第196話 もりのかじやさん その3。
お待たせしてしまい申し訳ありませんm(__)m
投票に行った際に長距離あるかされてお腰様に入ったダメージが思いの外デカかったのですよ……
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火の粉が飛び散る。鉄板を重ね伸ばしているだけでもやはり細かい鉄粉は飛ぶ。
今使っている槌は前の村を出る前に作った物で、柄木も同時期に削り出した物で期間的にはまだ半年と少ししか使用していない。
その為まだまだ手に馴染んでいるとは言い難い。
少年の身体が成長期でまだ槌に追いついていないと言うのもあるが、純粋に材質が違うし高スキルに物を言わせて作った物にはどうしても劣る。
また柄木の材質の違いにどうも馴染まない。前の村でマクエル達が持ってきた丸太を解体した物を使っているのだが、オークに類する木であったらしく柄木としては悪くはない。悪くはないがやはりゲームで再現されていた日本の樫材に比べれば目の積みが悪い。
木目が詰んでいない為に鉄を叩いた時に返って来る振動がどうしても強い。体が出来ていれば筋肉で無理矢理抑え付けたり、技術で振動を逃がしたりも出来るが未成熟な体の今では流石にそうもいかない。
その辺りの違いが体に負担となって返って来る。
『自分で作った物だから、借り物の道具よりは断然良い。それでも大物(この場合は重要な物の意味)打ちの時はやはり道具の差を実感してしまうな……』
真っ赤に焼けた鉄板を叩いて伸ばし、挟み込んだ鉄と覆った鉄の厚みを均一にしながらも幅も整えると言う、神経を使う打ち延ばしをしながらクリンは内心思う。
折角自分で作った道具で、離れた所にいるロティが感嘆の声を漏らす程の手際で打ち延ばせていても、どうしてもそう言う細かい所が気になってしまって仕方ない。
『いっその事、獣脂でも摺り込んで馴染ませるか……いや、それもそれで時間がかかる……ああ、どこかにオッサンが居ないかな。小人に居てもやっぱり小さいしねぇ』
「クゥ~ン……」
「…………」
どこからか鳴き声が聞こえたがクリンは取り敢えず気にしない事にする。
誰かに頭の中を覗かれていたのなら「何考えてるんだコイツ」と思われそうだが、男性の、特に三十代後半から五十代前半辺りまでの男盛りの年齢の人間から分泌される油と言うのはコーティング剤としてかなり上質だったりする。
事実、木工や陶芸の世界ではその年代の人間が作って毎日撫でている様な物は、特に質が良くなるとして好まれている。
大工道具なども新品よりも経験者の中古品が好まれるのも、その歳頃の男性の油が柄等にしみ込んでいて柄木などの質が上がっているからだ。
以前の村で道具の性能的にはクリンが自ら作った槌よりも質の劣るハンマーを使い続けても殆どクリンが不満を持たなかったのも前任の鍛冶師が長い年月をかけて変質させた柄木の性質による所が大きい。
まぁ、言ってもそんなのが気になるのは本当に長年職人をして来た様な人間なのだが……たかだか六歳の子供でそれが実感出来たりそう言う知識があったりするのは、流石HTWと言う所か。
ゲームの様に最高の素材だけで道具が作れると言う方が本来あり得ないので、現実であるのならこう言う不便さも織り込み済みで作業しなければいけないのだろう、とクリンは内心で思いながら、鍛造で温度が下がったナイフを炉に戻す。
「でもまぁ、体に負担がかかる事は確かかな……あとでちゃんとケアはした方が良いかな」
と、炉内の火力を調整しながら独り言ちる。
「クフゥ~ン」
再び背後から、愁いを含んだような鳴き声が聞こえる。
「…………」
一瞬動きが止まるが、クリンは気にしない事にして目の前の鉄の色の変化に注視する。余り急激に再加熱しても
「キュゥ~ン……ワフゥ~ン……」
「ああもうっ! 何なんですかさっきから!!」
いい加減鬱陶しくなってきたので、久々のアクセルベタ踏みモードになりかかって振り向くと——ドヤ顔でお座りしているボフン——もとい、改名したばかりのミスト・ウィンドと、頭にロティを乗せたままそこはかとなく背中が煤けているバウンが目に入る。
「……激しく嫌な予感がしますが……一応聞きましょうか」
精霊獣様を通り越して頭上に鎮座する小人族に問いかける。どうせ言葉は判らないので翻訳の必要が在るので手間を省いた形だ。
「あのですね……『アイツだけズルい、自分もカッコいい名前が欲しい』と……」
「バフンッ!」
「だよね、流れ的に何となく判っていたよっ! と言うか好きに名乗れば良いのでは?」
鍛冶の最中であり対応が雑になっている自覚があったが、元から作業中のクリンはこんな物だ。優先順位は作業に軍配が上がるのは当然と言う物。
だがそれでは納得しない者が一人。いや一匹。
「バフンッ! バウバフフンッ!」
「ええと……『前に自分の事をアッカインメーと呼んでいたけど、それが何かわからないので名乗れない』だそうです」
「アッカインメー? はて……ああ、もしかして『赤い目』ですか?」
「バフン!」
「『そう、それ!』 と言っています」
「ああこれもウッカリと日本語で話していましたね。コチラだとレッド・アイと言った所ですか……でもちょっとストレート過ぎません? どうせならダイアモンド……では無いな、うん。目から光線出そうだし。ルビー・アイとか……いや、それだとハムスターか」
「バウン! グルルルル……バフッ!」
「『レッド・アイが良い! ハムの星が何かわからないけどなんかダサい! 今から自分の事はレッド・アイと呼ぶ事を要求する!』だそうです」
「うわぁ……何か色々嫌な方に進んでいる気がする……って、そんな事をしている暇は無い! ああもう、それでいいです! レッド・アイ、カッコいいですねっ!」
炉の中の鉄が丁度良い加熱加減になっており、クリンの意識は既に鉄に向かってしまっていてかなりおざなりに対応してしまう。してしまった。
こうして異世界にレッド・アイとミスト・ウィンドと言う、色々怒られそうな名前の精霊獣が誕生したのだが——少年にとっては既に意識の外だ。
何せこれから切先の形成に入る所だ。刃物の鍛造で一番神経を使う所だ。ここの形状の出来次第では修正不可能になりかねない工程である。
切れ味を左右するのは勿論だが全体の仕上がりとして切先の形状が刃物としての印象を決定づけると言っても良い。
余計な事を気にしている余裕などない。クリンは自作の槌を握りしめてオーラコートを発動させながら、全神経を集中させるのだった。
それから四日後。ナイフ作りはまだ継続中である。前回の作業で刃先の成形と焼きなましまで済ませてあり、今日から行うのは冷間鍛造——ノコギリ作りの時にも行った
因みに何で四日も間が空いているかと言うと、当然の様に筋肉痛になった為である。六歳で魔力回復薬(MPポーション)をがぶ飲みしながら鍛造などと言う無茶をすれば当たり前の話である。
自作抗炎症剤とオーラコート 《回復促進》を使って回復を早めても尚二日間寝込んでいたのだが、コレまでと違い小人族と精霊獣達が側に居た為にあまり生活に支障をきたさなかったのは有難かった。
有難かったのだが、筋肉痛で動けない少年の介護と称して多くの小人族が押しかけてきていた。流石にクリンにも魂胆が透けて見えていたのだが、話し相手となる者達が居ると言うのは孤独な生活を送っていた彼にはやはり有難い物。
せがまれるままに前世の話をする。動けない少年にとっても良い暇つぶしにもなり、この世界での話術の勉強にもなると割と気楽に語って聞かせた。
やはり忍者関係の話を聞かれたのだが、アニメの忍者物の話は流石にまだ理解が追いつかないだろうと、ガマガエルを召喚して蛇と戦う古い講談の話を教えその流れでそのまま時代劇の話になり、忍者物では無いが忍者が活躍する、諸国を漫遊する権力者の爺様の話をしたらコレが思いの外ウケた。
忍者だけでなく侍や岡っ引きなどが活躍する時代劇全般の話を好む様になり、二日間で結構な量の時代劇の話をさせられている。
二日である程度筋肉痛は収まったのだが何日も森に籠りっぱなしと言うのも問題なので、テオドラの所に顔を出したり市場を巡って食料品の買いだしなどをする必要もあった。
そして四日目にしてようやく作業を再開させれれる運びになった訳だ。
「ま、また地味ぃーな作業をするだけなんだけどねっ!」
例によって明るい内でないと出来ない歪み取りの作業。新しい小振りの槌を作っていたのがここで役に立つ。
大きい槌で粗く全体を叩き締め、小さい槌でチンチンと叩いて全体の歪みを取っていく。指で歪みを探るだけでなく時折日に翳して歪みを正していく。
ただひたすら叩いては日に透かして歪みを見つけまた叩くだけの、絵面的に非常に地味だがクリンにとっては心落ち着く作業である。
その作業の最中、離れた所でドヤ顔でお座りしている二匹の精霊獣の事はなるべく見ない様にしていたのはこの際どうでも良い事である。
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大分腰が良くなったので再開します!
が、書くのが遅くなっているのは変わっていない!
暫くはやっぱり不安定になりそうです。
って書いておけば色々と入れたネタの事もスルーしてもらえるかもしれないっ!
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