10、プロット交換会、それから待機

 いよいよ赤の女王を世に出さんということではるばる福山へと送り出した麻根は、早速次なる作品に取りかかると同時に、参加したコミュニティで友達作りに励んでいた。


 どうして友達作りをしようと思ったかといえば、これはもう寂しかったという一言に尽きる。

 何度か公募にチャレンジしてきた中で、私が感じたこと、それは「公募は孤独な戦いだ」ということだった。

 web小説と違って反応がないのが当たり前の世界。

 いくらよいものを書いたところで、何かの拍子に一次落ちでもしようものなら誰からも感想をもらうことなく葬り去られていく。


 承認欲求爆上がり中の私は、どうしても誰かに「面白い」と言ってほしかったのだ。


 しかも現在の自分は公募の結果を待つ身であり、なおのこと孤独である。


 そんな折、Xで、二晩さんという方が「プロット交換会をやりませんか」と呼びかけているのを発見した。

 それぞれで書いたプロットを交換し、それで短編小説を書いてみんなで読もう、という主旨の催しらしい。

 一応、二晩さんのフォロワー限定ということだったが、これからフォローしてもよい、ということだったので、私は是非に、と手を挙げ、二晩さんをフォローした。


 交換会には13人ほどのメンバーが集まり、大層な活況を呈していた。

 その中には既に何らかの賞を受賞したことのあるメンバーもおり、いろいろなことを吸収するにはもってこいだったと思う。


 早速プロットが各自作成され、大盛況の抽選会を経て各自の担当が決定した。

 私は南木憂さんという方の作成プロットにより、「月下美人にさよならを」という作品を執筆した。


 えー、この作品もカクヨムに投稿済みなので各自自習しておくように。


 ちなみに私のプロットを執筆したのは或る物書きさんという方。こちらも大変素敵な作品に仕上げてもらった。

 

 この交換会に参加してよかったこと。

 それはもう間違いなく、たくさんの創作仲間ができたことだろう。

 しかもメンバーはいずれも非常に上手な方ばかりで、よくもまあこんなにレベルの高い人ばかり集まったなと感心するほどだった。

 

 中には現在、「探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。」でプロデビューを果たし、快調に飛ばしておられる夜方宵さんもいた。

 当時は確か、別の賞を受賞したところで、この交換会の最中にMF大賞をとって書籍化を決めたんじゃなかったかと思う。違ってたらごめんなさい。


 メンバーの一部とは、交換会が終わった今でもとても仲良くしてもらっている。

 しかもその中からは次々とプロデビューが出てくるというすごいことになっており、やはりハイレベルなメンバーだったんだなと振り返って思う次第である。


 さて、そんな楽しい創作の日々を過ごしながら、私は一次選考の結果を待っていた。

 決して楽観はしていなかった。前回の苦い思い出があるから、だめでも仕方ない、という予防線を常に自分の中に張っていたのだ。


 完全に余談だが、この予防線というやつ、人間の心理の中でもなかなか面白い機構だと思う。

 例えば何か新作のゲームが発表されたりすると、ファンの間では必ずといっていいほどそれに対してネガティブな投稿をする連中が現れるのだ。

 そうして楽しみにしている人たちとの間で、血で血を洗う論争に発展する。

 特に某匿名巨大掲示板などで、こういう流れを散々に見てきた。


 このネガティブな連中の心理状態こそ、「予防線」に他ならないだろう。

 もし実際に発売されたゲームがつまらなかったときに、自分がショックを受けないために、あらかじめ「これは面白くなさそうだ」ということにしておいて、そのショックを和らげようというわけだ。

 全くもって迷惑な考え方だと思う。

 予防線を張るなら自分の中だけでやればよくて、それを公共の場に垂れ流す必要など全くない。楽しみにしている大勢のファンに顰蹙を買うだけである。


 閑話休題。

 私は自分の中にだけ予防線を張りながら、じっと待った。


 前回の様子からするとおそらく選考結果が出ると思われる頃には、それはもう毎日ふわふわとした気分で過ごしていたものである。

 

 そしてある日、ついに福ミスの公式サイトに動きがあった。

「第一次選考の結果について」。

 私はかつてないほどの緊張の中で、そのリンクを開いた。

 ……いや、前言撤回。多分前回の時もこのくらい緊張していたけど。


 一次選考通過作品。そのリストの上から2番目に、それはあった。

「赤の女王の殺人」。


 その瞬間、さしもの私も無意識に拳を握りしめていた。


 ちなみにそれが某商業施設の喫煙室であり、周りには他のお客さんの目があったことは、触れないでおこうと思う。ちょっと恥ずかしいから。

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