ。


 ご存じの方もいるだろうが、諏訪大社というのは上社と下社、それぞれ2カ所ずつの計4カ所にお宮がある。

 それぞれ本宮、前宮、春宮、秋宮といい、神仏に詳しくない私にはどこにお参りするのが効果的なのか全くわからなかった。

 よって結論は、4カ所全部回っとこう、であった。


 とはいえ、一度に回るのもなんだか勿体ない気がして、とりあえず初日は上社の本宮と前宮を詣でることにしたのである。

 ちなみにこれまではお参りするといえば本宮だけだったので、今回はもう気合いの入り方が違うのがわかるだろう。


 長距離ドライブでさっさと居眠りしている息子を横目に、居眠りどころか後部座席で横になってガチ寝の妻を後目に、私は車を運転し、今度は追突されることもなく本宮へとたどり着いた。

 流石に経済的には多少はマシになっていたので、今回の賽銭は本気の500円玉である。

 

「ぼくもそれがいい」という息子に、「いいか、こっちの5円玉はな、ご縁があるように、っていって最強のお賽銭なんだぞ」と噛んで含めて穴あき硬貨を渡すと、我々一家は並んで参拝をした。

 どうか福ミス受賞しますように。


 その帰り、やはり気になるのはお守りとおみくじである。

 私は勝負に勝つようにと勝守を一つ買い、全員でおみくじをひいてみることにした。


 開けてみると、なんと大吉である。

 それも中を読むと、ものすごいことが書いてあった。

「目上の人の引き立てにより望みが叶う。方位は西が吉」


 ……おいおい、バッチリ当てはまるじゃねえか!


 目上の人は島田先生だし、信州から見て福山はまさに西方である。

 私は目を白黒させながら、待て待てまてまて、などと呟きつつ、そいつを財布にしっかりとしまったものである。



 それから2週間ほど後の週末、今度は下社の春宮と秋宮を詣でることにした。

 ちなみにこの下社は、本宮のある上社からは諏訪湖を挟んだ反対側にある。勿論車ならさして苦労もせずたどり着ける距離ではあるが、電車などで観光の人は一日で全部回るのは少し大変かもしれない、ということだけ書き添えておく。


 ともかく、既に少々飽き始めている息子をなだめすかしながら、我々は再び諏訪に向かった。


 やはり名前の通り本宮というのがメインであるとみえて、秋宮や春宮は若干敷地の規模などが小さいようだが、それにしても立派である。

 全部回ればさぞかし御利益があるに違いない。

 我々一家は、そんな期待をしながら秋宮に参り、そして最後に春宮へ参拝した。


 ここでも一番大きい硬貨を投げ込み、祈る。


 どうか福山ミステリー文学新人賞に通りますように。


 三回ほど頭の中でその文言を唱え、さて、と顔を上げ振り向いた私の視界に、一台のトラックが入ってきた。

 どうやら社務所に荷物を運んできたらしい。

 境内の片隅に停車したトラックを見て、私はとんでもない衝撃を受けた。


 その車体には、「福山通運」とデカデカと書かれていたのである。


「福山通運」。

「福山」に「通る」「運」。


 ご神託じゃあああーーー!!


 私は思わず妻の肩を三回ほど叩き、「見ろ、見ろって!すごいすごい!」と一人大騒ぎをしていた。

 妻は案の定、「ああ、うん……」という反応である。


 思えば、受賞が決まってから、いくつかの新聞社などから取材を受けたときには、「応募したときに自信はありましたか」とか、「受賞できると思っていましたか」といった質問を受けた。

 そのときは「いやいや、連絡が来るまではずっとドキドキでしたよ」などと当たり障りのない答えをしていたが、今だから言おう。


 このとき、私は初めて「これ、いけるかも」と思った。

 だって諏訪大明神がそう言ってるんだから。これはもういけるでしょう。


 こうして根拠のない自信を手に入れた麻根の元に、さらにブーストをかけるかのように、新たなニュースが舞い込む。


 二次選考結果の公表の日。

 やっと周りに報告できるぜ、とか思いながら開いた公式ページの内容を見て、再び私は衝撃を受けた。

 そこに残っていたのは僅かに2作品だった。


 確率、50%!


 パチンコか何かだったら激アツ、というやつだろう。知らんけど。

 

 そうして私は、いよいよ人生でもっとも過酷な「待ち」の体制に入ったのである。

 もう日々生きた心地がしなくて、というか半分死んだようになっていたのだが、そこら辺はまた次回でお話しすることにしよう。


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