第4話
☆
そら見たことか。 ……いきなり失礼。
俺は慌てて街を出て、郊外の誰もいなさそうな林の中に逃げ込んだ。
林と言っても
ちょっと開けた場所を見つけ、ピピリッタ氏に身体能力検査の項目を聞くと、準備運動をしてからある程度の種目を試しにやってみた。 そして発覚した。
「バケモンクオリティーじゃねえか!」
「あんた、ちゃんと手ぇ抜いてる? もしかして、手を抜いてるふりして俺すごいでしょうオーラをあたしに見せようとでもしてるんじゃないでしょうね?」
「なんでお前みたいなちんちくりんにいいところを見せようとしなきゃいけないんだ?」
「……よーし、喧嘩ね? 喜んで買うわよ? って、あんたさっきからちゃっかりタメ口になってるじゃない、なんなのよほんと!」
そう言われてみればそうだった、俺はこのちんちくりんことピピリッタが以外にも話しやすかったせいでいつの間にかタメ口になっている。
素直に「す、すみません」と詫びを入れたのだが、
「別に、タメ語でもかわまないからこの私をちんちくりん扱いしたことに対して詫びを入れなさい?」と返答された。
なので素直に「ちんちくりんって言ってごめんなさいでした」と深く一礼する。 面倒だから謝っとけばどうとでもなるだろう。
そんなことはさておき、身体能力検査は中学生や高校生の時にみんながやるような種目とほぼ類似する。 だから俺は林の中で必要そうなものとかを使ってざっとやってみたのだが……
「握力はどんくらい出てるかわからないし、長座体前屈以外はバケモノ記録だな」
何回やってもバケモノ記録を叩き出してしまう。 試しに落ちてた石をちょっと強く握ったら砂になった。
50m走なんか二秒台。 世界を狙えるだろう。 垂直跳びに関しては10m近く飛んでしまった。 猫なのか俺は?
手を抜いてこれなのだから、一度退散しておいて本当によかった。
何度か挑戦してはいるのだが、全身にちょっと力入れるだけで地面が割れたりしてしまうからマジでうまくいかない。
「ピピリッタ氏、このままじゃ俺はバケモノ級に認定されてしまう、なんかいい方法ないっすか?」
「そんなこと言われても、あんた他の転移者より運動神経が元々よかったからね。 オタクなのになんでこんなに運動神経いいのよ」
「あのなピピリッタ氏、君のその偏見は全てのオタク様に失礼だぞ? 今の世の中ちょっと口を滑らせるだけで炎上案件なんだから、そこら辺注意して口を開きなさいな」
「それはその、悪かったわね。 っていうか、ここ異世界だから炎上するわけないでしょ? あんたばか?」
出たよ、『あんたばか?』とか言っとけば人気出るとか思ってんのかこのチクチクちょいデレ女め。 とまあ文句は後にして対策を練らなければ。
でないとピピリッタ氏が「ちょっとあんた、今すっごく失礼なこと考えてたでしょ?」とか言いながら詰め寄ってくる面倒イベントが長引いてしまう。
とは言ったものの、できる限り手加減しているつもりだがどうしてもアホみたいな記録を叩き出してしまう。 こればっかりは仕方がないことだ。
普通の異世界物のアニメや小説なら、「あ、なんか適当にやったらうまくいった!」的なノリで突然上がった身体能力にも対応してしまうことができるが、現実的に考えれば突然上がった身体能力でいつも通りに力を加えてしまえば破壊神になってしまう。
さっき俺、よくペンを握れていたな。 あの時ペンが折れなくて本当によかっただなんて思っていると、
「誰かー! 誰か助けてくださーい!」
遠くの方から面倒になりそうな声が聞こえてくる。 イベント発生だ。
「ちょっと虎太郎! あっちでなんか声がしなかった?」
「その名はもう捨てた。 俺のことはティーケル氏とお呼び?」
「……ティーケル氏、あっちで誰かが助けを求めているわよ?」
細目を向けてくるピピリッタ氏。 何だか『めんどくせえなこの男』って顔に書いてある気がする。
さて、ここは魔物が
この条件、取るべき行動は決まっている。
「ふむ、そろそろ街に戻るか」
「え? ちょっと! え? もしかして知らんぷりしてどっか行こうとしてる? あんたそれでも
「あのなピピリッタ氏、これはきっと面倒なイベントの前触れだ。 きっと襲われているのは可愛らしい美少女なんだぞ! そんな美少女を
先ほども説明したが、ヒロインという生き物はみんなトラブルメーカーなのだ。 何の利益も無いのに助けに入ってみろ、きっと面倒な未来になるに決まっている。
なんて口喧嘩をしている矢先、声の主は何を血迷ったのか、俺たちが呑気に喧嘩している方に走ってきた。 遅れて巨大な
必死の形相で林の中を駆けてきたのは、予想通り美少女だった。
青ざめながらも額から垂れ流しになっている汗で髪の毛は頬にへばりつき、その表情は恐怖に歪んでいるというのにこんなにも可愛いのだ。 間違いなくヒロイン候補のうちの一人。
こんな子を助けてしまったら確実に面倒ごとに巻き込まれること間違いない! と、言うわけで……
「ぅオラァぁぁぁぁぁぁぁぁァァ!」
「あ、迷わず助けたわこの男」
地面を力一杯蹴り、突進してきた巨大な猪の顎に全力でアッパーを喰らわす。 俺が地面を蹴った衝撃で地面はガラスのように割れ、アッパーを喰らわせた猪の顎には大穴が空いた。 アッパーの際に発生した衝撃波で辺り一体の草木がふぁさっと揺れる。
横目にうっすらと見えた少女の顔は、化け物クオリティの俺のアッパーを見て目玉が飛び出んばかりに驚愕していた。
顎に大穴が開いてしまった猪は、林の中に大きな音を立てながら横たわった。 倒れた猪を改めて確認し、戦慄する。
俺が知ってる猪と違い、毛皮は夜闇色だし牙は象のように大きい。 眼光は血のように
見た目からしてかなり禍々しい。
『……なぁピピリッタ氏』
『お見事な初陣じゃない』
『このモンスターって、例えるならどのくらい強い?』
『そうねえ、初心者冒険者が頑張って倒せるくらいじゃないかしら』
少女がこっちにきた瞬間ピピリッタ氏は胸ポケットに収納した。 見られたら面倒そうだし、だから今の会話は脳内会話だ。
ピピリッタ氏の呆れたような声音を聞き、初心者冒険者というワードでほーっと胸を撫で下ろす俺。 しかし追い打ちをかけてくる。
『五人がかりで』
『……? 五人? それってどうなの? 強いの?』
『大前提だけど、冒険者って一応モンスター退治のプロだからね?』
『えーっとじゃあなに、つまりこいつ……モンスター退治のプロが五人がかりで倒すレベルのモンスターってこと?』
『率直に言うと、一撃で倒した上にパンチで顎に大穴を開けるってかなり化け物よ?』
何だか知らんが、先が思いやられる今日この頃でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます