9、お友達を増やそう!
福ミスのホームページで応募要項の確認がてら過去の受賞作のページを見ていた私は、軽い眩暈を感じていた。
すごい。
島田先生の選評がすごい。
最終選考まで進んだ作品には島田荘司先生がすべてに選評をつけてくれるのだが、それがものすごい文量なのである。
一般的な公募の数倍、下手すれば十倍にもなるだろうか。とにかく1作品あたりの選評の量と、その熱量が桁違いなのである。
この選評、ほしい……!
私はすっかり福ミスの虜になっていた。
それもそうだろう。学生時代から大好きだった作家の島田荘司が、自分の作品を読んで、しかもこれだけの長さの選評をくれるのだ。
こんな機会はそうそうない。
しかも年によっては、受賞作が複数出ていたり、逆に直近の回は受賞作なしだったりもする。
公募ではままあることだが、しかしこのことは「形式的に受賞させるんじゃなく、きちんと内容まで見てくれているんだ」という確かな信頼にもつながった。
福山という街は、私にとって縁もゆかりもない場所である。
広島県のどこかだという認識はあったが、具体的な場所すらよくわかっていない。
唯一知っている福山の知識としては、「ウルトラマンエース」の初回で怪獣(エースの場合は超獣か)に壊滅させられ、主人公の北斗と南が福山から東京へと出てきてTACのメンバーとなる、その舞台になった街だということである。
……誰にも共感されない豆知識だなこれは。
ともかく、そんな知らない街であっても、他の地方文学賞のようにその地に関するテーマを入れなければならない、という縛りがないのもありがたかった。
そうして私は、まずは先に書き上がった方を、ということで「赤の女王」をこれに応募することに決めたのである。
しかしそれには少々問題があった。
せっかく応募するからには島田荘司に見て貰える最終選考まではいきたい。
ところが赤の女王はまだ書いたまま放り出してあっただけで、まともに改稿すらしていないのだ。
これではまずい。最終選考どころかまたしても一次落ちの憂き目に遭うのは目に見えている。
さりとて、知り合いはすっかり「ヤモリ」のときにおなかいっぱいになってしまったと思われ、「また読んでくれ」などと言ってもたいした反応は期待できない。
そこで私は、ネット上のコミュニティを頼ることにした。
本来なら、そこで「ココナラ」のようなサイトで金をかけて見てもらうなり、小説講座のようなところに参加するのが常道なのだろう。
だが私は手軽な方を選んだ。
後から考えると、ここでネット上のコミュニティを選んだことは、私の作家活動にいい影響を与えたと思う。偉いぞあのときの麻根。
そういうわけで、とりあえず本当に手軽なところで、Twitter(X)で創作アカウントをフォローしまくることにした。
ちなみに私のXのアカウントは、それまで完全に、ファンであるフットボールクラブのトッテナム・ホットスパーの応援のためだけに存在していたようなものである。
今でこそ創作関係のフォロー・フォロワーが大半を占めるようになったが、最初の頃にフォローされた創作関係の方々はさぞかし「誰だこいつは」と思ったことであろう。
そして更に、LINEのオープンチャットにも参加した。
創作関係のオープンチャットはいくつか覗いてみたが、荒れ模様のところや活動がほとんどないところが多く、唯一活動がまともそうな大規模のチャットに落ち着いた。
見た目はずいぶんと人相が悪く、どちらかといえばヤ●ザか何かだと思われがちな私だが、リアルは肝の小さい人見知りのおっさんである。
ゆえに最初は創作関係のコミュニティに参加しただけでもドキドキで、積極的に仲良くなろうなどというのは夢のまた夢、といった具合だった。
しかし人間慣れるもので、しばらく空気を読みながら当たり障りのないやりとりをしているうちに、少しずつ他のweb投稿勢や公募勢と話ができるようになっていった。
ようやく知り合いが増えてきたな、というところで、私は満を持して「赤の女王」を下読みしてくれる人を探した。
正直、ネットで自分の原稿を見せることの不安は多分にあった。
貶されるかもしれない。アイデアをパクられるかもしれない。何か他にもトラブルに巻き込まれたらどうしよう……。
それでもそういった不安を「福ミス最終選考を目指すんや!」という強い気持ちでねじ伏せ、最終的にLINEのオープンチャットの方で、何人か読んでもいいよ、という人を見つけたのである。
そうして読んでいただいた中で出された感想を参考に、お褒めの言葉は励みにしながら、赤の女王は改稿された。
久しぶりのプリントアウト。
久しぶりのダブルクリップ。
そして久しぶりの郵送。ちなみにこのときはレターパックの存在を覚えたので、レターパックを利用した。進歩しているぞ麻根。
郵便局に持って行った時のわくわくは未だに忘れられない。
島田先生に届け! の念を送りながらの郵送であった。
ちなみにその後、今度はXの方で、二晩占二さん@niban_senjiという方が立ち上げた、「プロット交換会」なる催しに参加することになった。
これがまた大変楽しいイベントであり、何人もの仲良し創作仲間ができたのだが、それはまた次の回で語ろうと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます