13.アントキノバージル

中野基地の制服からフライトスーツに着替えて外へ出る。

トップガンパイロット達のフライトスーツは全員オリーブグリーンであるが、俺たちのフライトスーツは制服同様ワインレッドのような燻んだ赤色である。

しかもその上に黒の耐Gスーツやサバイバルジャケットを身に着けるので、ファロン基地では目立って仕方がない。

なので敵役としては最適ないでたちであろう。

そんな格好のままオバQ号に乗っているので俺は以前、曲芸飛行士と間違われた事もある。

F-18から少し離れた場所に駐機している自分たちのF-15に乗り込む。

今回の対戦訓練はナタリーも参加するが、ナタリーはオブザーバーも兼ねているので対戦訓練の勝敗にはカウントされない。

ナタリーは海軍のフライトスーツではなく、何故か俺たちと同じ赤のフライトスーツを着ている。

聞くと、こちらの方がカッコイイからと言う単純な理由だと言う。

まずはシズコお気に入りのエディと、そしてシズコ2号のキャサリンとのチームと俺&シズコチームの対戦となる。

先鋒を切ってエディが離陸し、それに続いてキャサリンも離陸していく。

それを見送って俺とシズコが滑走路へと侵入。

少し遅れてナタリーが追いかけてくる。

スラストレバーを徐々に起こし、アフターバーナーに点火する。

シートに背中を押しつけられて機体は急加速。

みるみるうちに離陸速度に達して操縦桿を軽く引く。

すると地面からの振動が消えて機体が宙に浮いたのを実感する。

必要無くなったランディングギアを格納し上昇していく。

普段、カタパルトで急激に射出されてばかりなので、このようにゆっくりとした手順で離陸すると何故か優越感を覚える。

シズコと編隊を組んで目標高度へと向かって上昇していく。

「高度3000mになったら対戦訓練を始める」と俺。

「最低高度の1500mを下回らないように注意しろ」と念を押す。

程なくして高度3000mに到達、対戦訓練までのカウントダウンに入る。

「負けたら腕立て伏せ200回ですよ」とエディ。

それに続けて「でもルンルンスキップは楽しそうだよね」とキャサリン。

どうやらキャサリンにはルンルンスキップのバツゲームは効果がないらしい。

キャサリン用にもっと別のバツゲームを考えておけばよかったと今思った。

「3・・・2・・・1・・・Go!」

一斉に各機体が翼をひるがえす。

お互いの背後を取るため、右!・・・左!・・・上昇!・・・下降!・・・と激しく機体をコントロールする。

さすがにF-18はF-15より機体重量が軽いため、動きがかなり俊敏である。

しかし推力ではこちらが結構上のため、この利点を有利に活用する事が重要である。

「シズコ!キャサリンを狙え!俺が援護する!」と指示を出し、シズコの斜め右後方に機体を寄せる。

「了解!たいちょー!」とシズコ。

機体をひるがえし、アフターバーナーに点火する。

瞬く間にシズコはキャサリンの後方を捕らえた。

エディはキャサリンを援護しようと俺たちの後ろから迫ってくる。

キャサリンは急上昇・・・そして急降下とシズコから逃げ回るが、シズコはピッタリと後ろに付いている。

ムダ弾などは一切撃たずに、じっくりと相手を仕留める機会をうかがうのがシズコの特徴である。

かたやヨシミツはムダ弾ばかり撃つので、いつ弾切れを起こさないか、俺はいつもヒヤヒヤしている。

「後ろが振り払えない!エディ!今どこにいるの?!」と焦った声でキャサリン。

「まもなく敵の背後に付く、もう少し踏ん張れ!」とエディ。

しかしそんなエディの声も虚しくシズコはキャサリンに向けてペイント弾を発射。

見事命中!

キャサリンのF-18はペイント弾で真っ赤に染まった。

「キャサリン撃墜!」とシズコ。

無線の向こうでは「やられた〜!」とキャサリンの悲鳴が聞こえる。

と同時にエディが俺の後方に迫って来た。

「シズコ!俺を援護しろ!エディが後方にいる!」と俺。

「了解!」とシズコ。

右に急旋回していく。

そして俺は左に急旋回。

思った通りエディは俺に付いてきた。

エディはペイント弾を俺に向けて発射する。

しかし照準が定まっていないので全く当たらない。

機体をロールさせたり上昇下降させたりと注意をこちらに引き付けていると

「はい、いただきましたぁ!」とシズコの声。

振り返るとエディの真後ろに張り付いたシズコがペイント弾を発射。

そして命中。

エディの機体も真っ赤に染まった。

オブザーバーのナタリーが「テツヤとシズコ組の勝ち!」と俺たちの勝利を宣言。

結局俺は1発も撃たずに対戦訓練は終了した。

「さすがですね。完敗しました」とエディ。

エディの動きは決して悪くはないが、実戦を想定すると少し心許ない。

対してキャサリンは実戦に投入するにはまだ時期尚早のようである。

そこへ「シズコせんせ〜!すご〜い!」とキャサリンのデカい声。

「後ろに付かれたら絶対逃げられないし〜!」とシズコ先生を称賛している。

先生呼ばわりされたシズコも調子に乗って

「じゃあ今日から私の事を女王様とお呼び!」と冗談を言って笑っている。

ナタリーは「テツヤとシズコは腕立て伏せをやる必要がなさそうね」とため息。

俺たち5機は基地に向かって旋回を始めた。


「そんなのルンルンじゃなーい!」とシズコの叫び声。

基地の駐機場ではエディとキャサリンが並んでルンルンスキップをしている。

二人ともお揃いの花柄ワンピースを身につけ、右手にはピンク色のパラソル、そして左手にはそこらで摘み取った草花の束を持っている。

「もっと大きく手を振って〜!」やら「高く飛ばないとダメでしょ〜!」など、シズコはルンルンスキップの定義にやたら厳しい。

キャサリンはノリノリで楽しんでいるが、対してエディはさすがにトホホ感は否めない。

そんなエディを見て他のパイロットたちはしきりにヤジを飛ばしているが、かたや地上勤務の女性スタッフ達などは「きゃぁ〜!可愛い〜!」などと、黄色い声援を送っている。

エディはかなりのイケメンなので、何をやっても人気者である。

中野基地随一のイケメンであるタカシが今回ばかりは非常にうらやましく思った。


続けて対戦訓練2回目を開始する。

2回目に対戦するのはバージル2号のロナルドとアジア系アメリカ人シュウのペアである。

まずはロナルド&シュウのペアが離陸して、その後に俺、シズコ、ナタリーの順に離陸していく。

程なく訓練高度の3000mに到達。

俺の「3・・・2・・・1・・・Go!」の合図で対戦訓練が始まった。

まずは相手のペアに向かって正面から切り込む。

相手までの距離は700m・・・600m・・・

まだお互い進路は譲らない。

500m・・・400m・・・まだまだ譲らない。

しかしこのまま行けばお互い正面衝突である。

300m・・・200m・・・

堪えきれずロナルド&シュウのペアが左右に分かれて旋回する。

「よし!ロナルドを狙うぞ!」とシズコに向かって俺。

チキンレースを制した俺とシズコはシュウと離れたロナルドを追う。

「あんたら死ぬ気かよ!」と俺とシズコに向かってロナルド。

当初の予想通りロナルド達は、自分達の守りに入ると予想していたが、それが見事に的中した。

これが百戦錬磨のパイロットが相手だったなら、俺とシズコは命を落としていたかもしれない。

対戦訓練はスポーツではなく殺し合いの訓練なのである。

実戦経験がない彼らと俺たちとでは、そもそも戦いに対する考え方が違う。

「俺が狙う!援護しろ!」と俺。

「了解!シュウの動きも見ておくわ!」とシズコ。

俺とシズコはロナルドを追いかける。

さすがにトップガンで成績が1番というだけあって、動きはかなり良い。

急上昇、急旋回と動きが俊敏なF-18を自在に操ってはいるが、それよりも重いF-15の俺でも容易に追いかけられるくらい、操縦の技術がまだまだ甘い。

このまま撃墜しても面白くないので、少し遊んでやる事にする。

「シズコ!離れてろ!」と指示を出し、その後スラストレバーを全開。

ロナルドの前に出る。

ロナルドは案の定「よし!もらった!」と活気づくが、その瞬間俺は機首を上に向けてスラストレバーを全閉。

勢い余ったロナルドが俺を追い抜いたのを見届けてからロナルドの背後から急降下に入る。

いわゆる空中戦闘機動のひとつで、木の葉落としと呼ばれる技である。

「敵が消えた!」とロナルドは大騒ぎ。

俺はロナルドの真下に位置している。

戦闘機の真下は視界やレーダーからは全く見えない死角なのである。

機体の姿勢を立て直し、ロナルドの真下から急上昇に入る。

そしてペイント弾をロナルドに向けて発射。

見事命中!

その後、ロナルドをかすめるように俺は上空へと飛び上がっていく。

恐らくロナルドはペイント弾が当たっても、俺がどこにいるか判明しなかったであろう。

かすめ飛んで行く俺を見て、初めて存在を知ったのだと思う。

その後は難なくシズコがシュウを撃墜して訓練は終了。

全機、基地に向かって帰投を開始する。


指笛や笑い声が響く中、ロナルドとシュウが女装してルンルンスキップをしていく。

「笑顔が足りなぁ〜い!」とか「もっと腰を振って楽しげに〜!」などと、シズコは先程のエディ達よりもルンルンスキップの定義が厳しくなっている。

シュウはそれなりにルンルンしながらスキップしているが、対してロナルドはふてくされた表情で楽しげとは真逆の態度である。

周りで見ているパイロット達も成績が1番のロナルドが負けたとあって、「ひぇ〜!」やら「マジかよ〜!」などと悲鳴を上げながら、ルンルンスキップが迫り来る恐怖におののいている。

その後、残り3回の対戦訓練を実施したが、3回とも俺たちの勝利で合計5勝0敗と俺とシズコの圧勝であった。

基地の駐機場では夕暮れ時まで、ルンルンスキップでの笑い声や悲鳴などが鳴り響いていた。


「シズコせんせ〜!」とデカい声。

見るとキャサリンが満面な笑顔で、しかも猛烈な勢いでシズコに向かって走ってくる。

日も暮れた夜の7時、基地の敷地内にあるビストロ&バー。

俺とシズコとナタリーは、警護のダニエル君たちと夕食を摂ろうと店のカウンター越しに品定めをしていた。

走ってきたキャサリンはシズコの至近距離で急停止。

そして「シズコせんせー!ボウリングしよ!」と、いきなり予測不可能な言葉。

思いもかけない誘いにシズコは目が点になる。

俺はシズコの目が点になったのを初めて見た。

「さあさあ早く!早く〜!」とキャサリン。

シズコの手を強引に引っ張っていく。

「まっ!まだご飯、食べてないしー!」と慌てるシズコにキャサリンはお構いなしの様子。

まるで俺が普段シズコから受けているパワハラの様相を呈している。

俺はシズコに向かって微笑みながら「いってらっしゃい!」と目配せ。

シズコはそんな俺を見ながら地獄へと連れ去られえる悪人の如く、キャサリンと共に漆黒の闇へと消えていった。

その後、やれやれと思いながらハンバーガーの品定めをしていると、後ろから

「シマタニ教官!」とまたまたデカい声。

見るとシズコお気に入りのイケメンエディが、大量のハンバーガーやらフライドポテトなどを手に、俺に向かって真剣な眼差しをしている。

「どうしたんだ?」と慌てて聞くと

「これを食べながら、皆さんでボウリングをしませんか?」とエディ。

俺は人目もはばからず、その場で思い切りずっこけた。

騒々しいシズコを追い出して、やっと静かなディナーが楽しめると思った矢先にこれである。

俺は当然の如く断りを入れるがエディは全く引き下がらない。

今日の対戦訓練のリベンジをボウリングで果たしたいと言う。

俺はリベンジなら対戦訓練で真っ当に戦えば良いと主張するが、「お願いします!」とエディは一点張り。

俺に向かって頭を下げる。

そこへ「ここまで頼んでるんだから引き受けてみたら?」といつも余計なひと言のナタリー。

俺に向かって妖艶な雰囲気で微笑みかける。

ナタリーがマネキン販売で妖艶な雰囲気をかもし出すと、いつも決まって商品がバカ売れする。

なので、今回はその妖艶さに便乗して、渋々ボウリング対決を引き受けた。

エディ共々外へ出る。

ボウリング場は何と、ビストロ&バーから通りを挟んだ真向かいにあった。

ドアを開けて中へと入る。

ボウリングのレーンは12くらいと、こじんまりとはしているが、一応ちゃんとしたボウリング場である。

レーンの一番奥ではシズコとキャサリンが、今まさにゲームを始めようと準備をしていた。

ナタリーがシズコたちに事情を説明する。

するとキャサリンは二つ返事で快諾。

対してシズコはエディとボウリングデートができる事になったので、手のひらを返して浮き足立っている。

「ボウリング対決で負けた場合のバツゲームはどうするの?」と唐突にキャサリン。

ボウリングの腕には、よほど自信があるのか、かなりのドヤ顔で俺たちに聞いてくる。

すると「対戦訓練と同じルンルンスキップで良いじゃない?」とシズコ。

それを聞いて小さなガッツポーズをしたキャサリンを俺は見逃さなかった。

何故ならば対戦訓練で負けたにも関わらず、キャサリンだけはルンルンスキップをノリノリで楽しんでいたからである。

俺は話に割り込み、「負けたら欽ちゃん走りでボウリング場の中の端から端を3往復だな」と提案。

それを聞いたキャサリンは?マークの顔をして「欽ちゃん走りって何?」と俺に質問。

俺はポケットからスマホを取り出して、動画配信サイトにアップロードされている、欽ちゃん走りの動画をキャサリンに見せる。

俺のスマホを食い入るように見ていたキャサリンが突然大きな声で「こんなの絶対にヤダ〜!」と俺の予想通り半泣き状態になった。

早速レーンを陣取りボウリング対決となる。

俺とシズコのペアとエディ&キャサリンペアの合計得点で雌雄を結する事となる。

コイントスでキャサリンがシズコに勝ったので、エディ&キャサリンペアが先攻になった。

まずはキャサリンが見事なフォームで第一投を投じる。

さすが自信があるだけあってフォームもさることながら、ボールにスピンがかかり安定した軌道でピンに向かって転がっていく。

そしてレーンの端を転がっていたボールはピンの手前で急速にカーブし、真ん中のピンを見事に捉えた。

「ポォ〜リィ〜ン!」という心地良い音と共にピンは全て弾け飛び、それを見た俺たちは「おお〜!」と歓声を上げる。

一投目からのストライクにキャサリンはドヤ顔。

すでに勝ち誇ったような笑みを俺たちに見せつける。

続いてシズコがボールを体の前に抱えてアプローチへと立つ。

そしてボールを抱えたままチョコチョコと小走りでレーンへ向かって走っていき、ファウルライン手前で一旦停止。

その後おもむろに腰を落とし、両手でボールをどっこいしょと、ピンにめがけて転がした。

典型的なお嬢様投げである。

それを見たキャサリンは「プッ!」と吹き出し、完全に自らの勝利を確信している。

そんなキャサリンを見た俺は少しムッとするも、秒速1mにも満たないシズコのボールは、ゴロリ・・・ゴロリ・・・とゆっくり進み、見事センターのピンにヒットした。

そしてパタン・・・パタン・・・と立て続けにゆっくりとピンは倒れていき、最終的に全てのピンが倒れてストライクとなった。

唖然とする俺たち。

そして、ひと呼吸おいて「うわー!」と言う大歓声。

キャサリンは目と口を大きく開けて仰天している。

両手を広げて喜んでいるナタリーに向かって「まぐれだよ〜」と照れてシズコ。

それを聞いてキャサリンは再び不敵な笑みを浮かべた。

続いてエディが投球フォームに入る。

キャサリンほどではないが、エディも手慣れたフォームでピンに目掛けて第一投目を投じた。

これもピンのセンターにヒットし心地良い音と共にピンが弾け飛ぶ。

しかし2本が惜しくも残ってしまった。

苦笑いのエディは二投目で残ったピンを全て撃破。

見事スペアを勝ち取った。

ついに俺の出番となりボールを目の前に掲げてアプローチに立つ。

レーンに目掛けてスリ足の如く歩み寄り、5歩目でバックスイングした腕から、前方にめがけてボールを放り出す。

力任せで投げるのではなく、ボールの重みを使って投げるのが俺流だ。

投げたボールはわずかにセンターを外してピンにヒットし、結果3本のピンがレーンに残った。

俺の場合スペアをとるのが下手なので、アベレージは大体100〜120点くらいだろうか。

しかし今回は欽ちゃん走りがかかっているので慎重に次の狙いを定める。

レーンにスリ足で歩み寄り、第二投目を投げる。

ボールは狙い通りの軌道を描いてピンに近づいていく。

そして「ガシャン!」と音を立てながら、残りのピンは全てボールと共にレーンの奥へと消えていった。

「よっしゃー!」と思わずガッツポーズ。

シズコとハイタッチをする。

ナタリーやダニエル君、そしてハンバーガーを頬張りながらのロバート&チャーリーにもハイタッチをし、ドスンと椅子に腰を下ろしてコーラをひと口、ぐびりと飲み込んだ。

久しぶりのボウリングに何故かテンションが上がる。

今回はナタリーの妖艶な雰囲気効果でスコアが少し上がるかもしれない。

続いて2巡目に入る。

キャサリンは相変わらずの見事なフォームで二投目を投球。

しかしわずかに的が外れて1本だけピンが残った。

そんな事など物ともせずキャサリンは華麗にスペアを奪取。

その表情には余裕さえ感じる。

続いてシズコがアプローチに立ち、先ほどと同様にボールを抱えたままチョコチョコと小走りでレーンへ向かって走っていき、ファウルライン手前で一旦停止の後、お嬢様投げでゴロリと投球。

投げたボールは先程と同じ速度と同じ軌道を描いてゆっくりと進み、そしてセンターのピンにまたまたヒットした。

パタン・・・パタン・・・と、ピンはゆっくりと倒れていく。

あれよあれよという間に全てのピンが再び倒れ、二投続けてストライクとなった。

これには全員が驚愕。

キャサリンに至ってはアゴが床に付くくらい大口を開けて驚いている。

「やったー!」と飛び跳ねてシズコ。

小走りでこちらへと向かってくる。

俺たち全員とハイタッチをした後、次に投げるエディを羨望の眼差しで見ている。

そしてエディが第二投目を投げ、残念ながら1本残すも安定のスペアで終了。

続く俺も2本残してスペアで何とか切り抜けた。

その後は一進一退の攻防が続くと思いきや、何とシズコがストライクを連発。

そして俺もナタリー効果なのか、ストライクとスペアをきっちりと織り交ぜ、ミスなしの投球。

ボウリング対決は、俺とシズコの独走状態となった。

シズコの強みは以前に良好だった箇所を次回に完コピできる能力である。

F-15の戦闘でも気温や湿度、気圧や風速などの変化を全て考慮して、そのうえで以前と同じパフォーマンスを発揮できる。

なので気象条件が全く変わらないボウリング場での完コピは、いともたやすい事なのである。

ゲームが進んで行く度に、どんどん差が開いていく。

キャサリンが必死に追い上げるも、シズコが完コピストライクを連発するので全く歯が立たない。

結果、シズコがパーフェクトスコアで300点を獲得。

俺もナタリー効果で210点と、アベレージを大幅に上回った。

対するキャサリンは260点で、エディは180点という結果に・・・

よってバツゲームの欽ちゃん走りはキャサリンとエディに決定した。

早速バツゲームの欽ちゃん走りを始めるキャサリンとエディ。

周りのお客も何事かと驚いている。

俺は「もっと腕を伸ばして大きく振らないとダメだろー!」と一括。

すると最初は半泣きだったキャサリンもだんだんノリノリになってきて満面の笑顔になってきた。

それに便乗してエディもノリノリで欽ちゃん走り。

エディがノリノリなのでシズコも便乗して欽ちゃん走り。

シズコがノリノリなのでナタリーも・・・

という感じで気がついたら俺たち全員が集団で欽ちゃん走りになっていた。

それを見た他のお客たちも面白がって、ボウリング場内は欽ちゃん走りで大騒ぎとなってしまった。

「いやぁ〜楽しかったです」と笑いながらエディ。

ボウリング場から外に出て、額の汗を手で拭っている。

対するキャサリンも「シズコせんせーには絶対勝てないしー!」と大笑い。

エディとの間にシズコを挟んで、お互いシズコと肩を組んでいる。

シズコもお気に入りのエディに肩を組まれて、まんざらでもない様子である。

そこへ「こんなに楽しかったのは娘と一緒に踊ったダンス大会以来だなぁ」とエディ。

シズコが一瞬で凍結した。

聞くとエディは奥さんと二人の子供をサンディエゴに残し、現在単身赴任中との事。

トップガンの訓練が終わったらサンディエゴのノースアイランド海軍航空基地に戻る予定だと言う。

それを聞いたシズコは呆然とした顔。

エディに代わって俺が肩を組んで慰めたら半分涙目になった。

シズコの恋は、わずか24時間あまりで空の彼方へと消えていった。


翌日午前7時。

俺たちが滞在している一軒家。

「さあ!今日も張り切っていくよ〜!」とシズコは朝からデカい声。

エディに失恋したばかりなので、カラ元気なのか本当に元気なのか、よくわからないが、恋愛遍歴が多いシズコなので多分本当に元気なのだろう。

彼氏にフラれた当日に違う男と付き合い始めるなど、シズコの恋愛遍歴は枚挙に遑がない。

朝食を終えて身支度した後、外へ出る。

出迎えた車に乗って5分足らずで基地へと到着。

車から降りて昨日と同じ部屋に向かいドアを開けると、クリス教官とジャック、そして12名のパイロット達が、がん首を揃えて俺たちを待ち構えていた。

「まるで重役出勤だな」とイヤミったらしくジャック。

時計を見ると集合時間をすでに10分も過ぎている。

「たいちょーが家を出る前にトイレになんか行くからでしょ!」とシズコ。

対する俺も「お前がつけまつ毛を付けるのに手間取ってたからだろ!」とシズコにチクリ。

皆がいる目の前で、お互いに見苦しい罪の擦り合いをしている。

見かねたクリス教官が俺とシズコを手で制して今日の訓練の内容を発表する。

今日の訓練内容は急降下爆撃訓練との事。

俺とシズコも日米共同訓練で数回程度爆撃訓練を行ったことがあるが、実戦では全く経験がない。

しかも水平爆撃しか経験がないので急降下爆撃は全く未知の領域である。

クリス教官によると急降下爆撃とは60度以上の急角度で降下しながら爆弾を投下する事らしい。

目標を視認しながら接近して投下できるため、水平爆撃に比べて命中精度が高いのが特徴との事。

今回の訓練は60度の角度でマッハ1で急降下して模擬爆弾を投下。

その後反転して60度の角度で速度を保ったまま急上昇し目標を離脱すると言う。

その際にかかるGはおよそ9Gとの事。

9Gと言えば普通のパイロットが耐えられる限界である。

だが俺とシズコは、おかえりなさい作戦で、それ以上のGを体験しているので問題はないであろう。

問題なのは爆撃目標が直径2mと非常に小さい事である。

それに加えて模擬爆弾はレーザー誘導ではなく無誘導との事。

「まずは俺とジャックが手本を見せるので各自それを見てトライして欲しい」とクリス教官。

ジャックに「お前、できるのか?」といった感じで目配せするが、ジャックは右手の親指を立てて自信満々のポーズ。

そこへ「目標に当たらなかった場合のバツゲームはどうします?」とまたまたロナルドが余計なひと言。

ルンルンスキップを喰らったにも関わらずロナルドは全く懲りていない。

俺は昨夜の出来事を思い出して「バツゲームは欽ちゃん走りを300mでどうだい?」と提案。

昨夜の出来事を知っているエディとキャサリン以外は「???」という顔。

見かねたキャサリンが皆の前に出て欽ちゃん走りを披露する。

すると室内がしばらく凍りついた後「ぎょぇ〜!まじでぇ〜!」と大騒ぎになった。

トップガンにくるパイロット達は皆エリートなのでプライドの高い者が多い。

したがって皆の前でカッコ悪い事をするのがいちばん堪えるのである。


ブリーフィングを終えて各自、機体へと乗り込む。

1回目はクリス教官とジャック、並びに俺とシズコに加えてエディとキャサリンというメンバーで空へと上がる。

クリス教官とジャックが高度3000mに到達したところで訓練を開始する。

俺たちは高度1500m付近で旋回待機して、事の成り行きを見守る事にする。

まずはクリス教官が機体を反転させて急降下。

瞬く間にマッハ1に到達し、俺たちが待機している高度1500m付近で模擬爆弾を投下。

そして見事に命中。

俺たち全員から「おおー!」と歓声が上がる。

続けてジャックも急降下。

クリス教官と同じく、見事に的へ模擬爆弾をヒットさせた。

その後、重力加速度9Gを受けながら急上昇。

そして高度3000mに到達したところで一連の動作が終了した。

「こんなのテツヤなら軽いものだろ?」と3000m上空から俺を見下ろしてジャック。

余裕をかまして笑っている。

俺は少しムッとしながら機体を上昇させ、クリス教官の指示を待つ。

シズコも俺と同じく高度3000mに向かって上昇している。

エディとキャサリンは1500mにとどまったまま、俺とシズコの動向を見守る事になる。

程なく高度3000mに到達し、クリス教官の訓練開始の合図が入る。

合図を受けてスラストレバーを全開にし、機体を反転させて急降下に入る。

高度計の数字が恐ろしい速さで減っていく。

マッハ1に到達したのを確認し目標を視認するが、上空から見る直径2mの目標は、まるで針穴くらいにしか見えない。

目を見開きながら高度1500mを通過した時点で模擬爆弾を投下。

と同時に操縦桿を思い切り引いて機体を上昇へと転じさせる。

模擬爆弾の着弾を確認できぬまま重力加速度9Gの世界に突入。

耐Gスーツが思い切り下半身を締め付ける感覚が伝わってくる。

9Gともなると脳への血液供給が滞り、最悪には意識を喪失してしまう。

その事を防ぐために、エンジンから発せられる抽出空気が耐Gスーツのいくつかの袋へ強制的に送り込まれる。

その圧力で下半身を締め上げて血液の降下を抑制し、脳への血液供給が滞らないようにするわけである。

「はい!ハズレ〜!」と言うジャックの声。

9Gの世界から抜け出す前に俺の欽ちゃん走りが確定した。

F-15はF-15Eと呼ばれる操縦と兵装システムの操作を分担して行う複座型の戦闘爆撃機仕様がある。

しかし俺のF-15Cは単座なので、その両方をひとりで賄わなければならない。

慣れない爆撃とはいえ、いきなりやらかしてしまったようである。

シズコも俺と同じく欽ちゃん走り確定となった。

エディとキャサリンも善戦虚しく今回は全員がバツゲームである。


「いよっ!シマタニ教官カッコいいよ〜!」

「シズコちゃんは可愛いな〜!」

などとヤジが飛ぶ中、俺とシズコは駐機場で欽ちゃん走りを始めた。

駐機場の端まで行って戻ってくると、およそ300mなので、欽ちゃん走りは一往復で終了である。

俺とシズコはどうせやるなら昨夜のように楽しくやろうと相談して、

「ワハハ!キャハハ!」と満面の笑みで欽ちゃん走りを楽しんでいる。

すると「早く私たちと代わって〜!」とキャサリンの叫び声。

スタート地点では同じバツゲームのエディとキャサリンが、手ぐすね引いて俺たちを待ち構えている。

程なくスタート地点に戻りエディ&キャサリンとバトンタッチしようとすると、

「たいちょー!もう一回走ろ!」とシズコ。

その言葉を受けて、今度は4人で欽ちゃん走りを始めた。

昨夜の出来事がよほど楽しかったのか、エディもキャサリンもノリノリ全開である。

そんな俺たちを見て、次々と欽ちゃん走りに参加する者たちが現れ始めた。

3往復目に差し掛かる頃にはパイロットのみならず、整備担当や地上勤務の者まで乱入して、欽ちゃん走りは一大カーニバルと化してしまった。

その後、爆撃訓練で失敗した者や、対戦訓練でクリス教官やジャックに撃墜された者たちが次々とやって来て、パイロットたちは欽ちゃん走りやルンルンスキップを思い切り謳歌している。

俺とシズコも今日は爆撃訓練が一回のみだったので、そんな者たちに混ざって「ゼェ〜ゼェ〜」「ハァ〜ハァ〜」と息を切らしながらも欽ちゃん走りやルンルンスキップを楽しんでいる。

バツゲームだったはずのルンルンスキップや欽ちゃん走りが、まるで人気アトラクションの様相を呈してきた。

それをやりたいが為に、わざと失敗したり撃墜されたりしているのではないか?という疑いも出始めてきた。

そんな中でもロナルドだけは冷めた目つきで俺たちを見ている。


「トップガンの風紀をこれ以上乱されては困りますなぁ」とジョンソン司令。

デスクに座り、俺とシズコに向かって腕組みをしている。

午後5時、ファロン基地の司令室。

俺とシズコに加えて、クリス教官とジャックまでもが呼び出された。

恐らくジョンソン司令はルンルンスキップや欽ちゃん走りの事を言っているのだろう。

俺とシズコはバツゲームにルンルンスキップと欽ちゃん走りを提案しただけなのに、なぜか事が大きくなりジョンソン司令は手を焼いているようである。

それもそのはず午後5時を過ぎた現時刻でも、駐機場では女装してルンルンスキップを楽しむ者や欽ちゃん走りをしている者など、黄昏時にも関わらず大騒ぎである。

俺は皆の結束が強くなりチームワークが良くなったと、わざとらしい言い訳をしてみたが、さすがにあれではいかがなものかと窓の外の大騒ぎを見てジョンソン司令。

確かに言われてみればそうである。

女装して欽ちゃん走りをしているパイロットを見つけたシズコが

「あれって、やり方間違ってるしー」と、どうでも良いツッコミ。

咳払いをするジョンソン司令に詫びを入れて俺たちは司令室を後にした。


翌日、午前10時。

今日は俺とシズコとロナルド&シュウの急降下爆撃訓練である。

まずは俺が高度3000mからの急降下で直径2mの的を狙う。

スラストレバーを全開にして機体をひるがえし急降下に入る。

体には逆Gがかかり目の前が赤く染まっていく。

通常のGは下半身に血液が溜まって脳内の血液が不足するため、視野がだんだん失われていくブラックアウトと言われる現象が起こる。

対して逆Gは体が下に引っ張られるために頭部へ大量の血液が送り込まれ、それゆえに目の中の毛細血管内にも大量の血液が流れて、レッドアウトと言われる周囲が赤く見える現象が起こるのである。

俺は高度計と的を交互に見ながら爆速で降下していく。

昨日の失敗を教訓に今回は的の少し上を狙おうと思う。

1500mまで下ったところで模擬爆弾を投下。

間髪入れずに操縦桿を手前に引き、機体を上昇に転じさせる。

逆Gが一瞬にして通常Gとなり、赤く染まっていた視界が一転して今度はグレーへと移り変わった。

次の瞬間「当たったー!」とシズコの声。

なんとか欽ちゃん走りは免れたが、欽ちゃん走りができず、少し残念な気持ちもある。

続いてシズコがチャレンジに入る。

1500m付近で見守る俺のそばを爆速でかすめながら模擬爆弾を投下。

その後は鋭い弧を描いて急上昇。

シズコの模擬爆弾も見事に的を貫いた。

「これで欽ちゃん走りはお預けか〜」と残念そうにシズコ。

俺の考えと同じ事を言っている。

続いてロナルドが爆撃訓練に入る。

俺とシズコが高度1500m付近で見守る中、ロナルドが高度3000mから急降下。

俺たちのいる高度より、更に下の高度で模擬爆弾を投下。

「危ない!!」と咄嗟に俺とシズコ。

ロナルドが指定高度を下回った為に、そばに切り立つ岩山にあわや激突しそうになった。

岩山をギリギリで回避してロナルドは急上昇。

それを見て「何をやっている!指定高度を守れ!」と俺は激怒。

9Gの最中で声が出ないのか、それともふてくされているのか、ロナルドからの返答はない。

しかも1500mを下回って模擬爆弾を投下したにも関わらず、的から数mズレての着弾となった。

「これで欽ちゃん走り確定〜」と嬉々としてシズコ。

それでもロナルドからの返答はない。

それどころか高度3000mをとっくに過ぎているにも関わらず、ロナルドは一向に下降する様子がない。

「ヤバい!Gロックだ!」と俺。

Gロックとは重力加速度9Gなどの大きな遠心加速度を受けて、脳内血液の不足する状態が長く続いて意識を失う現象の事である。

すかさず俺はアフターバーナーに点火してロナルドを追う。

「ロナルド!聞こえるか?!応答しろ!」と俺。

しかしロナルドからの返答は相変わらず無い。

Gロック確定である。

ロナルドはエンジン出力全開のまま意識が飛んでるらしく、高度は瞬く間に4000mに到達。

その後、操縦桿を無意識のまま倒したのか、機体が反転して今度は爆速で下降し始めた。

「ロナルド!起きろー!」と俺。

懸命に追いかけながらロナルドをロックオン。

警報で起きるかと思いきや、全くその兆候がない。

今度は接近してペイント弾を打ち込んでみるが、やはり意識が戻らないままである。

高度は2000mを切ってしまい、いよいよ墜落が現実味を帯びてきた。

だがロナルドを死なせるわけにはいかない。

俺はロナルドの下に回り込み、操縦桿を思い切り手前に引く。

「ガシーン!!」「バリ!バリ!バリ!」と鈍い音。

俺はロナルドの下から機体を当てて上昇を試みる。

しかしパワー不足で、このままではロナルドもろとも墜落である。

「たいちょー!そんな事したって無理だってー!」とシズコの叫び声。

俺はコクピットの左側にあるV-MAXと呼ばれる推力制限解除スイッチを操作してみる。

V-MAXとはアフターバーナー使用時にリミッターを一時的に解除する機能の事である。

しかし使用後は必ずエンジンの内視鏡検査が必要となるなど、通算使用時間も厳しく制限されており、6分間限定で推力を4%増強できる機能である。

「ズドン!」とV-MAXパワーが入る。

そのおかげで幾分下降率が緩和されてきた。

だが、このままでは地表に激突は、やはり避けられない状況である。

「もうダメか・・・」と思った次の瞬間、ロナルドの機体が俺の機体から離れて上昇へと転じた。

そしてロナルドを背負っていた俺の機体も軽くなり、機体は「ミシリ・・・」と鈍い音を立てながら上昇に転じ、間一髪、地表をかすめてギリで墜落を免れた。

「助かった・・・」と思わず俺。

上を見るとロナルドも何とか墜落は免れたようである。

俺の機体が上昇に転じたという事は、機体は何とか操縦機能だけは維持できているみたいである。

しかし頭上のキャノピーにヒビが入っているなど、機体はかなりのダメージを受けたはずである。

後を振り向いて機体の損傷を確認する。

主翼は左右とも健在で、水平尾翼も何とか機能しているようである。

そこへ「たいちょー!垂直尾翼が欠損してます!」とシズコ。

ビックリして垂直尾翼を確認すると、2枚ある垂直尾翼の片方がない。

なんと左側の垂直尾翼が欠落している。

だが1枚あれば機体の姿勢を何とか保つことはできるであろう。

基地に向かってゆっくりと旋回を始める。

そこへ「俺はいったい何をやってたんだ?」とロナルドの声。

気絶から覚醒して正気に戻ったようである。

俺が事情を説明しようとしたら、

「気絶して墜落しそうなあんたを、たいちょーが命懸けで助けたのよ!」と怒った声でシズコ。

続けて「あんたのせいでたいちょーの愛機がメチャクチャよ!」とシズコは絶叫。

ロナルドは俺の機体を確認したのか「どっ!どうも、すいませんでした・・・」といきなり低姿勢。

「すいませんでしたじゃ済まないわよ!」とシズコの怒りは収まらない。

俺はそんなシズコをなだめながら「怪我はないか?基地まで戻れるか?」とロナルドに聞いてみる。

「あっ!はい!大丈夫です」と問題なさそうな声でロナルド。

シュウにも帰投するよう指示を出していると、基地のジョンソン司令より無線が入る。

「何があったんだね?大丈夫かね?」と心配そうにジョンソン司令。

俺は今起きたトラブルを説明し、そして現在の状況を事細かく報告する。

それを聞いてジョンソン司令は「よくやってくれた、感謝する」と返答。

気をつけて戻ってくるようロナルドにも指示を出している。


何とかファロン基地が見えるところまで戻ってきた。

俺やロナルドが着陸に失敗して滑走路を塞ぐことになれば、それこそシズコやシュウが降りられなくなる。

なので先にシズコとシュウに着陸するよう指示を出す。

俺の機体は当たり前だが上部がボロボロで、ロナルドの機体は下部がボロボロである。

ロナルドにランディングギアを出すよう指示を出す。

しかし右の主脚が降りてこない。

再度ギアダウンの指示を出すが、やはり右の主脚は収まったままである。

恐らくランディングギアの格納カバーが損傷したのだろう。

そのことを管制に伝えると、しばし待てとの返答。

そして返答があったのは30秒後。

ロナルドの機体の症状を確認したいとの事で、滑走路を低空で通過してほしいとの事。

早速ロナルドは片足のまま、滑走路へ向けてアプローチに入る。

俺はロナルドの右側について並走する事にした。

滑走路のいちばん手前を見ると、何やらバイクに乗った人影が確認できる。

徐々に滑走路へと降下するロナルドと俺。

次の瞬間、バイクが猛スピードで俺たちと同じ方向へと走り出した。

そのバイクを追うようにロナルドと俺は滑走路へと侵入。

そこへ「もう少し高度を下げてくれ!」とジャックの声。

何とバイクを運転しているのはジャックのようである。

俺は何でそんな物があるのかと問い詰めようとしたが、今はそれどころではない。

何故ならば、そのような物があると知っていたら、わざわざジャックから原チャリを借りる必要がなかったと、それが一瞬脳内を通過したからである。

そのバイクがあれば映画の世界観をもっとリアルに体現できたはずであろう。

そんな事が頭の隅にこびりついて、この緊迫した状況に集中できなくなってきた。

そこへ「テツヤ!ロナルドにもっと細かく指示を出してくれ!」と言うジャックの声で我にかえる。

俺はロナルドの真横を飛びながら、「あと1m高度を落とせ」とロナルドに指示。

ジャックがロナルドの機体に近づいて、開かないランディングギアの格納カバーを確認している。

「ジャック!一旦上昇するぞ!」と俺。

滑走路の先がわずかになったきたのでジャックにその事を伝える。

「了解!」とジャック。

滑走路の先端でバイクは横滑りしながら停止した。

ロナルドと俺は再度上昇し、ジャックたちの指示を待つ。

3分後、「もう一度、同じ方向から滑走路に侵入してくれ」とジャックの声。

「了解!」と俺。

ロナルドと俺は並んで旋回し、再度アプローチに入る。

そして再び滑走路が近づいてくる。

滑走路のいちばん手前には相変わらずジャックのバイクが待機している。

しかし様子が少し変である。

ジャックの後部座席には何やら怪しい人影が見て取れる。

更に近づくと、後部座席には何やら工具を持った男がひとり、ジャックと共に俺たちを見ていた。

クリス教官である。

ジャックとクリス教官は俺たちの速度に合わてバイクを思い切り加速させていく。

そして徐々にロナルドの機体へと近づいていく。

クリス教官はあと50cm高度を下げるよう俺に要求。

俺は状況を確認しながらロナルドに細かく指示を出す。

その後クリス教官は何とバイクのステップで立ち上がり、ロナルドの機体のランディングギアカバーをハンマーで執拗に叩き始めた。

「クリス教官!もうすぐ滑走路の先端です!」と俺が伝えたその瞬間、ロナルドの機体から右の主脚がガクンと飛び出した。

「おおっ!」と思わず俺。

ジャックとクリス教官は滑走路の先端で急ブレーキで停止した。

ロナルドと俺は、またまた機体を上昇させる。

そして再度アプローチに入るため、再び旋回に入った。

「これで一旦ロナルドを着陸させる」とジャック。

俺は右の主脚がロックされているか心配だが、今はそんな事を言っている余裕はない。

主脚がロックされていなければ胴体着陸と同じになってしまうが、それはその時になって考えれば良い事である。

先の事ばかりを憂いて何もしないでいるのは、人生においても非常に損な事だと思う。

潔く決断するのは時には重要である。

ロナルドと俺は最後のアプローチに入る。

滑走路脇には消防車などの緊急車両の回転等が、けたたましく光っている。

ロナルドにランディングギア警告灯の状態を確認する。

「警告灯は消えてますので一応ギアはロックはされているかと」とロナルド。

通常の状態であればランディングギアを出し入れしている最中に警告灯は点灯し、その後、機体に収まったり、外に出て正常にロックされれば警告灯は消灯する仕組みである。

万が一の事も想定して注意を払うよう、ロナルドに伝える。

いよいよ滑走路に侵入する。

俺はロナルドの右側を飛びながら何故か息を潜め、ほぼ同じ高度を維持している。

着地まで5m・・・3m・・・1m・・・・

タイヤから白い煙が上がり右の主脚が着地した。

次の瞬間、着地の衝撃で一旦沈み込んだ主脚が見事に機体を押し上げた。

「やったー!」と思わず俺。

無事にロナルドが着陸した事を伝えると、無線の向こうではジャックとクリス教官の歓声がこだましている。

そして「よくやってくれた!シマタニ教官!ありがとう!」とジョンソン司令の声が割り込んできた。

ロナルドに無事かどうかの確認をとると

「ありがとうございます・・・大丈夫です」と涙声。

俺はそんなロナルドにつられて、ひとりウルウルしながら再び上昇旋回を経て、無事に地上へと降り立った。

駐機場に停止してキャノピーを開けると「うわー!!!」と大観衆から歓迎を受ける。

それこそ映画トップガンのエンディングである。

機体から降りた俺に向かってシズコが思い切り走り込んできて、ドスンとタックルするように抱きついてきた。

「うわ〜ん・・・たいちょーが死ぬかと思ったよ〜」と泣きながらシズコ。

俺はそんなシズコの頭を撫でながら「心配かけたな」と笑いながら労をねぎらった。

ナタリーも心配してくれてたみたいでハンカチで目を覆っている。

そこへ「ずいぶん派手に壊したなー」と俺の機体を見てジャック。

ニヤニヤしながら俺に近づいてくる。

俺はふとバイクの事を思い出し、

「あんなバイクがあるのに、何で原チャリしか貸してくれなかったんだよ!」とジャックに問い詰める。

するとジャックは「あのバイクはジョンソン司令の愛車だよ。緊急事態なので無理を言って貸してもらったんだ」と返答。

俺はジャックに擦り寄りながら

「俺にもあのバイクを貸してくれないかなぁ〜?」と頼んでみると、

「あれはカワサキNINJA 1000SXというマシンで、改造費も含めると300万円超えの代物だ。簡単に貸してもらえるはずないだろ!」とジャックは一喝。

それでも俺は引き下がらず

「そこを何とかさ〜・・・ウンコ漏らしたこと黙っててやるから・・・」とジャックを恐喝してみる。

それを聞いてジャックは急にうろたえる。

そこへ追い討ちをかけるように「黙っててあげるからさぁ〜」と上目遣いでシズコ。

ナタリーも「貸してくれなきゃ喋っちゃおうかな〜」と怪しい目つきでジャックを脅している。

その時後ろから「シマタニ教官、ありがとうございました」と言う声。

振り向くとジョンソン司令に付き添われたロナルドが、意気消沈した表情で俺に向かって頭を下げている。

俺は笑いながら「過去にも似たようなヤツがいたから、もう慣れっこだよ」とロナルドの肩を軽く叩いてやる。

その時、初めて会った頃のバージルを思い出していた。

そこへ「爆撃に失敗したから欽ちゃん走りだよ!」とシズコ。

ロナルドの手を引いて広い場所へと走っていく。

俺もつられてシズコの方へ走っていくと

「私も一緒にやるからやってみよ!」とシズコはロナルドの前で欽ちゃん走りを始めた。

照れながらもシズコと一緒に欽ちゃん走りを始めるロナルド。

だが、以前までの表情とは明らかに違う。

ふてくされた気持ちなど微塵もなく、心の底から楽しんでいるのが表情などから汲み取れる。

俺も張り切って欽ちゃん走りに参加する。

「手の振り方はこうだ!」とか「もっと軽快な足取りで!」などと、俺とシズコはロナルドにダメ出ししながら「ワハハ!」「キャハハ!」と満面の笑みで走っていく。

そんな俺たちに誘発されて、次々と参加する者たちが現れてきた。

ナタリーやキャサリン&エディ、そしてクリス教官までもが欽ちゃん走りの集団に加わってきた。

そして何と、あんなに欽ちゃん走りに難色を示していたジョンソン司令までもが俺たちと同じように走っている。

だが少し走り方がおぼつかないのでシズコが並走して笑いながら指導している。

そこへバイクに乗ったジャックが登場。

「お望み通り借りてきたぜ!」と俺に向かってジャック。

バイクにまたがったまま、ドヤ顔できめている。

俺はビックリして欽ちゃん走りをしているジョンソン司令に目を向けると、ジョンソン司令は笑いながら、ただ頷いている。

ジャックは「トップガンパイロットを救ってくれた、せめてものお礼だってさ!」と俺に向かって叫んでいる。

俺はジョンソン司令に軽く礼をした後、ジャックから魔改造のカワサキNINJA 1000SXを受け取る。

さすがに1,000cc超えのバイクは存在感もさることながら、またがった感じも威圧感があり、そのうえ異常にデカく感じる。

ギアをローに入れていざ滑走路へ向かおうとしたら

「私も乗せて!」とシズコの声。

「おう!乗れ乗れ!」と、ご機嫌の俺。

するとナタリーも乗りたいと言い出すわ、キャサリンやエディーまでもが乗せろと言い出すわで、結局ロナルドも入れて総勢5人が乗りたいと言い出してきた。

全員一緒に乗るのは無理だと言う俺の事などお構いなしに、みんな器用に肩を組んだり手をつないだりして、何とか俺を含めて6人がカワサキNINJA 1000SXに乗り込んだ。

そしてそのままの状態で、俺は滑走路へ向けて走り出した。

まるで中国雑技団である。

程なく滑走路の端に到着し、いよいよエンジン全開といきたいところだが、そんな事をしたら全員が吹き飛んでしまうと思う。

何故ならこのマシンの最高速度は時速300Kmとの事。

なので時速30Kmくらいでトコトコと走る事にする。

時速30Kmでも体に受ける風は非常に心地よい。

一人で時速300Kmを体験するより、みんなで時速30Kmを分かち合う方が、断然楽しく感じる。

みんなで「ワ〜!」やら「キャ〜!」などと騒ぎながらカワサキNINJA 1000SXは、時速30Kmで滑走路を疾走して行く。


翌日、午前10時 ファロン基地のハンガー。

俺のF-15が無惨な状態で佇んでいる。

左側の垂直尾翼は大半が欠落し、俺と生死を共にしてきた「おばQ」の片割れが、跡形も無く消え去っている。

機体上部には多くの傷が確認でき、キャノピーにひびが入っているわ、エアインテークがひん曲がってるわで、かなりの重症だ。

そんな「おばQ号」の前で落ち込んでいる俺に向かって

「シマタニ教官の愛機はトップガンが責任を持って修理しますから、ご心配なく」と言う声。

声のした方を振り向くと、ジョンソン司令が笑いながら立っていた。

隣にはクリス教官もいる。

クリス教官によると早速、空軍からエンジニアを派遣してもらうとの事。

F-15はアメリカ海軍では運用されていないので、ファロン基地にF-15のエンジニアはいない。

今いるのは俺たちのために空軍から短期で派遣された数人の整備士だけである。

俺はジョンソン司令たちの言葉に安堵し、俺の体の一部とも言える「おばQ号」の鼻先を撫でてやる。

と言うことで、派遣終了までの残り四日間は、ナタリーの「ベティちゃん号」を借りての訓練となった。

早速シズコと共に空へと上がる。

今回の訓練はミサイルを運用してのドッグファイトである。

実際にミサイルを撃つと、とんでもない事になるので、勝負の行方はレーダーロックされたら負けという単純明快な方法で決める。

実際にはロックオンされても撃墜されない事があるが、それを言い出したらキリがないのである。

今回はエディ&キャサリンペアとの対戦だ。

まずは軽くウォーミングアップがてら、エディ達が俺たちを狙いやすいようにポジションをとる。

そしてロックオンされる寸前に回避するという事を数回繰り返し、最後はシズコと共にエディとキャサリンを順次仕留めていく。

対戦訓練はおよそ15分で終了し、基地への帰投に入る。

「またルンルンスキップかぁ〜」とため息まじりのエディ。

キャサリンに至っては「何であそこで、あんな動きができるのかなぁ〜?」とぼやいている。

それからというものの、俺はベティ教官として恐れられ、ルンルンスキップ量産マシンと呼ばれてパイロットたちを恐怖に陥れた。

シズコも俺と同様無敗の成績で、そのルックスも相まって「シズコせんせー」と可愛がられて基地の人気をさらっていった。


トップガンへの派遣、最終日。

いよいよ今日はアメリカから日本への帰途となる。

一週間お世話になった家政婦さんや執事たちに礼を言って、借りていた一軒家を後にする。

そしてダニエル君やロバート&チャーリー達とも、ここでお別れとなり、ハワイ滞在中からお世話になったのを労い、俺は3人と固くお別れの握手を交わす。

対してシズコは「うわ〜ん!うわ〜ん!」と大泣きで、それをナタリーが優しく慰めている。

ファロン基地へと到着して司令室に入り、ジョンソン司令に向かってトップガンの教官を離任する旨を伝える。

当たり前だが離任は承諾され、その後ジョンソン司令より、ある事を頼まれた。

「これをジョージ・ワシントンのハワード提督へ届けてほしいのだが・・・」とジョンソン司令。

俺にある物を手渡す。

渡された物は一辺が10cmくらいの立方体を、ふたつ合わせたような直方体の箱である。

しかも異常に軽い。

ジョンソン司令いわく、箱には【取り扱い注意】と明記されているが、爆発物や毒物ではないので心配は無用との事。

現在ジョージ・ワシントンはハワイから日本に向かって航行しているので、帰り際に寄り道して届けて欲しいとジョンソン司令は平然とした顔で続ける。

まるで近所の子供にお使いを頼むような気軽さだ。

俺は「?マーク」が頭いっぱいになるも快く承諾し、F-15が格納されているハンガーへと向かう。

俺の「おばQ号」は見事に復活を果たし、垂直尾翼のおばQも完璧に再現されている。

見送りにきてくれたジョンソン司令やクリス教官、そしてジャックと最後の挨拶を交わし機体へと乗り込む。

シズコは相変わらずの大泣きで、ジャックが笑いながら手を焼いている。

ナタリーも搭乗したのを確認したので、シズコとナタリーに出発の合図を出すが、ふと不思議に思い、あたりを見回す。

トップガンパイロットが誰もいないのである。

訓練中ならともかく今の時間はまだ訓練前なので、誰かひとりくらい居ても不思議ではない。

そのような話をシズコとナタリーにしてみると

「厳しすぎて嫌われたのかなぁ〜?」とシズコ。

対してナタリーは「テツヤとシズコが強すぎたので、皆のプライドがガタ落ちになったんじゃない?」と勝手に推測。

俺は「皆によろしく伝えて下さい」とジョンソン司令らに頼み、ピカピカになったF-15を発進させる。

程なくして滑走路へと到着し、スラストレバーをいっぱいに倒しアフターバーナーに点火する。

機体はみるみる離陸速度に到達し、操縦桿を軽く引くと、俺の「おばQ号」はフワリと宙に浮いた。

いよいよトップガンとのお別れである。

一週間という短い間ではあったが、笑ったり、怒ったり、死にかけたりと、非常に波瀾万丈な日々であった。

後ろを振り返ると、俺の後ろを飛んでいるシズコとナタリーの間に見えるファロン基地が、ものすごい速さで遠ざかっていく。

「キャサリンやエディたちにお別れを言いたかったなぁ」とシズコ。

ナタリーも「パイロットってプライドが高いのか、意外と冷たいのね」と、つぶやいている。

そこへ「シズコせんせー!ありがとー!」と、急に無線からキャサリンの声。

ビックリして辺りを見回すがキャサリンの機体は見当たらない。

続けて「シマタニ教官!本当にお世話になりました!」とロナルドの声。

ロナルドの機体も全く見当たらない。

すると目の前へ突然、エディの機体が俺の真下から急に現れた。

「真下は死角ですよ!お気をつけて!」とエディ。

油断していたとはいえ、最後に一本取られたといった感じだ。

そんなエディに続いて、次から次へと俺たちの真下からF-18が湧き上がってくる。

その数は全部で12機。

トップガンパイロットが勢ぞろいである。

「シズコちゃんがいなくなると寂しいな〜」と、しんみりする者や

「ナタリー!今度デートして!」とナンパする者。

そして俺に向かっては「シマタニ教官!今度会った時は覚悟して下さいよ!」と恐喝する者など、皆からおびただしい程の別れの言葉が、バルカン砲のごとく撃ち込まれる。

それを聞いてシズコは再度大泣きになり、俺もそれにつられて少し涙ぐんでしまった。

ナタリーも鼻をすすりながら、皆の言葉に応えている。

俺は「機会があったら中野基地にも、ぜひ遊びにきてよね〜」と言うと

「信州そばが食べてみたい!」とか「居酒屋源さんで酎ハイが飲んでみたい!」など、俺たちの中野基地は世界的にも有名になってしまったようである。

「それでは帰路もお気をつけて!」とトップガンパイロットたち。

機体を右に傾け、俺たちから徐々に離れていった。


ファロン基地を飛び立ってから、もうそろそろ2時間というところで、サンディエゴのノースアイランド海軍航空基地が見えてきた。

ここに着陸するのは実に3回目である。

1回目はハワイからシズコを牽引しての着陸で、2回目は便を漏らしたジャックを見届けながらの着陸であった。

さすがに3回目は何事もないだろうと思っていたが、本当に何もなくて少し拍子抜けしてしまった。

平穏無事に着陸した俺たちは見慣れた誘導路を通り、そして見慣れた駐機場に機体を停止させた。

キャノピーを開けて機体から降りる。

出迎えてくれたのはゴキ2号のワトソン司令ではなく、シンディという名前の女性の副司令。

40代半ばと年齢を重ねてはいるが、ナタリーに及ぶ程の美貌の持ち主である。

察するに、可愛い系が好きなワトソン司令の好みではないと思われる。

「トップガンはどうでした?」と俺たちにシンディ副司令。

それに応えて「ボウリングが一番楽しかった!」とシズコ。

いきなり訳のわからない展開にシンディ副司令はキョトンとしている。

ナタリーは慌てて「対戦訓練の感想とか爆撃訓練で苦労した事など、そういう事を応えなきゃダメでしょ!」とシズコに一括。

まるで教師と保護者を交えた三者面談のようである。

俺はトップガンでの出来事を簡潔に説明し、非常に有意義な一週間だった事をシンディ副司令に伝える。

但し、ロナルドもろとも死にかけた事以外の話ではあるが・・・

ワトソン司令は現在、ノースアイランド海軍航空基地の近くにあるミラマー海軍基地での会議に出向いているとの事で、ワトソン司令とのお菓子パーティーを楽しみにしていたシズコはがっかりしている。

建物の中に案内され、F -15に燃料を給油させてもらっている間、シズコのお菓子を皆で摘みながら休憩する。

現在の時刻は午前11時少し前で、昼食を摂るには少し早い時間である。

これからのスケジュールは、このノースアイランド海軍航空基地を1時間後の午後12時頃に飛び立ち、その後ハワイのホノルルに向けて再度飛行する。

所要時間は6時間ほどで、往路の5時間30分より少し長くなるが、それは地球の自転による偏西風の流れに逆らっての飛行となるため、復路の方が時間がかかるのである。

サンディエゴとホノルルとの時差は2時間なので、ホノルル到着は現地時間の午後4時頃となる。

その後、ホノルルで一泊した後にジョージ・ワシントンを経由して、日本の中野基地へ戻るという段取りである。

「お菓子だけじゃ途中でお腹が空かないかなぁ?」と、コアラのマーチを食べながらシズコ。

「機内でお菓子か何かを食べながらいけば大丈夫よ」と、じゃがりこスティックを指で摘んでナタリー。

俺は「お菓子を食べ過ぎると夜のビールが不味くなるぞ!」と二人に言いながら、かっぱえびせんを思い切り頬張っている。

お菓子で、ある程度腹を満たしたところで給油完了の知らせが入ってきた。

シンディ副司令に礼を言って機体へと乗り込む。

俺は座席の後部に収めた【取り扱い注意】の届け物が壊れていないか確認し、再度入念に梱包をチェックしておく。

俺たちのF-15は予定より5分遅れの午後12時5分にノースアイランド海軍航空基地を飛び立った。

往路でトラブルに見舞われたシズコの燃料を再度確認し、太平洋へと機首を向ける。

ここからは再び景色がほとんど変わらない退屈な海原を、延々と6時間程飛ばなければならない。

シズコとナタリーは井戸端会議で時間を潰せるが、男ひとりの俺は退屈で仕方ない。

だが、往路のシズコ燃料が切れちゃった事件に比べれば何でもない事である。

しかし、そのような事を思い出したら少し不安になり急にドキドキしてきた。

緊急着陸することのできない大海原を、トラブルがないよう祈りながら俺たちは飛び続ける。

6時間が経とうとする頃にやっと遠くに島々が見えてきた。

再度訪問のハワイ諸島である。

左手に見えるハワイ島を横目で見ながら正面に見えるホノルルがあるオアフ島へと向かっていく。

シズコとナタリーは陸地との定期交信以外は切れ間なく、ずっとおしゃべりを続けていた。

恐るべし井戸端会議である。

話題は、最近買った服やらバッグなどの話題に始まって、流行りのカフェやレストランなどの話。

そして芸能人のゴシップ話や近々始まるバーゲンセールの話題など多岐に渡っていた。

ひとりポツンと聞いていた俺は、おかげで女子力が少し上がったような気がする。

ダイアモンドヘッドとワイキキビーチを左手の眼下に見ながらダニエル・K・イノウエ国際空港へ徐々に近づいていく。

空港の航空管制より26R滑走路への着陸が許可され、南国らしい色とりどりの民家の屋根の上空を通過して、無事に滑走路へと着陸。

誘導路に入る頃には、後に続いていたシズコとナタリーも無事に滑走路へと降り立ち、減速を終えていた。

26R滑走路からは旅客ターミナルを通る事なく、直接パールハーバー・ヒッカム統合基地にアクセスできる。

C-17輸送機の横を通り抜け、指定された駐機場所で機体を停止させエンジンをオフにする。

6時間以上回っていたエンジンが止まり機内が急に静かになった。

「お疲れさん・・・」と言いながらF-15の計器盤を撫でてやる。

キャノピーを開けて機体を降りるとマツモト司令が直々に出迎えてくれた。

「長旅、お疲れ様でした」とマツモト司令は丁寧な挨拶。

俺が丁寧な挨拶に恐縮していると

「今度、おたくの会社が長野県からホノルルへの直行便を就航させる事が決まったようですよ」とマツモト司令。

俺は何の事だかわからずキョトンとしていると

「中野基地からアナザースカイを使ってホノルルまで飛ぶって事じゃない?」とナタリー。

アナザースカイとは、俺たちの会社が保有しているジャンボジェット機の愛称である。

「それじゃあ、中野市からハワイへ気軽に遊びに行けるようになるんだ!」と嬉々としてシズコ。

俺はハワイ州知事との話を思い出し、血の気が猛烈に引いていくのを思い切り感じた後、「お電話をお借りできますか?」とマツモト司令にお願いして、建物の方へ思い切り走り出した。


「おう!テツヤか!トップガンはどうだった?」と、電話の向こうでゴキ。

相変わらずの能天気である。

俺は「長野県からホノルルへの直行便って何の事ですか?!」と慌てて聞くも

「あ〜・・・その事か・・・」とゴキは全く動揺する気配はない。

聞くところによると、地元の旅行業者と提携して、現在ハワイツアーを企画中との事。

長野県側の発着地は中野基地で、新たに就航するハワイ路線のダイヤおよび運賃を、先ほど国土交通省に申請したとの事。

したがって中野基地は明日から、ジャンボジェット機が離着陸できるように改修工事を行うという。

俺は慌てて「200mしかない滑走路ではジャンボジェット機の離着陸は無理だって!」と当然の如く指摘するも

「タナカさんが改修工事の陣頭指揮をとるから大丈夫だ!」と自信満々のゴキ。

俺はますます不安になってきた。

その後「ジャンボジェット機の中野基地への初飛行はお前に頼んだぞ!」とゴキは一方的に言い残し、電話は無情にもプツリと切れた。

俺は中野基地へ帰るのが、猛烈に億劫になってきた。


「今度、お母さんと一緒にハワイへ来よっかな〜」と薄ピンクのサマードレスに着替えてシズコ。

俺の話を聞いて、早速旅行プランを練っている。

ハイビスカスをあしらったハワイのムームーに着替えたナタリーが

「直行便なので時短になるし、しかも社員割引してもらえば格安でハワイ旅行が楽しめるわね!」と、あたかも中野基地からホノルルへの直行便が実現したかのような言い回しをしている。

俺は「中野基地が民間の国際空港も兼ねるとなると、旅客ターミナルなどの施設も必要になるし、税関だって設置しないといけないんだぞ!」と舞い上がっている二人に釘をさす。

そこへハワイ州知事が、満面の笑顔で俺たちに向かって駆け寄ってきた。

タイミングとしては最悪である。

州知事は俺の手を取り「シマタニ隊長!ご尽力ありがとうございます!」と、感激のあまり、声を枯らして半分涙目である。

俺は尽力などした覚えが一切ないので一瞬戸惑ったが、州知事の、この上ない喜びの表情に言葉を失い、愛想笑いをするのが精一杯である。

「いっぱい遊びに来るね!」と州知事に向かって歯を剥き出しにして笑いながらシズコ。

「この際、週7便運行にして荒稼ぎしてみたら?」とナタリーは余計なひと言。

州知事は「更なるご尽力を賜りますよう、お願いいたします!」と言いながら、ザリガニが後退していくが如く、両腕を広げたままバックして、俺たちの前から姿を消していった。


「たいちょー!お腹すいたー!」とシズコ。

時刻は午後5時を回っている。

俺たち3人は朝食以降、お菓子をつまむ程度の食事しか摂っていない。

なので、シズコのひと言で俺は空腹になっている事に今、気がついた。

気がつかなかったのは今後、俺に降りかかって来るであろうジャンボジェットがらみの事を、いろいろと考えていたからである。

「私、ポキが食べてみたい!」と唐突にシズコ。

ポキとはハワイではメジャーな食べ物で、魚介の刺身を小さく切って、しょうゆベースのタレや香味野菜で和えた料理の事である。

日本でいう漬けまぐろのような食べ物だ。

俺は刺身には目がないので、シズコの言葉を聞いて「おお!いいなあ!」と思わず身を乗り出す。

対してナタリーは生魚が苦手なのか「ステーキにしない?」と俺たちに提案。

俺は刺身もステーキも大好物なので、その場で言葉に詰まってしまった。

そこへ「サンセット・ディナークルーズでもいかがですか?」と、俺たちの前にひとりの男性。

聞くと男性はハワイ州の職員との事。

長野県からホノルルへの就航を記念して州知事が俺たちを招待したいという。

「ディナークルーズだからビュッフェで色々な料理が楽しめるんじゃない?」とナタリー。

タイミングとしてはバッチリである。

早速お言葉に甘える事にして、迎えにきた車へと乗り込む。

今回のディナークルーズはドレスコードが必要ないとの事なので、俺は州知事からもらった【ALOHA】とロゴの描かれたダサいTシャツと白のサーフパンツ姿で車のシートに滑り込んだ。

10分程でアロハタワーの港に到着。

港には大型のクルーズ船が停泊している。

すでに他のお客たちは乗船済みらしく、俺たちが乗船したら、すぐに出港との事。

急いで船に乗り込むと、程なくしてクルーズ船は岸壁を離れ始めた。

俺たちは船の最上デッキに駆け上がり、周りの景色を楽しむ事にする。

そこへおもむろに州知事が登場。

俺たちの首にそれぞれ手作りのレイをかけてくれた。

先ほど州知事に対して少しぞんざいに扱った事を、俺は申し訳なく思った。

そこへ「あれってクジラじゃない?」と、突然シズコの声。

シズコが指を差した方を見ると、クジラらしき生き物が海面から潮を吹き出している。

「タイミングが良いと、このようなホエールウォッチングもできるんですよ!」と自慢げに州知事。

それを聞いて唐突に「あのクジラ美味しそ〜!」と急にシズコ。

潮を吹いているクジラを見ながら「クジラステーキって、美味しいよね!」とか「クジラの大和煮は最高なんだよね〜!」などと、動物愛護団体が聞いたら発狂しそうなセリフを平然と口ずさんでいる。

俺は慌ててシズコの口を手で押さえて、州知事に向かってわざとらしい愛想笑いをする。

その後、絵に描いたような見事な夕焼けの空を堪能した後は、お待ちかねのディナーである。

しかし今回はビッフェではなく、最上級のコース料理との事。

俺たちは事前に好みの料理を聞かれていたので、俺のリクエストである丸ごとロブスターが出てくるわ、シズコのリクエストのアボカド添えのポキが出てくるわで、俺とシズコは大騒ぎである。

ナタリーのリクエストである赤ワインのソースが添えられたテンダーロインステーキも出され、シズコは「お正月とクリスマスと誕生日が、全部一緒に来たみたい!」と、訳のわからない事を言っている。

食事が始まると同時にレストランに設けられたステージではディナーショーが始まった。

心地良いジャズを聴きながら、俺たちはトップガンの思い出話に花を咲かせる。

タカシやヨシミツ、そしてバージルやゴキの話になって、非日常から日常へと引き戻されたところで食事は終了し、食後のデザートが出される。

ディナーショーはジャズの演奏からポリネシアンダンスのステージへと切り替わった。

いわゆる女性が腰をフリフリする、ハワイの代名詞とも言えるダンスである。

そんなダンスをマンゴームースケーキを食べながら最前列で見ていると、「カモン!ミスターアロハ!」と俺を見てひとりの女性ダンサー。

シズコが「たいちょーの事を呼んでるよ!」と言いながら、俺のTシャツにプリントされている【ALOHA】のロゴを指さしている。

俺は手を横に振って懸命に断るも、無理やり両手を掴まれてステージへと上げられてしまった。

女性ダンサーの間に挟まれて仕方なく腰を振ってみるが、当然のごとく上手いわけがない。

シズコはそんな俺を見て、手を叩いて大笑いである。

見かねたナタリーがステージに上がり、俺の横でポリネシアンダンスを踊り始めた。

ナタリーは元ダンサーなので、元々ポリネシアンダンスが上手いのか、それとも阿波踊りのように少し見ただけで完コピできるのか詳細はわからないが、腰の振り方が絶妙でプロも顔負けである。

そんなナタリーはシズコも手招きしてステージに呼び寄せ、二人で俺を挟んでポリネシアンダンス特有の奇声を上げながら踊り始めた。

美形のナタリーと可愛い系のシズコが並んで踊っているとなれば、会場の男衆が黙って傍観しているはずもなく、次々とステージに乱入してきて俺は後方へと押しやられてしまった。

その後、会場は一大アトラクションと化し、馬鹿騒ぎをしながら船上の夜は更けていった。


翌日、午前9時。

パールハーバー・ヒッカム統合基地にある休憩室のような部屋。

俺とシズコとナタリーは出発前に少し水分を補給するため、ジュースなどを飲みながら寛いでいる。

今日の予定は1時間後の午前10時にホノルルを飛び立ち、その後ジョージ・ワシントンを経由してから中野基地へ帰還するというスケジュールである。

フライト時間は合計7時間と少々で、ジョージ・ワシントンに1時間滞在したと仮定して中野基地に降り立つのは日本時間の午後3時頃の予定だ。

しかも日付変更線を通過するので到着日付は翌日となってしまう。

そのため丸ごと1日を損をする事になる。

往路では1日得したので、これでプラスマイナスゼロなのである。

ジョージ・ワシントンの現在位置は機密事項なので、今回はアメリカ海軍パイロットであるナタリーのナビゲートで飛行する事となる。

「わざわざたいちょーに届けさせるなんて、よっぽど大事な物なんだろうね」と、ジョンソン司令から託された届け物を引き合いに出してシズコ。

俺は届け物に心当たりはあるのかとナタリーに聞いてみるが、当のナタリーも全くわからないとの事。

「取り扱い注意の割には異常に軽いから、空気で膨らませた風船でも入っているんじゃない?」とシズコは適当な事を言っている。

午前10時前となりF-15が収められているハンガーへと向かう。

増槽タンクを3基ぶら下げたF-15を入念に点検する。

今回はジョージ・ワシントンで給油できるので空中給油の必要はない。

しかも1時間の休憩付きなので、往路よりも快適な空の旅が楽しめるはずである。

マツモト司令たちに見送られて滑走路へと向かう。

南国ハワイの空は今日も快晴だ。

東から西へと吹き抜ける貿易風が椰子の葉を揺らしている。

俺たちは8R滑走路から離陸して一路ジョージ・ワシントンへと進路をとった。

今回はナタリーに続いて俺とシズコが編隊を組む。

ナタリーの話では3時間ほどでジョージ・ワシントンと合流するとの事。

3機揃って、巡航高度へと上昇していく。

「昨夜のたいちょーのダンス、超面白かったよね〜」と突然シズコ。

「タコが感電してるみたいだったしー」と大笑いである。

それを聞いて「あっ!それ私も思ってたー!」とナタリー。

ふたりで「キャハハ!あはは!」と大盛り上がりだ。

それを聞いて俺は思わず「ムカっ!」と腹が立ち、二人にバルカン砲を撃ち込んでやろうとしたが、さすがにそれは大人気ないので何とか思いとどまった。

その後しばらくの間、二人の話は俺の失敗話などで持ち切りとなり、さらし首状態の俺はナタリーの機影を見ながら大海原を飛んでいく。

ホノルルを離陸してからもうすぐ3時間が経とうとする頃「見えてきたわよ!」と急にナタリー。

遠くに目をこらすと白い航跡を引いている数隻の船が確認できる。

ジョージ・ワシントンを中心とした空母打撃群だ。

日本の総理大臣を護衛した時以来に見る光景である。

ナタリーがジョージ・ワシントンの航空管制にコンタクトをとる。

即座に着艦が許可されて、空母に着艦する意志を伝えるためと、着艦デッキがクリアな事を確認するために、あらかじめ俺たちはジョージ・ワシントンの右側を高度250mで追い抜いていく。

そして空母を巻くように左側から360度旋回し、再び空母の後方に着けて最終アプローチに入った。

ナタリーはF-15での着艦が初めてなので、先に俺かシズコどちらかの着艦を見てみたいとの事。

なので俺が先に着艦する事にする。

ランディングギアと着艦フックを降ろしたのち、速度を時速320Kmまで落として毎秒10mの降下率で降下しながらジョージ・ワシントンへと近づいていく。

シズコとナタリーは再度空母を追い抜くため、俺の右側を飛んでいる。

着艦デッキが近づき、デッキクルーの姿も確認できる。

速度を時速250Kmまで落とし、3本あるアレスティングワイヤーの位置を確認した後、着艦デッキにランディングギアを落とし込んだ。

それと同時にエンジン出力をアフターバーナー寸前まで引き上げる。

何故ならば、3本あるどのワイヤーにも着艦フックが引っかからなかった場合に、再度上昇する必要があるからである。

俺のF-15は見事にワイヤーを捕らえて急停止。

それと同時にエンジン出力をアイドル状態まで引き下げる。

グランドクルーに従って機体を移動させ、指定された場所に機体を停めると、久しぶりのサミーが白い歯を剥き出しにして笑っているのが目に止まる。

キャノピーを開けると同時に「あんたは相変わらず凄い活躍だな!」とサミー。

機体から降りてサミーとがっちり握手する。

お互い抱き合って再会を喜んでいると、無事に空母へ降り立ったシズコが猛烈な勢いでこちらへと走ってくる。

そして、そのままの勢いでサミーにぶつかって抱きつくシズコ。

巨漢のサミーに小柄なシズコが抱きつくと、まるでトトロにしがみついたメイちゃんみたいである。

「サミー!久しぶり!」とシズコは満面の笑み。

傍らではナタリーが、久しぶりの同僚らと再会を喜んでいる。

そこへ「提督がお呼びなので、艦長室まで御足労いただけないでしょうか?」と丁寧な挨拶。

提督とはハワード提督の事である。

声のした方を見ると、上級士官だと思われる40歳くらいの男性が立っていた。

俺は【取り扱い注意】の届け物を携えて、シズコとナタリー共々男性に案内されながら艦長室へと向かう。

迷路のような艦内を歩いて5分ほどで艦長室の前に到着。

男性がドアをノックをすると「どうぞ!」とハワード提督の声が返ってきた。

ドアを開けられ中へと入る。

部屋の奥にあるデスクからハワード提督が立ち上がって、俺たちに笑顔を向ける。

するとシズコが突然「かんちょー!」と言いながら小走りでハワード提督へと走り出す。

以前はハワード提督の事をハワード艦長と呼んでいたので、その名残りだろう。

しかも相変わらずシズコの発音は、便秘に使う薬と同じ言い回しで俺とナタリーは苦笑い。

だが、シズコに抱きつかれたハワード提督は満面の笑みである。

俺は、おかえりなさい作戦でお世話になったお礼を言った後、ワトソン司令より託された届け物をハワード提督に手渡す。

「おおっ!これだ!これを待っていたんだ!」とハワード提督。

【取り扱い注意】と書かれた箱を無造作に開け始める。

取り扱い注意の割には扱いが雑なので、俺はヒヤヒヤしながら見ていると、なんと箱から出てきたのはアンパンマンのぬいぐるみである。

しかもクレーンゲームで獲ったような安物だ。

どうりで軽かったはずである。

トップガンから後生大事に運んできた俺が唖然としていると、横から「2歳児かよ・・・」と小声で突っ込むナタリー。

俺は上官に向かって悪態をつくナタリーに慌てていると、

「この届け物は単に名目でな」とハワード提督。

「実は君たちに会わせたい人がいるんだ」と俺たちに続ける。

ハワード提督が部屋の奥に目配せすると、ひとりの男が暗がりからヌッと姿を現した。

見覚えのあるオールバックの頭に俺たちと同じ赤のフライトスーツ。

現れたのは何とタカシである。

俺は「お前、ここで何やってんの?」と慌てて言うと、「久しぶりに会った割には随分な挨拶だな」とタカシ。

シズコとナタリーも「えっ?何で?何で?」やら「もう、訳がわからなくなってきた・・・」などと大慌てである。

そんな俺たちの前に再び赤のフライトスーツ男が現れた。

「隊長!どうも!」と、その男。

今度はヨシミツの登場である。

ビックリしすぎて声が出なくなった俺たちに「実はトップガンとは別に、お二人をこの艦に招待したんだよ」とハワード提督。

「こちらにはバージルに案内させたんだ」とビックリしている俺たちに続ける。

すると奥からバージルが登場。

「ども!」と額に手をやり敬礼のポーズである。

「わぁ〜!」と、そんなタカシ達を見てシズコは目を丸くする。

久しぶりに6人揃って嬉しいのだろう。

俺もまんざらではなく「スーパーの仕事は大丈夫なのかよ?!」とタカシたちに悪態を突いてやる。

結局、今日中に中野基地へ帰る必要はなくなり、ジョージ・ワシントンに一泊してから、のんびりと6人で日本へ帰る事と相なった。


「おい!あのデカい男は一体何者なんだ?」とタカシ。

シズコと戯れあっているサミーを見ながら俺に聞いてくる。

俺は総理大臣の護衛の際に立ち寄った時、世話になった男だとタカシに説明する。

そんなサミーにタカシとヨシミツを紹介する。

「あんたらがテツヤの友達か!」「よろしくな!」「わーはっはっは!」とサミーは豪快な笑い。

190cm超えの巨漢に加えてジェットエンジン並みのデカい声に、タカシとヨシミツは圧倒されている。

シズコにジャングルジムのように登られているサミーに向かってバージルが何やら手渡す。

聞くとキットカットの抹茶味との事。

アメリカ人に人気が高い割には国内では手に入りにくいようで、チョコレート好きのサミーのために、わざわざ日本で調達したらしい。

バージルは例の事件以降、サミーには一目置いているようである。


夕刻になり、俺とタカシが寝泊まりする部屋のドアがノックされる。

ドアを開けるとそこにはシズコとナタリーに加えてヨシミツ&バージルが勢揃いである。

今回の部屋の割り振りはグアムの時と同様、俺とタカシが相部屋で、当然の如くシズコとナタリーが相部屋。

そしてヨシミツとバージルが相部屋という内訳だ。

すると突然「たいちょー!お腹空いた!」と怒った顔でシズコ。

よく考えたら俺とシズコとナタリーは昼食抜きである。

ジョージ・ワシントンに着艦してから色々あり過ぎて、結局何も食べずにこんな時間になってしまった。

タカシたちは昨日に到着したらしく、昨夜は大食堂でたらふくご馳走を食べたとの事。

ヨシミツはシュラスコが美味かったとドヤ顔である。

俺たちの服装は、俺がプルオーバーのパーカーにジーンズというスタイルで、タカシは光沢のある黒のスラックスに白のハイネック&赤のカーディガンという相変わらずのヤンキースタイル。

そしてヨシミツはオリーブグリーンのTシャツに迷彩柄のパンツで、シズコはフリルのブラウスにフレアスカートといった、いでたちである。

かたやバージルとナタリーはさすがに艦内ではカーキ色の制服を着ている。

私服のスタイルが、てんでバラバラの俺たちは艦内では注目の的である。

中には二度見や三度見する者までいる。

そんな視線を掻い潜りながらバージルとナタリーの案内で、俺たちは大食堂へと辿り着いた。

ドアを開けるとムッとした熱気に加えて、食欲をそそる匂いがあたりに充満している。

大食堂には100人以上はいるであろうか。

海軍の制服を着た乗組員が、みんな思い思いの席で食事を楽しんでいる。

そんな中での俺たちは、服装からして完全に浮いており、まるで社会見学に来た学生のようである。

そのような事などお構いなしに早速俺たちは列へと並び、トレイ片手に好みのメニューを次々と選んでいく。

メニューは調理担当の乗組員に配膳してもらう物や、自身でトレーに盛り付ける物など多種多様である。

品数も豊富で、肉や魚はもちろんサラダやスープ、そしてデザートまでもが非常に充実している。

俺が牛ステーキを盛り付けてもらっていると、すぐ横ではヨシミツが昨日食べたシュラスコを切り分けてもらっている。

「それって昨日食べたんだろ」と、ヨシミツに向かって俺。

ヨシミツは「これ結構美味いんでハマったんですよ」と笑いながら応えている。

ヨシミツは一旦ハマると取り返しがつかないくらいにハマってしまう。

以前は、すき家の期間限定メニューであるタコライスにハマって、期間限定が終了するまで毎日すき家に通い詰めた経緯がある。

俺はそんなヨシミツのお勧めで、牛ステーキに加えてシュラスコもトレイに盛り付けてもらった。

適当に空いた席を陣取り、俺たちは勝手気ままに食事をし始める。

「よくそんなに食べられるよね〜」と俺のトレイを見てシズコ。

俺のトレイには前菜のサラダから始まってメインディッシュの牛ステーキとシュラスコ。

そしてパンとスープにデザートのババロアまで乗せてある。

すると突然後ろから「テツヤさんのトレイはまるで宇宙ですね!」と言う声。

振り向くと瓶ビールとグラスを手に持ったバージルが、何故か笑いながら立っていた。

「前菜からデザートまでが渾然一体となってトレイの上で調和していますよね!」とバージル。

「これはまさしく宇宙です!」と俺のトレイを見て大絶賛。

俺はバージルの頭が少しおかしくなったのかと思って心配したが、ナタリーの話だと俺に相当気を使っているらしい。

俺にグラスを手渡しビールを注いでいるバージルに向かって、「そんなに気を使わなくていいんだぞ」と俺。

「でも、初めてこのジョージ・ワシントンでお目にかかった時に、私は大変失礼な事をしましたので・・・」とバージル。

俺は「気を使われると、逆にこちらも気を使うから困るんだよな〜」と言った後に「そんなに気を使うんだったらアメリカ海軍にとっとと帰ってもらうからな」とバージルに釘を挿す。

「そっ!そんな〜!テツヤさんの下で、ずっと働かせてくださいよ〜!」とバージルは半泣き。

社交辞令でも、そんな事を言ってくれるのは非常に嬉しい。

なので「帰れってのは冗談だよ!」と笑いながら俺。

バージルの胸に軽くパンチをしてやる。

「タカシ達も、お前を大事な仲間だと思っているんだ。これからもよろしくな!」と言いながら俺は注がれたビールを一気に飲み干した。

バージルは顔をクシャクシャにして笑いながら俺のグラスにビールを継ぎ足す。

そんなバージルに目には、かすかに涙が光っているように見えた。

バージルに注がれた、おかわりのビールを飲んでいると

「オレンジジュースを飲みながら、よく食事ができますね」と、ヨシミツの声。

見るとヨシミツがオレンジジュース片手にパンをかじっているタカシに首を傾げている。

タカシの正面からは「まるで小学生みたい」と笑いながらナタリー。

今日のナタリーは、突っ込みが冴え渡っている。

そんなタカシは酒を一切飲まない。

と言うか、全く飲めない。

以前に無理やりビール1杯を飲ませたら、即座にぶっ倒れて大変な事になった。

タナカさんが慌ててAEDを探しに行ったほどである。

パンをオレンジジュースで流し込みながら「食パンにマーマレード塗って食べるのと同じ事だろ」とタカシ。

言われてみれば、その通りである。

しかしおにぎりをコーラで流し込んだりするタカシの食事センスは、今だに理解し難い。

そこへハワード提督が登場。

何の前触れもなくいきなり現れたので、俺は少しビックリした。

日本では偉い人が急に現れると、一瞬その場が静かになるが、この艦内にはそんな事は微塵のかけらもないようである。

みんなハワード提督にへつらう事なく、好き勝手に食事を楽しんでいる。

そこへ「かんちょー!これ食べる?」とベビーカステラみたいな物を手に取りシズコ。

ハワード提督の好みなど全く無視して勝手に勧めている。

シズコのトレイは大半がデザートだ。

そんなシズコのお勧めを嫌な顔ひとつせず受け取り、ハワード提督は旨そうに頬張る。

そして「今回君たちにここへ集まってもらったのは他でもない」とベビーカステラをモゴモゴ食べながら提督。

バージルから差し出された水をゴクリと飲んだ後、「君たちの操縦テクニックを、このジョージ・ワシントンのパイロット達に披露して欲しいんだ」とハワード提督は続ける。

「スピンネーカーの落下軌道を変えてしまった君たちを、みんな楽しみに待っていたんだよ」とシズコから、おかわりのベビーカステラをもらいながら提督。

そこへ「じゃあ、私とバージルは単なる案内役で?」とサラダをつまみながらナタリー。

ナタリーのトレイは大半が野菜である。

そんなナタリーとバージルに向かって「お前たちの活躍も見事だったぞ!」と声を大きくして提督。

「お前たちは我がアメリカ海軍の誇りだ」と、目を大きく見開いて続ける。

それを聞いたナタリーとバージルは嬉しそうな顔。

肉だらけのトレイをしんみりとした表情でバージルはつついている。

結局俺たちは凄腕パイロット集団という名目で、ハワード提督から特別招待されたようである。

そしてその技量を披露するために、俺たちを2チームに分けて対戦訓練を見せて欲しいとの事。

俺は快く了承し、その後ハワード提督はシズコからもう一個ベビーカステラをもらって、この場を去っていった。

その後は中野基地にジャンボジェット機を離着陸させる話になって、俺たちは食事を忘れて大騒ぎになった。


「ジャンケン、ポン!」と一斉に掛け声。

ジョージ・ワシントンに到着翌日の朝、俺たち6人は対戦訓練のチーム分けをするために、機体格納スペースで壮絶なジャンケンバトルを繰り広げている。

だが、なかなか勝敗が決まらず「あいこでしょ!」を連発する俺たちに、周囲の目は困惑している。

結局、12回目の「あいこでしょ!」で勝負が決まった。

「わ〜い!勝った!勝った〜!」とジャンケンで勝っただけで喜ぶヨシミツ。

結果、俺とヨシミツとナタリーがパーを出して同じチームとなり、グーを出したタカシとシズコとバージルが同じチームに収まった。

早速、対戦訓練をするために、以前ジョージ・ワシントンでバージル達と戦った時に使用したペイント弾をF-15に装填してもらう。

今回ミサイルは不使用で、本当の操縦技量が試されるバルカン砲のみでの対戦訓練となる。

ペイント弾と燃料などの準備が整った機体より順次、巨大なエレベーターを使って甲板へと上げられていく。

タカシのペーター号に続いて、俺のおばQ号も甲板へと上げられた。

飛行甲板上には甲板員や航空機がせわしなく動き回り、皆が少しの無駄もなく効率的に作業をしている。

そこへ「二日酔いは大丈夫かい?」と言う声。

見ると昨夜一緒に酒を飲んで馬鹿騒ぎしたサミーが、笑いながら俺に話しかける。

サミーは航空機の離陸担当で、今日は俺の発艦をサポートしてくれるらしい。

そんなサミーの酒豪ぶりは圧巻で、ビールをビヤ樽一本くらい空けたくらいの勢いで飲んだのだが、今朝は平然とした顔でケロリとしている。

そのサミーの案内でカタパルトへと向かう。

今回、俺が使用するカタパルトは艦首の右側に位置するカタパルトで、タカシは左側のカタパルトを使用する。

そして甲板左側面にあるカタパルトからはシズコが発艦する手筈となっている。

発艦順序はタカシが一番手で、その次に俺、その後にシズコという順である。

俺たち3人が射出された後はヨシミツとバージル&ナタリーが、それぞれ順次発艦していく。

サミーの指示でカタパルトのセンターに機体を合わせた後、少しずつ前へと進み、そしてストップの合図。

すかさずマーシャラーたちが機体の下へと潜り込み、カタパルトを装着していく。

左のカタパルトからは今まさにタカシが射出されようとしている。

そして「Go!」の合図。

間髪入れずにタカシが射出されて大空に舞い上がった。

タカシを見届けてから右を見ると、サミーがエンジン出力を上げろと合図している。

俺はスラストレバーを全開にしてアフターバーナーに点火した。

轟音と共に機体が前へ出ようとするが、カタパルトがそれを懸命に抑えている。

そしてサミーが「Go!」の合図。

すかさず機体が急加速しカタパルトから離脱。

操縦桿を軽く引いて空母から離れていく。

射出される際にはカタパルトが動き出す瞬間と、そしてカタパルトから離れる瞬間の合計2回、衝撃が走る。

そしておよそ3Gの重力加速度が体全体にのしかかるのである。

このような過酷な条件にジャンボジェット機の乗客は耐えられるのか?などという事を、こんな時にも考えてしまっている。

シズコも無事に発艦して、俺の後を飛んでいる。

その後、ヨシミツとバージル&ナタリーが発艦したのを確認し、俺たち6機は全機空へと出揃い、訓練空域へと向かう。

「負けた方が何かをご馳走するってのはどうだ?」と急にタカシ。

トップガンでは負けた方がバツゲームであったが、何かをご馳走するとは食通のタカシらしい案である。

そこへ「私、プランタンのフレンチがいい!」と割り込むシズコ。

俺も負けじと「三河屋の刺身定食がいいなあ」と提案。

するとヨシミツが「この際、もっと高級な物にしましょうよ!」とデカい声。

何が良いのかヨシミツに聞いてみると、ガストのサーロインステーキが食べたいとの事。

ヨシミツにとってのガストは最高級なレストランなのである。

そしてバージルとナタリーは共に美味しいイタリアンが食べたいと言う。

結局タカシのお勧めで、中野市では高級寿司店である宝寿司での食べ放題で一同手打ちと相成った。

訓練空域へと到達し、対戦訓練スタートのカウントダウンに入る。

俺とヨシミツとナタリーは西側空域へと回り込み、タカシとシズコ、そしてバージルを正面から迎え撃つ事にする。

「開始10秒前!」と俺。

「3・・・ 2・・・ 1・・・ Go!」の合図で対戦訓練がスタート。

全機一斉に戦闘モードへと突入する。

と、その時「緊急事態だ!」とジョージ・ワシントンからの無線。

今度は全機一斉に?マークとなり、戦闘モードが即座に一時停止となる。

無線からは「我が艦西側方面の距離500Kmに国籍不明機を確認した」と緊迫した声。

「高度は約5000mで、こちらに向かって高速で飛行している」とジョージ・ワシントンからの無線は続ける。

すかさず「全機、帰投するぞ!」と俺。

何故ならば俺たちはペイント弾しか装填しておらず、簡単に言えば全機丸腰だからである。

そこへ「スカイウォーカーダイジュ!国籍不明機の確認をお願いしたいのだが・・・」とハワード提督から無線。

俺は慌てて「非武装の俺たちに一体どうしろと?!」と猛烈に困惑する。

聞くとジョージ・ワシントンにある4本のカタパルトが全て故障して、航空機が発艦できないとの事。

現在空に上がっているのは俺たち6機と対戦訓練を撮影するために同行した3機のヘリコプターだけらしい。

ジョージ・ワシントンに脅威が及ぶと俺たちも相当ヤバい事になると思うので、タカシと相談して渋々引き受ける事にする。

俺たちは散開して西側方面の偵察へと向かう。

「何か嫌な予感がするなあ・・・」とタカシ。

だが俺は、今回は不思議とタカシとは反対意見である。

何故ならば今までの経験からすると、このようなシチュエーションでは何ら脅威ではなかった場合が多いからである。

以前、日本からジョージ・ワシントンへ向かう時にジャックとナタリーを敵だと思い込んでいたり、エンマコオロギ作戦ではテックちゃんとメンちゃんを敵だと勘違いした。

多分、今回もそんな事だろうと楽観視していると、俺たちのレーダーにも機影が飛び込んできた。

こちらとの距離は約140Kmで、機影からすると相手は1機のようである。

「1機だけなら少し脅せば撤退するかもしれないですね。こちらは6機だし・・・」と能天気なヨシミツ。

かたやシズコは「6機で一斉にペイント弾を打ち込めばビックリして逃げるでしょ!」と、まるでドッキリ企画的な考えである。

そこへ「相手は2機です!」とバージルの叫び声。

レーダーを確認すると1機だと思っていた機影がふたつに割れている。

どうやら俺の楽観視は空振りの様相を呈してきた。

「ちょっとこれ、ヤバいんじゃない?」とナタリーの声で不安に拍車がかかる。

しかも俺たちが6機で向かっているにも関わらず、相手はひるむ様子など全くない。

それどころか、さらにスピードを上げ始めた。

「おい!俺たちの間に飛び込んで来るぞ!」とタカシの声。

相手は瞬く間に近づいてきて、視認できたと思ったら、あっという間に俺たちをかすめて後方へと飛び去っていった。

「まずい!追いかけるぞ!」と俺。

機体を反転させアフターバーナーに点火して、猛スピードで怪しい機体を追いかける。

「機体の国籍や識別番号は確認できたか?!」とタカシ。

「いや、何も書いてなかったと思う」と俺。

シズコが「たった2機なのに、どうやって空母打撃群を攻撃するつもりなの?」と驚くと、「相手が持ってるのは通常兵器だけとは限りませんよ!」とヨシミツは恐ろしい事を言う。

「まさか大量破壊兵器?!」と慌ててバージル。

するとナタリーが「それなら2機でも納得できるわね」と更に恐ろしい事を言っている。

何とか国籍不明機に追いつき、程なくAIM-9 サイドワインダーの射程圏内に入った。

試しにロックオンしてみる。

が、相手の反応は全くない。

当たり前だがロックオンしても発射するミサイルがないので、相手に足元を見られているようでもある。

タカシも俺と同様にロックオンする。

しかし反応はゼロである。

そこへ僕も私もと、ヨシミツ、シズコが次々とロックオン。

すると相手は2機とも反転して、俺たちの左方向へと旋回し始めた。

「しめた!」と俺。

「タカシとシズコは後ろの機体を追え!俺とヨシミツは前の機体を追う!」と指示を出し、バージルとナタリーへは各自援護に廻るよう命じる。

そこへ「こいつら何も武装してないぜ!」と相手の機体を確認してタカシ。

俺は「ウェポンベイに何か隠し持ってるステルス機かもしれないぞ!」とタカシに注意を促す。

ウェポンベイとはミサイルなどの武装を機体内部に格納するためのスペースである。

俺たちのF-15は主翼や胴体などに武装をぶら下げる外部搭載であるが、ウェポンベイのような内部搭載はステルス性が増したり、空力抵抗が減るため外部搭載に比べてパフォーマンスが向上するなどの利点がある。

そこへ「キャッ!」とシズコの声。

「あっという間に相手に後ろを取られちゃった〜」と、相変わらず全く危機感のないような言い方で驚いている。

見ると相手がシズコの真後ろにピッタリと食らいついている。

タカシが「あの動きはやっぱり第5世代か?」と相手の機体を見て驚愕。

第5世代とは第5世代戦闘機の事である。

俺たちのF-15は第4世代戦闘機に分類されており、それにステルス性とセンサー能力などを向上させたのが第5世代戦闘機である。

相手の機体はSu-57に酷似しているので多分第5世代戦闘機だろう。

その時「うわっ!撃ってきた!」とシズコ。

見るとシズコの後ろに食らいついている第5世代が、シズコに向けてバルカン砲を撃ち始めた。

「シズコ!持ちこたえろ!すぐに援護する!」と言いながら俺はシズコを狙う第5世代を追い始める。

「もう1機も好戦状態だぜ!」とタカシ。

タカシの後ろにも第5世代がピタリと張りついた。

「一体どうするんですか?僕たちペイント弾しか持ってませんけど!」と半泣きでヨシミツ。

俺はふとある事を思い出し「ペイント弾を相手のエアインテークにぶち込むしか方法はないな」と、ひとり呟く。

エアインテークとは航空機のエンジンへの空気を取り込む吸気口である。

以前、バージルと対戦訓練をした時にバージルがペイント弾をエアインテークから吸い込んで、大変な事になった。

俺の呟きを聞いたシズコが「あの時のバージルの事故みたいな方法で?」とナイスな返答。

それを聞いたタカシとヨシミツが揃って「あの時のバージル?」と首を捻ったような言い方をする。

何故ならばタカシとヨシミツは、以前ジョージ・ワシントンで起きたバージルの事故の事は知らないのである。

そんなタカシとヨシミツに、シズコはバルカン砲を回避しながらの極限状態にも関わらず、バカ丁寧にあの時のバージルの事故の経緯を説明している。

シズコの説明を聞いたタカシが「もうそれしか方法はないな」と妙に納得した言い方。

そこへナタリーが「じゃあ、この作戦はどんな名前にする?」と超忙しい中で余計なひと言。

それを聞いたヨシミツが「あの時のバージルだから、アントキノバージル作戦にしましょうよ!」と、またまた余計なひと言。

シズコがバルカン砲を避けながら「アントキノバージルって超ウケるし〜」と嬉々としている。

そんな当事者のバージルは「ヨシミツとシズコちゃん!もう勘弁してよ〜、それは僕の黒歴史なんだから〜」と半泣き状態になった。

そこへ「メーデー!メーデー!被弾した!」と言う叫び声。

見るとナタリーの右エンジンから黒煙が噴き出ている。

どうやらタカシを狙っていた第5世代が、油断していたナタリーに発砲したらしい。

それがたまたま右エンジンに当たったようである。

「ナタリー!戦闘空域から離脱しろ!」と大声で俺。

続けて「ヨシミツ!ナタリーを援護しろ!」とナタリーを撃った第5世代を目で追いながら指示を出す。

ヨシミツは「了解!」と言ったあとに少し間を置いて「でも、どうやって?」と?マーク満載の言い方。

言われてみれば「?」である。

俺たちはペイント弾しか装填しておらず援護しようにも、どうして良いかわからない。

俺は少し焦って「とりあえずナタリーをひとりにするな!」とヨシミツに指示。

そしてシズコを執拗に追いかけ回している第5世代に、いよいよ仕掛ける事にする。

「シズコ!左に旋回しろ!」と俺。

それを聞いて「了解!」とシズコ。

左に旋回したシズコを見ながら俺は右に旋回し、シズコの正面に回り込む。

そしてシズコの頭上をかすめるように第5世代へ向けてペイント弾を発射。

それと同時に相手が放った赤い閃光が、シズコを追い越して俺のコクピットをかすめていく。

じわっと噴き出る嫌な感じの冷や汗。

俺に当たるか外れるかは、全て運任せである。

俺の放ったペイント弾も相手には当たらず、そのまま至近距離ですれ違う。

「おい!こちらを狙ってみろ!」とタカシの声。

見るとタカシが踵を返して反転し、俺の方へと向かってくる。

「僕も援護します!」とバージル。

俺の右斜め後ろにピッタリとつく。

タカシの後ろにはナタリーを被弾させた第5世代が張り付いている。

「バージル!右から突っ込め!俺は左から行く!」と指示。

「了解!」と言いながらバージルは右へと軽く旋回しタカシの左側に回り込んで行く。

相手の第5世代は俺たちが非武装でペイント弾しか持っていないのを察知したのか、それを嘲笑うように動きを一瞬止めた。

そしてそれがヤツの命取りになった。

バージルがタカシとのすれ違いざまにヤツの正面からペイント弾を発射。

それと同時にバージルの逆サイドからも俺がペイント弾を発射。

「ガスン!!ドン!!」と鈍い音。

バージルの放ったペイント弾が見事ヤツの左側エアインテークへと吸い込まれた。

そして俺のペイント弾もヤツのコクピットに思い切り命中。

その後、ヤツと至近距離ですれ違い後ろを振り向く。

見ると左エンジンから赤い炎が噴き出ている。

「やったぁ〜!これで名誉挽回だぁ〜!」と嬉々としてバージル。

エンジンを1基失った第5世代は急に動きが鈍くなる。

そこへシズコが「ここでとどめだぁ〜!」と、もう1機の第5世代を後ろに引き連れて、ペイント弾で被弾したヤツの正面へと回り込む。

そしてそのまま正面からペイント弾を発射。

「ドン!」と鈍い音。

シズコの放ったペイント弾はヤツの右側エアインテークへと吸い込まれてエンジンが爆発した。

ヤツは全ての推力を失った挙句、キャノピーにへばり付いたペイント弾の塗料で視界もままならないだろう。

コントロールを失ったヤツとシズコを追っている第5世代との間には、シズコの機体が間に入り、第5世代にはコントロールを失ったヤツの機体が確認できないはずである。

そこへシズコが急旋回。

目の前に急に現れたヤツの機体を第5世代は避けきれず、そのまま正面衝突した。

第5世代戦闘機の2機は爆発炎上しながら海へと落下していく。

バラバラになっていく機体からはパイロットが脱出した様子が確認できなかった。

「トッ!トップガン帰りのシズコちゃんは、やっ!やっぱり凄いな!」と驚いてバージル。

トップガンに関わらず、空に上がったシズコは敵なしである。

しかし一旦地上に降りれば、これほど手のかかる小娘はいないのだが・・・

と、その時、急に俺の視界へ海軍のヘリコプターが入ってきた。

聞くと空中戦の一部始終を3機のヘリコプターで撮影していたらしい。

俺は第5世代との戦闘に夢中で全く気付かなかったが、タカシだけは気付いていたらしく、いつ戦闘に巻き込まれないか気が気でなかったと言う。

「ペイント弾だけで第5世代戦闘機を2機も撃墜するなんて、さすがですね!」とヘリコプターの搭乗員。

俺は「今回はシズコがMVPだな」とシズコを称賛すると「たいちょーとハギワラさんやバージルのおかげだよ〜」と、珍しくシズコは謙遜。

そこへ「もしかして僕たちの事、思い切り忘れてませんか〜?」とヨシミツの声。

俺はふと我に返り、ナタリーは無事なのかヨシミツに聞いてみる。

ヨシミツは、ふてくされた言い方で「丁重にジョージ・ワシントンまで送り届けましたが何か?・・・」と俺に報告。

ヨシミツは今回、自分の活躍の場が少なかったのが気に食わないらしい。

俺はナタリーのエスコートはお前にしか似合わないなどとヨシミツを持ち上げ、日本に帰ったらガストのサーロインステーキを、たらふくご馳走してやると約束したら、案の定、単純なヨシミツは、それですっかり機嫌が治ってしまった。

無事に任務完了した事をジョージ・ワシントンに連絡し、これから全機帰投する旨を伝える。

ナタリーを除いた俺たち5機は、空母打撃群に向けて緩やかに旋回を開始した。


程なく全機ジョージ・ワシントンへと帰投し、乗組員からは盛大な凱旋歓迎を受ける。

まさしくトップガンでのエンディングの様相にシズコは大興奮だ。

ヨシミツはプロ野球で優勝した時みたいな胴上げをされて、ドヤ顔絶好調である。

そこへナタリーが走り込んできて、俺にタックルするように抱きついてきた。

「おっ!おい!だっ!大丈夫だったかい?」と妙に慌てる俺。

ナタリーは顔を上げて「テツヤ、今回の旅は本当に疲れたわ・・・」とひとこと言って大笑い。

それに釣られて俺も大笑いとなり、俺に釣られて皆も大笑いとなった。

「ワハハ!ギャハハ!」と笑っていると、ハワード提督がデッキに参上し、さらに大盛り上がりとなる。

「君たちには不可能という言葉は、ないみたいだねえ」と、いつも無理難題を提案してくるハワード提督。

手のひらを上に向けて両手を広げ、あきれたというようなジェスチャーをしてみせる。

「これから君たちの凱旋パーティーだな」とハワード提督。

それを聞いて「じゃあ、今度は二人ともチャイナドレスで決めてみる?」とシズコに目配せしてナタリー。

それを聞いて男衆らは、さらに大盛り上がりとなった。


「うわっ!マジかよ!」「なんでこんな動きができるんだ?」などと次々上がる声。

パイロットのブリーフィングルームでは、先ほど撮影した俺たちと第5世代との空戦の模様の映像が再生されている。

その中でも称賛されていたのは何とバージルである。

ジョージ・ワシントンに乗艦していた時は、さほど頭角を表さなかったが、今回のバージルの映像を見て他のパイロット達は一様に驚いている。

何故ならばペイント弾を敵の正面から相手のエアインテークへピンポイントで打ち込む事など、並の芸当では到底不可能だからである。

そんな映像を見て「俺もスカイウォーカーダイジュへ行くと、あのようになれるのかなぁ?」などと言う者や「テツヤさん!俺を弟子にして下さい!」と頼み込んで来る者など、ブリーフィングルームは騒然となってしまった。

そこへ「ここは就職説明会ではないぞ!」と言う声。

声のした方を見ると何とジャックが、相変わらずのニヤけた表情で立っていた。

「おっ!お前・・・ここで何やってんの?」と驚いて俺。

ジャックはその言葉を聞いて「ずいぶんな挨拶だなテツヤ」とふてくされた言い方。

聞くと、ジャックは先ほどジョージ・ワシントンに到着したとかで、これから俺たちに同行して中野基地などを視察するとの事。

「これは全てアメリカ大統領令なので、よろしく!」とジャックはドヤ顔。

そして案の定シズコが飛んできて「ジャックさんが来てくれるなんて超うれピー!」と言うと、「シズコちゃんとまた会えるなんて、楽し〜ピョーン!」と、ウサギが飛び跳ねるような仕草でジャック。

こいつらのバカップルぶりは既に伝説の域に達している。

それを見て唖然となったパイロットたちのケアに俺とタカシは大忙しとなった。


「たいちょーどう?」とシズコ。

「テツヤ、私に惚れたら犯罪よ!」とナタリー。

凱旋パーティーの会場へ行く道すがら、チャイナドレスに着替えたシズコとナタリーが、妖艶な言い方で俺に話しかける。

シズコのチャイナドレス姿は以前のジョージ・ワシントンで見た覚えがあるが、ナタリーのチャイナドレス姿は初めてである。

さすが、パリコレモデル級の美女だけあって、ナタリーのチャイナドレス姿は圧巻だ。

まるでファッション誌から抜け出てきたような雰囲気を醸し出している。

シズコもいい感じで着こなしてはいるが、ナタリーと比べると、まだあどけなさが残っている感じがする。

深く切り込まれたスリットから生足を出して俺やタカシにアピールするも、ナタリーと比べたらまるで中学生である。

だが、そんなシズコをジャックは大絶賛。

「ブラボー!」「超セクシー!」などとシズコを思い切り持ち上げている。

それを聞いてシズコもまんざらではないようで、流し目で俺を見てドヤ顔だ。

これからしばらくの間は、ジャックにシズコのお守りを任せそうで、俺は正直ホッとした。

ドアを開けてパーティー会場である大食堂へと入る。

入口では相変わらずのサミーがクシャクシャの笑顔で俺たちを出迎えた。

「今日は楽しくやろうぜ!」とサミー。

「わーはっはっは!」と豪快な笑い声を上げながら、俺たちを食堂の奥へと案内していく。

奥にはハワード提督をはじめ、空母打撃群の艦長らが一堂に勢揃いしている。

身分不相応な感じの接待に俺とタカシは恐縮し、ヨシミツに至っては完全に目が死んでいる。

サミーにせがんで、お姫様抱っこをしてもらっていたシズコが床に降ろされ食堂に向き直ると、俺たちに向かって割れんばかりの拍手が沸き起こった。

まるでスターウォーズエピソード4のエンディングである。

その後は空母とは思えぬ豪勢な食事が振る舞われて、俺は我を忘れて食べまくる。

普段はミユキにカロリー制限をされて食事量をコントロールされているが、この旅では完全にリミッターを解除している。

日本に帰ってからのミユキによる体重測定が少し気にはなるが・・・

食事もあらかた終了し、皆との記念撮影に応じていると「そろそろ時間だぞ!」と言うジャックの声。

時計を見るとちょうど昼の1時を回ったところである。

名残惜しいが今日は日本に帰る日であるためパーティーでもビールが飲めず、俺は少し不完全燃焼気味である。

オバQ号と共に空母のデッキへと上がり発艦の準備を始める。

各カタパルトではヨシミツ&シズコとバージル&ナタリーが既に発艦準備完了のようだ。

被弾したナタリーの機体は致命傷には至らず、とりあえずの応急措置が施されている。

万が一洋上で故障となれば、以前燃料切れしたシズコのように皆で交代して牽引していけば良いだけの事である。

ジョージ・ワシントンのカタパルトは4基あるので、ヨシミツたちがそれぞれ発艦した後、俺とタカシとジャックが発艦する手筈となっている。

シズコがサミーとの別れにまたもや大泣きとなっており、バージルとナタリーはそれぞれ同僚らとの別れを惜しんでいる。

それに引き換えヨシミツは知り合いが誰もいないため、ひとりポツンと放心状態だ。

そんなヨシミツを見かねたのか、ひとりのクルーがヨシミツに近寄り、何やら物を手渡している。

手渡された物を手に取り大喜びでクルーに何度も頭を下げるヨシミツ。

もらったものをいとも大事そうに仕舞い込んでいる。

雰囲気からして相当高価なものかと思われるが、後でこっそり聞いてみようと思う。

各カタパルトにジェット・ブラスト・ディフレクターが立ち上がり、いよいよ発艦直近となる。

ジェット・ブラスト・ディフレクターとはカタパルト後方に立ち上がる板状の物で、ジェットエンジンの噴射によって発せられる爆風から、後続の艦載機や後方のデッキクルーを熱や爆風から守るための装置である。

各機アフターバーナー全開となり、まずはヨシミツが発艦。

続いてシズコ。

そしてバージルとナタリーが発艦し、俺とタカシが艦首のカタパルトへと誘導される。

F-18に乗っているジャックは空母左舷のカタパルトへと向かっている。

艦首左側のカタパルトに誘導され、デッキクルーが俺のオバQ号の発艦の準備をしていく。

離陸担当のサミーは最近昇進したらしく、デッキでの管理が担当になったようだ。

そんなサミーに今度、中野基地へ遊びに来るように言うと、真っ白な歯を剥き出しにして笑いながらうなずいた。

キャノピーを閉めアフターバーナー全開にする。

隣のカタパルトに装着されたタカシも射出間近である。

離陸OKの合図を出すと、デッキクルーが射出の合図を出し、間髪入れずに俺のF-15が前方へと打ち出された。

瞬く間に時速250Kmへ到達し、軽い衝撃を受けてカタパルトから離脱。

そしてランディングギアを格納後、操縦桿を軽く引いて高度を上げていく。

その後、タカシとジャックも無事に発艦し、俺のあとを追いかけてくるのが見える。

「たいちょー!早く来ないと置いてきますよ!」と前を飛んでいるシズコ。

ヨシミツは「僕、いい物もらったしー」と何故か得意げに話している。

俺は何をもらったのか聞こうとしたら「レッドブルのエナジードリンクもらったもんね〜!」と自慢げにヨシミツ。

皆にドヤろうとしたが全員全く興味なく、速攻で撃沈した。

そんなヨシミツを哀れんで、ひとりクスクス笑っていると、「帰りに寿司でも摘んでいかねえか?」と急にタカシ。

俺は昼飯を目一杯食ったばかりなので断ろうとしたが、東京の築地に美味い寿司屋があるらしいとタカシ。

タカシは食通であるが、俺と違って一度に腹一杯食べるような事はしない。

どちらかと言えば食が細く、美味い物を小鳥のように少しずつ啄ばむといった感じだ。

そんなやりとりを聞いていたシズコが「私、吉野家の牛丼が食べたい!」と急に無線に割り込んできた。

そこへ「私一度も吉野家の牛丼を食べた事ないなぁ〜」とナタリーは余計なひと言。

それを聞いたバージルが「吉野家なら確か羽田のターミナルビルにあったと思いますけど・・・」と更に余計なひと言。

その時ジャックが「吉野家なら、俺が挨拶代わりにご馳走するよ」と吉牛確定にリーチ。

そして「築地は羽田から少し離れているから、今回は吉牛にするか!」とタカシが吉牛に決定した。

「半熟玉子とお新香と豚汁も付けて下さいね!」とジャックに向かって卑しいヨシミツ。

「私、ポテトサラダとキムチが欲しいな〜」と続けてシズコ。

「俺は生ビールと冷酒がいいなぁ〜」と、さりげなく言うと「中野基地に着いたら、お前の好きなマティーニを作ってやるから我慢しろ!」とジャック。

ジャックはカクテル作りの天才でもあるので、ジャックのマティーニを思い浮かべたら思わず喉がゴクリと鳴った。

スラストレバーを倒して出力を上げ、前を飛んでいる4機を追いかける。

見渡す限り何もない太平洋の洋上でヨシミツとシズコ、そしてバージルとナタリーの機体が太陽の光を反射して、眩しいくらいにキラキラと光り輝いていた。

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とある空の真ん中で 赤坂 みにる @akasakaminiru

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