7、別の世界を見てみよう
2作目の長編「赤の女王の殺人」を書き上げ、しかし1作目は世の中に出せるレベルではないことを知り、私は、少し迷っていた。
公募の世界は甘くない。
一朝一夕で受賞できるようなものではない。
しかし、作家にはなりたい。
さて、どうしたものか。
あれこれ思い悩んでいた私は、書きあがった「赤の女王」を公募に出すのを一旦諦め、他の道を探した。
本当にデビューのためには公募しかないのか。
聞けば某鈍器本量産型超有名ミステリ作家は、編集部に持ち込んだことでデビューに繋がったという。
そういう道もあるのではなかろうか。
そんなことまで考えたものの、調べれば調べるほど「小説はマンガと違って持ち込みはほぼ不可能」という情報ばかりが出てくる。
やはりこれは無理筋か。
いっそE先生に無理を言って編集者を紹介してもらおうか、などという超失礼な案まで頭をよぎる。
流石にそれは思いとどまっておいて偉かったぞ、当時の麻根。
そんなとき、だらだらとネットサーフィンを続けていた私は、あるサイトの広告に目を留めた。
小説投稿サイト「小説家になろう」である。
……いや違うって。ここがカクヨムなのは充分承知だって。
最後まで話を聞いてくれ。
当時、隆盛を誇っていた「なろう」では、いわゆるなろう系と呼ばれる作品たちが、次々と書籍化していた。
しかしながらその書籍化している作品を見ると、どれもライトノベルからいわゆるなろう系まで、私の作風とはかけ離れたものばかりである。
それも情報収集をしてみれば、その書籍化の波に押されるようにして、投稿される作品の大多数が転生やチート、追放ざまあに悪役令嬢ばかりだというではないか。
せっかく見つけたweb投稿という一筋の光。
しかし自分にはあまり合わないであろう空気感。
どうしたものか。
少しばかり迷って、私は「他のweb投稿サイトならもう少し合うかも?」という考えに辿り着き、いくつかのサイトを見て回った。
そして結局違いがよくわかんないまま、「もうなろう以外ならどこでもいいや」という理由で、なぜか行きついたのがこのカクヨムという場所だったというわけだ。
早速ユーザー登録をした私は、それからというものせっせと「ヤモリ」の投稿を始めた。
その頃には「ヤモリ」では新人賞の受賞は無理だ、という方に気持ちは傾きつつあったから、これを公開することには迷いはなかった。
公募がダメならwebしかない。いや、webからの書籍化は公募よりも厳しいのはわかっているが、それでも少しでも多くの人の目に留まれば。
そんな気持ちで毎日少しずつ投稿する日々。
しかし、現実はそう甘くはない。いくら投稿しても、読者は全くつかなかった。
それはそうだろう。なろうではないからといって、カクヨムがミステリというジャンルに優しいかといえば全くそんなことはない。
というか、web小説サイトというプラットフォームそのものが、ミステリと決定的に相性が悪いのだ。
投稿サイトにおける読者が求めているものは、なろうでもカクヨムでも、あるいはほかのサイトであっても、基本は変わらない。
それは手軽に読めるものであり、軽い作品である。
間違っても叙述トリックをメインに据えた、激重20万字ミステリなんかではないのだ。
だからこんなしょうもない文章の方が、まともに書いた作品よりめちゃくちゃPVの伸びがいいのである。
お陰様でエッセイジャンルの日間と週間ランキングにインしちゃったよこのエッセイ。
真面目に書いてたやつはちっともランクインしないのに。
……ともかく、私は約三分の一を投稿したところで、webでヤモリを読んでもらうことは諦めた。
最後までやれよ、と思うかもしれないが、心が折れるのは早かった。
だってPV0とか平気で記録するもの。そりゃ折れる。
そして私の目標は、次第に「デビューしたい」から、「なんとかしてカクヨムでいっぱい読まれたい」へと変わっていった。
実質的に作家になることを半ば諦めたと言ってもいいだろう。
もはや麻根は、純然たる承認欲求モンスターへと変貌を遂げていたのだ。
どうやったら読んでもらえるか。
それには読者層に合った作品を投稿するに限る。
しかし私には転生だのハーレムだのは書けない。と、いうか流石に方向性が違いすぎてチャレンジする気にもならない。
ましてや安っぽいプライドが、長文タイトルをつけるのを邪魔してきやがる。
ならばどんなものならばいけそうか。
昼も寝ないで考え抜いて出した答えは、「SFならいけるんちゃうか」であった。
一口にSFといっても、科学知識ゴリゴリのガチSFではない。
私が書きたかったもの。それは蒸気文明の発展した世界を描くスチームパンクか、あるいは人類が衰退した後の世界を舞台にしたポストアポカリプスである。
どちらも昔から私が好きな分野であり、いつかは挑戦してみたいと思っていたジャンルだ。
で、投稿を始めたのが「山岳蒸気都市と終末運送業」であった。
ここから先を語るには、この内容を知ってもらわないといけないのだが、さりとてもう説明するスペースが足りない。
よってこの作品については、次回更新までに各自予習してくるように。
私の作品一覧から見られますからね。
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